《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合②

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 寒さに震える美姫(みき)の肌は泡立っている。少し痛む両突起は露(あらわ)になっており極端な屹立状態にある。神経叢の構造は非常に単純で生命維持装置の装甲を守る事が最優先。所謂,末端に属する両足の小指などは切り落としてしまって構わないという残酷な決断を簡単に実施する。「芯から冷える」「芯まで冷える」という言葉があるように。其処の底まで損なわれてしまえば後遺症が同衣装(どういしょう)に取り憑くこととなるかもしれない。それほどの寒さを感じる。が。美姫は全裸であり縄化粧以外に皮膚に接しているものは何もない。

 何度か。嫌。何度もこの鉄骨SRC造のマンションに招かれた彼女。悪意の性癖を持つ御主人様の所有物である彼女。彼…御主人様は大抵,彼女に直接的な手出しはせず,従者や貧乳嗜好の悪癖落札者や人妻輪姦趣味の知人に廻(まわ)させている状況を見るという遊びに興じていた。昨夜…鉄製でX状の木版に固定されたのを思い出す。指向性と趣向(しゅこう)と種高(しゅこう)と酒肴(しゅこう)が違う球体の群れを捌き切る事ぬ身体で焦点の合わぬ昇天を繰り返したのを思い出す。全ての突起がじんじんするのはその操作の残渣であり/全ての穴から何らかの液体が滴っているのは,責めが苛烈で熾烈で猛烈であった事の紛いのない証明書。多裂筋が痛む。身体の芯,奥の方から痛む。

 マイナス5号室には上等な畳が敷き詰められている。基礎鉄骨造の一室でこのような風情を醸し出すのは随分と金の掛かる作業だろう。敷居は何段階かに分かれており/上下差を強調した奇妙な間取りの端に円形の窓が一つ。外部の景色を眺める為のその枠は機能を忘れており,丁度ぴったりサイズに切り取られた綺麗な河川の水墨画が涙を拭けずに嵌まり込んでいる。

 北東角に燭台が一つ。唯一,消されなかった蝋燭に炎が揺らめいており部屋全体を淫虐のエッセンスに染め上げる。曖昧な炎の色。赤から赫に変化し彼女の陰影を濃くするのには充分な役割。色は赫から橙に返歌(へんか)し,もっと仲良くなりたいと言っている。『どうせ御主人様の金がなければお前は生活を維持できないのさ。諦めな。』『このまま帰らせて貰えるか。それとも…どうかな。』二つの声が右脳と左脳で聞こえてくる。寒い。寒い。前者も後者も随分と不吉を孕(はら)んだ波乱(はらん)の口調だった。

 『ぎりり』『あ…あ…あ…ああっ…』マイナス6号室から女性のはっきりとした声が聞こえてくる。何か不吉な出来事が行われているのは明らかだ。女性以外の声が聞こえないことに違和感を覚える美姫。時間の経過とともにその声は少しずつはっきりとしたものになる。機会の振動音が壁体を伝播する。ふと『上の部屋には伝わらないのだろうか…つまりマイナス6号室の上階。106号室には』などという思案しても仕方のない自問自答が訴状(そじょう)に慕情(ぼじょう)を添え一瞬の華を咲かせ直ぐに散る。

 『じじじじ・じじじじ』『✕✕✕…っ…だめ……っ』聞こえてくる声のトーンが上がる。隣の部屋でも女性が嬲られている。無尽蔵に昂らされている。多分。多分。相手は私の御主人様かそれに近しい関係を持つ歪な性癖の持ち主達だろう。何と哀れな。私以外にもこんな暮らしをしている女性が居るなんて。美姫は刹那そう思う。しかし現実問題の方がより切迫している事に改めて気づく。寒さ。寒さだ。この部屋は寒すぎる。芯まで冷えた身体に3つの突起の屹立が疼き啼く。件(くだん)の蝋燭は微妙な温度を部屋に与えているが美姫に届く事はない。届いたとしても躯体の芯までを温めるものではないと理解する。

『誰か暖炉に火を灯して下さい』懇願とともに微粒子のような声を漏らすが聞き入れる耳はない。寒さは身体感覚の概ねを奪い去つつあり四肢末端の色を変えてゆく。…耳元で車輪が回る音が聞こえる。…はっきりとした音から朧げな音へ変化する車輪の音。…近傍から遠方へ。…高位から下位へ転がる車輪の音。…4つある車輪は全駆が別々に動いておりバランスが大きく損なわれている。…前輪は美姫の運命を拿捕した御主人様の操舵に委ねられており,後輪は突如として舞い降りた運命。…強制的にパンクさせられてずたずたになった,とある夫妻の行方の象徴だ。

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