《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合⑯

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 初矢(しょや)の放たれた夜のことを思い出します。酷い夜でした。『被座馬づけ』それが彼の最初の言葉でした。『は…い…』私に許される言語はその二文字に限定されていましたのでそうしました。彼は数人の高級なネックレスを纏った女性を連れています。他の男性が4人居ます。ダイヤモンドのキング。スペードのジャック。ハートのクイーン。※この方も男性でした。倶楽部のエース。そして複数名の属さぬ者と呼ばれる人たち。

 倶楽部のエースは御主人様の命令を受けて確実に任務を遂行する人のようです。彼は言いました『契約書を見させてもらった。彼の命を受けて我々は此処に集ったものである。私は倶楽部のエース。今夜の君の支配者である。異論はあるかね?』被虐的な薫(かお)り。薫製になったような気持ち。これから正に燻(いぶ)され慰撫(いぶ)さる愛玩動物の心持ち。『なにを…』私の質問に即時『君の思うとおりのことを/そして思う以上のことを。』との答え。奇妙な言語空間が広がります。驀地(まっしぐら)に飛翔する弓矢のような言葉。

 『…痛く…しないで…くだ…さい。』私の懇願に『無理な相談だな。』と一蹴。問題(イシュー)にもされない卑屈身(ひくつみ)の利権。私という楽器を弾く指先は人数✕10。きちんと揃っていました。爪の先はそれぞれの独特の形状。酷く尖ったもの。敢えてのばされたもの。透明なもの。白いもの。薄い紅色。黒ずんだもの。何故かそのようなことを鮮明に覚えています。「爪は性格(せいかく)を表す正確(せいかく)な聖火区(せいかく)」誰の言葉だったでしょうか。妙に印象に残る散文の一部であり1/3部分。

 『あ…あ…あ…っ』一斉に私に添えられる爪達は開(はだけ)け模様の狐妖(こよう)に色を付す為に存在するようでした。帆布(はんぷ)は私。数名しか男性を知らない徒花に散布(さんぷ)される毬藻花。『……あ…あ』声が漏れます。漏れるのを止める事はできません。とある指は御無体な護謨体(ごむたい)を携帯しているのです。提携先は電気の魔法瓶。震動の上下動に合わせて跳ねる魚になってしまうのを止められぬ身体が悲しい。脱がさないでください。御願い。恥ずかしい。

 先ず狙われたのは口でした。順当ですか。そうですか。『開きなよ』『早く』『その口をさ』『開けないなら』『広げてやるよ』『ほれ』口撃と攻撃の射出。鋭い入射角の命令口調。嘴(くちばし)を広げるように命じられた私はきちんとそのように致します。私はそう思いながら唇を開かされました。『出しな』『ほれ』『早く』『そして速く』次は舌を出すように命ぜられます。蛞蝓(なめくじ)のように這い回る舌先。一度でも侵入を許せば堰を切ったように次から次。席次は満員御礼札の如く。ああ。座っているのは御主人様だけでしたね。申し訳ありません。私の口は開放されるも介抱されることはなく/唾液をたくさん注がれます。『……、……、、』口を塞がれているので声は出ません。出せません。遠山さん。申し訳ありません。

 ああ。そうでしたね。もう少し経過を辿る必要もあるのかと。纏物(まといもの)について少し申し上げます。スクロールして飛ばし詠みしていただいた方が良いとも思うのですが/少々お付き合い願えますか。私は。私は。御主人様に和装で来るよう命ぜられました。与えられた黒いクレジット・カードを使って買い物を済ませました。横浜高島屋です。指定の衣服を指定の場所で指定の時間に購入しました。店員様は全てお見通しの様子で『それでしたらどうぞ此方へ』と裏手に通してくれました。射抜目(いぬきめ)で労働者階級を高見するような目でした。一寸。嫌。凄く怖く感じました。獲物になったような気分。そんな一幕の話です。つまらないでしょ。

 スペードのジャックは切り裂くのが上手な人。折角の綺麗な和服。成人式以来の綺麗な和服は銀色のペガサスに切り裂かれ/シザーハンズが私という肉(バンズ)を露(あらわ)にするのです。『…嗚呼。…はず…か…し、、い』私には発言権はありません。『だろうな。』冷たく告げられた言葉。広い部屋を飾る人物画がその瞳で追いかけてくるように感じました。首に接触する銀色の異物の感覚。『…駄……目』奇怪な身体と一体化した鋏の冷たさを感じます。でも。でも。でもね。少し…。少し…。何といいますか初めて自覚する感覚の萌芽(ほうが)。Sであるのが彼等の本質なら私はその反対に属する方が自然。ああ。ああ。唇に押し込まれたのは氣の抜けた炭酸水よりも窒素分圧が高いのでしょう。あの。その。えっと。頭が上手く回転しないようになってまいりました。身長の高いあの潜水士様が言っていた「窒素酔い」のような症状。ああ。嬲り初夜は酸欠の部屋。当時の酸素分圧は19%でったと後に種明かしをして頂きました。この時の私は理解出来ていません。当然ながら。

 苦肉索(くにくのさく)が肉を揺さぶります。秘密索(ひみつのさく)が魂を攫います。『心身一如』なんて軽々しく言わないでください。『身体と心の入れ物は別物である』なんて意味深なことを言わないでください。耳朶を噛まないでください。遠山さん。御願い。御願い。

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