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美姫の場合
美姫の場合④
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幾つかの拷問器具で苛め抜かれた身体は何処も彼処も重い。現実問題として此の逢瀬を重ねる以外に生活を維持する方法が見つからない。寒さの中で編み込まれる反芻思考は第2の矢を放ち、第3の矢を放ち、身体と心の隙間に問詰草(といつめぐさ)という色の無い可憐な種が発芽する。
美姫の身体をもう少し描写しておく必要を感じる執筆者。何故かと問うな。それは果てしなく野暮な行為だ。黒髪短髪は前回か前々回かに記載したとおり。体脂肪率が非常に低く『痩せている』と『痩せすぎ』の丁度中間に位置している。胸鎖乳突筋と斜角筋の境目が非常に美しく、切り立った崖の危うさと全てを包容する聖母の優しさを当量配分する首すじに誰もが息を飲む。その御陰もあってか美姫は同性から何時も羨ましがられる。『綺麗な人ねえ。羨ましいわ。』『ねえねえ。どうしたらそんなに素敵なスタイルを維持できるの?』『妖精が絵画から抜け出てきたみたい。』現実的にそんな女性が居るのだろうか、と思って頂きたい。前書きに写真として付しておきたいが彼女は写真に撮られるのを嫌がるだろう。まあこれは狂った男の独り言だ。
稀有な女性。万葉集の中から抜け出たような女性と俺は何時も表現する。平面よりも3次元の方が美しく、3次元よりも4次元の方が美しく、4次元よりも5次元の方が美しい。何を言っているのか理解らないのなら阿呆を自覚してTwitterの世界から足を洗ったほうが賢明だ。時間は無駄に使うべきではない。
胸の膨らみについて。『無乳』と『貧乳』と『微乳』と『美乳』を全て足し4で除し、素敵な助詞と常套の助動詞と無垢な間投詞(かんとうし)で纏めたものが綺麗な橙を実らせる。彼女の身体は隅から隅まで美しく無駄がない。その魅惑的な身体について語れば切り上げどころがなくなってしまう。悪癖だな。「成すべき事」よりも「成してはいけない事」を常に意識して最低限の生活を送る彼女。TO DOのリストは今も桃色のポーチに入っている。NOT TO DOのリストは心の引き出しの一番奥。誰にも見ることのできない精神の深い谷の底。
崇高な思考回路と基本を大事にする生き様も素晴らしい。御主人様が彼女に目をつけたのも当然の成り行きといえる。何よりも、彼女の経歴を調べ上げたときに性生活に対する姿勢が素晴らしいと感じたのだ。経験人数は令和基準で『少ない』と『少なすぎる』の丁度中間。追駆草(おいかけぐさ)を使用して口を割らせたが答えは一緒だった。見事な股座は3週間で処女に戻り初序(しょじょ)の諸序(しょじょ)と諸情(しょじょう)を忘れてしまう。何時も新鮮な液を垂れ流す彼女に淫猥な言葉を浴びせるのが御主人様の常だった。精神的な鍵は彼の手中に在り誰の手にも渡ることはない。
『…嗚呼!』隣の部屋。マイナス6号室から数分毎に女性の声が聞こえ直ぐに消える。それが何度も繰り返される。氣絶と覚醒の輪廻道を周遊する遊女が隣の部屋で嬲られている。繰り返される声の隙間には感電草(かんでんそう)が敷き詰められており世渡りが上手くない女を奴隷として吸収する。
『……』叫びの後の無音支配は何を意味する。ところでマイナス5号室の寒さは誰かが何とかしてくれるのか。美姫の足元には金属製で銀色のシャックルがあり露(つゆ)か汁(つゆ)に濡れている。おそらく、その両方の性質を持つ聖女苦(せいじょく)の液体が醜悪に纏わりついているのだろう。
情報搾取という落雷で引き裂かれた夫妻と負債。それは何年前になるのだろうか。『生善説などを未だに信じているのか。愚かなものだな。』御主人様の言葉が直腸から這入ってくる。『私は全ての防御網を切り裂く現実の力を持っている。君がどうしても秘めておきたかった情報も此の手の中に在る。嗚呼。譲歩は認めない。その身体で支払ってもらうのが鉄則だ。理解るだろう。』こんな言葉が大腸を駆け巡り心臓(ハートチャクラ)を枢軸とした対角線の脳内に消えない渦として記憶される。
『「はい」と言え。それ以外の言葉は認めん。「いいえ」は禁句であり禁忌(きんき)であるぞ。遺言になりかねん。心得よ。』その言葉が小腸内に弾けて散弾となり幾つかの穴を開ける。
『……はい。』熟慮断行。美姫のその一言が一丁目一番地。後は転がる石のように転落していくのみ。樹海に消える筈だった情報はいとも簡単に掘り返され拿捕される。呪幻草の罠にかけられた身体。ものの一夜で経験人数は倍の倍の倍に増えることとなった。何時か強く咬まれた突起には斜め十字の傷が残っている。寒さに依って疼きだすのは何故。被虐に酔って疼きだすのは何故。嗜虐の嗜好に啄(ついば)まれ乾き出すのは何故。
隣の部屋…マイナス6号室の女性の呻き声は聞こえなくなった。最後の咆哮に似た声から随分と時間が経過したのにも関わらず無音。無音の恐怖と強風が胃を攫うのと鉄製のドアが開くのはどちらが早いだろう。
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