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美姫の場合
美姫の場合⑦
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軽やかな風が吹く。武蔵野台地に軽やかな風が吹く。突然の風は無垢な乙女の裾野を攫う。男児を昂らせ楽車(だんじり)と地車(だんじり)で韻を踏む陰の執筆者の脳内をおおいに笑うように風が吹く。時に/美姫の人生における最重要情報はいとも簡単に御主人様のものとなり/彼女は掌上(しゅじょう)で私情(しじょう)を認められない演舞を強要されることとなった。
冬に降った雪の数を数えると,あれからもう何年も経過したような気がすると彼女は思う。春の桜見の思い出を基点にすれば,一瞬のような気もすると彼女は反芻する。秋の紅葉に対する高揚を思えば永遠の緊縛であると邂逅できる。夏の暑さを思えば全身に蝋燭責めの火照りが蘇り/精神錠と契約文句が如何に強力であったかを識る。心と身体のミスマッチを感じる日々変遷。時と空間の概念は歪みきっており熟慮の対象線と対照栓上に在る。
呼出に怯える日々が続く。身体接触(コンタクト)の名残りは何時も彼女の隅々まで縦横無尽に走行する。特に擦(こす)れた縄目が消えるには随分な時間を要するのに気づく。忖度(そんたく)と視線折衝(アイコンタクト)は平行四辺形の上端と下端にあり交わる事を求めない。協力体制が構築されていないという訳だ。美姫は「あんなこと」や「こんなこと」や「そんなこと」をされた記憶に支配され/ナイーブなナイフで刻まれた身体は夜鳴烏に似たり。
間髪の応答を求める御主人様。着信の時間から応答までは短ければ短い程良いと告げられた彼女。不在着信になる事は許されない。そんな甘い主人ではない。契約にははっきりと『私からの着信には何時でも応じること。なお、本条項は春夏秋冬、朝昼晩を問わずに永続的に継続するものである。且つ、前条第2項3のただし書きの規定を準用するものである。』
憲法前文よりも美しい見事な契約書に右手人差指の印を押す。涙が二筋流れる。右目からは最初の情事で感じた悲しみに似た粒達。左目からは未来を想像し/これからの生活を想像しながら流れる/諦め又は明(あき)ら目(め)に似た混濁色の涙。
一度だけ彼からの着信に出られなかったことがある。留守番電話に繋がってしまった秘匿の着信(コール)と汗まみれになる全ての穴(ホール)。『そんな設定はしていなかったのですが…』と彼女は申し開きをしたが『はい』以外の発言を許されぬ彼女の発言は意味をなさない。その夜の責めは酷いものだった。
件のタワーマンションの地階は基本的に無窓階(むそうかい)で無造作且つ意味不明な№の部屋が並んでいる。幾つもの欲望に根ざした部屋があり上層階と同じ背丈の地下階層が広がっている。松/桧/杉の順に強い樹木を思い浮かべて頂きたい。そしてそれらは樹木上部と同当分の根を伸ばしている事を思い出して頂きたい。上部は無双原理の陽であり下部は同原理の陰。対極図の交わり部分がエントランス・ホールであるという訳だ。
おんぼろのトラックを運転する高貴な運転者:『お届け物です。』『おや、333を押しても反応がないな。留守か…。嫌。違うな。そうか。最初にマイナスナンバーをつけなければいけないという訳だな。何となく理解る気がする。不思議なもんだ。』『マイナス…3、3、3と。』『お届け物です。海外からです。判子は不要です。こんな御時世ですから。嗚呼。ご心配なさらずに。両手とも消毒はしておりますとも。御覧ください。ほとんどなくなってしまった両手の指先を。』
綺麗で俊敏な海外性のトラックはドリフティングでやってくる。:『お届け物です。』『333号室の方ーーー。聞こえますか?お届け物です。』『不審者だとでも思われているのですか。私は国家1種の配達士ですぞ。免許もほら/このとおり。』『美姫さんとしか書いていない荷物が手元に在るんです。此れをお届けするのが今日の唯一の仕事なんです。聞こえていますか。』『返事がないならここに置いていきますよ。それでもいいのですか。私は知っているんです。箱の中身も。貴女の情報も。旦那様だった男の不手際も。現在の状況も。』『中身がこんなものであることを大袈裟な声で叫んでも構わないのですよ。いいのですか。』『中身の一部。つまり持ち手の部分を少し出して貴女専用であることと/貴女の名前を書いて此処に置いていきましょうか。それでもよいのですか?』
屋上に鎮座したプロペラを持つ機械が東に飛び立ち/西に帰り同箇所の夕焼けに鎮座する。市営紙幣(しえいしへい)と国営紙幣(こくえいしへい)が撒かれるのを見る市民一座。その紙を手にとり焼鳥屋で一杯やる時にでも見てくれればいい。話の種にでもしてくれればいい。内容の理不尽さと一人の和服女性の美しさ/つまり数か月前の緊縛美に酔いしれてくれるといい。次女の事情は込み入っているんでな。三女の惨状はこのようなものであるのでな。同女性はBLINDFOLDEDでありTIEDでありON BDSMであり不自由を楽しんでいるんだよ/と/言いふらして構わない。どうせ情報は掌の中で自由自在に性質を変えるものだよ。曲げたり。撚ったり。弾ませたり撫でたりすれば融通無碍さ。契約書の一端と美しい女性の緊縛美で勃起加減を確かめてみればいい。潜在意識に発芽する種を否定しないで欲しい。
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軽やかな風が吹く。武蔵野台地に軽やかな風が吹く。突然の風は無垢な乙女の裾野を攫う。男児を昂らせ楽車(だんじり)と地車(だんじり)で韻を踏む陰の執筆者の脳内をおおいに笑うように風が吹く。時に/美姫の人生における最重要情報はいとも簡単に御主人様のものとなり/彼女は掌上(しゅじょう)で私情(しじょう)を認められない演舞を強要されることとなった。
冬に降った雪の数を数えると,あれからもう何年も経過したような気がすると彼女は思う。春の桜見の思い出を基点にすれば,一瞬のような気もすると彼女は反芻する。秋の紅葉に対する高揚を思えば永遠の緊縛であると邂逅できる。夏の暑さを思えば全身に蝋燭責めの火照りが蘇り/精神錠と契約文句が如何に強力であったかを識る。心と身体のミスマッチを感じる日々変遷。時と空間の概念は歪みきっており熟慮の対象線と対照栓上に在る。
呼出に怯える日々が続く。身体接触(コンタクト)の名残りは何時も彼女の隅々まで縦横無尽に走行する。特に擦(こす)れた縄目が消えるには随分な時間を要するのに気づく。忖度(そんたく)と視線折衝(アイコンタクト)は平行四辺形の上端と下端にあり交わる事を求めない。協力体制が構築されていないという訳だ。美姫は「あんなこと」や「こんなこと」や「そんなこと」をされた記憶に支配され/ナイーブなナイフで刻まれた身体は夜鳴烏に似たり。
間髪の応答を求める御主人様。着信の時間から応答までは短ければ短い程良いと告げられた彼女。不在着信になる事は許されない。そんな甘い主人ではない。契約にははっきりと『私からの着信には何時でも応じること。なお、本条項は春夏秋冬、朝昼晩を問わずに永続的に継続するものである。且つ、前条第2項3のただし書きの規定を準用するものである。』
憲法前文よりも美しい見事な契約書に右手人差指の印を押す。涙が二筋流れる。右目からは最初の情事で感じた悲しみに似た粒達。左目からは未来を想像し/これからの生活を想像しながら流れる/諦め又は明(あき)ら目(め)に似た混濁色の涙。
一度だけ彼からの着信に出られなかったことがある。留守番電話に繋がってしまった秘匿の着信(コール)と汗まみれになる全ての穴(ホール)。『そんな設定はしていなかったのですが…』と彼女は申し開きをしたが『はい』以外の発言を許されぬ彼女の発言は意味をなさない。その夜の責めは酷いものだった。
件のタワーマンションの地階は基本的に無窓階(むそうかい)で無造作且つ意味不明な№の部屋が並んでいる。幾つもの欲望に根ざした部屋があり上層階と同じ背丈の地下階層が広がっている。松/桧/杉の順に強い樹木を思い浮かべて頂きたい。そしてそれらは樹木上部と同当分の根を伸ばしている事を思い出して頂きたい。上部は無双原理の陽であり下部は同原理の陰。対極図の交わり部分がエントランス・ホールであるという訳だ。
おんぼろのトラックを運転する高貴な運転者:『お届け物です。』『おや、333を押しても反応がないな。留守か…。嫌。違うな。そうか。最初にマイナスナンバーをつけなければいけないという訳だな。何となく理解る気がする。不思議なもんだ。』『マイナス…3、3、3と。』『お届け物です。海外からです。判子は不要です。こんな御時世ですから。嗚呼。ご心配なさらずに。両手とも消毒はしておりますとも。御覧ください。ほとんどなくなってしまった両手の指先を。』
綺麗で俊敏な海外性のトラックはドリフティングでやってくる。:『お届け物です。』『333号室の方ーーー。聞こえますか?お届け物です。』『不審者だとでも思われているのですか。私は国家1種の配達士ですぞ。免許もほら/このとおり。』『美姫さんとしか書いていない荷物が手元に在るんです。此れをお届けするのが今日の唯一の仕事なんです。聞こえていますか。』『返事がないならここに置いていきますよ。それでもいいのですか。私は知っているんです。箱の中身も。貴女の情報も。旦那様だった男の不手際も。現在の状況も。』『中身がこんなものであることを大袈裟な声で叫んでも構わないのですよ。いいのですか。』『中身の一部。つまり持ち手の部分を少し出して貴女専用であることと/貴女の名前を書いて此処に置いていきましょうか。それでもよいのですか?』
屋上に鎮座したプロペラを持つ機械が東に飛び立ち/西に帰り同箇所の夕焼けに鎮座する。市営紙幣(しえいしへい)と国営紙幣(こくえいしへい)が撒かれるのを見る市民一座。その紙を手にとり焼鳥屋で一杯やる時にでも見てくれればいい。話の種にでもしてくれればいい。内容の理不尽さと一人の和服女性の美しさ/つまり数か月前の緊縛美に酔いしれてくれるといい。次女の事情は込み入っているんでな。三女の惨状はこのようなものであるのでな。同女性はBLINDFOLDEDでありTIEDでありON BDSMであり不自由を楽しんでいるんだよ/と/言いふらして構わない。どうせ情報は掌の中で自由自在に性質を変えるものだよ。曲げたり。撚ったり。弾ませたり撫でたりすれば融通無碍さ。契約書の一端と美しい女性の緊縛美で勃起加減を確かめてみればいい。潜在意識に発芽する種を否定しないで欲しい。
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