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交差
密告者
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深夜の密告者が耳元に居る。架空の人物と渡過中毒の偶像に相違がない事を識る貴重な一日だった。昨日の行程に肯定的な意見を持つ自分は概ね半分。被体を否定する自分も概ね半分。車中泊は霧中薄となり得意中の得意であった筈の仙道から『『温養』』といふ概念がすっぽりと抜け落ちていた事を恥じる一日。情けない。祇園由来の擬音が身体の中心軸を一騎駆けしてゆく。春から夏へ変遷していく樹々達が言う『お前ももっと変われるんじゃあないか』『もっと深く。もっと深く。深淵の更に先で真円の心炎が燃えているだろう。それ自体が本当の君の心だ。』
深夜の密告者は続ける。『彼女との逢瀬は楽しかったろう。此れが涅槃という領域の一つだよ。既に理解しているとは思うがね。フローだのゾーンだの極集中状態だの,言葉の引力に依らずに只,身体感覚として感じ続けるのが肝心だ。』『行動してる時もそう。発言している時もそう。鍛錬場で重量物を挙上している時もそう。居城(きょじょう)に附設された呼鈴が鳴り,許状(きょじょう)を携えた悪魔が来訪する時もそう。黒色の珈琲を飲む時もそう。右手でハンドルを握り,左手で彼女のガーターベルト付近を撫でる時もそう。同布切れを破らないように下ろし,陰核に舌先を接置させる時もそう。最難関の禅問答への解答を求めて左に傾いでいる時もそう。今,此処を感じる事だ。身体感覚の付随物である感情すら多角的に観る対象とせねばな。』
『時に。君が何に罪悪感を持っているのか理解らないね。悪だの/善だの。悪球だの/好球だの。最高級だの最底辺だの考えている事自体が緊急事態宣言と同じく/時の無駄遣いに過ぎないよ。』『もっと深く。もっと深く。狂おしい程に深く。仙道の未知なる道を探りゆけ。君は探訪者であり/旅行者であり/志望者であり死亡者でもある。』『もっと深く。もっと深く。呼吸をゆっくりと。止息(しそく)と会陰操作(クンバハカ)を忘れるな。狂おしい程に深く。もっと深く。』
深夜の密会は続く。俺ともう一人の脳内調査員のひそひそ声を聴いてくれないか。Well, that's not good communication. Well, but I think it's a very good conversation.『壁に耳あり,障子に目あり,そうだろメアリー。一夏の恋人になって浜辺をジョギングしないか。丁度丑の刻三ツ辺の時間に。俺に追いてこいとは言わない。無理だから。故に事後の汗ばむ緊縛絵図の対象となってくれれば良い。』『背骨の近傍地に蝋燭を垂らす事はするかもしれない。覚悟はしておいたほうが良い。但し。恍惚優位で終演させるから心配は無用だ。まあ言葉では何とでも言えるがね。』『どうだい。試してみるかい。それとも怖いから踵返しで答えるかい。後者を選択した場合には/本日の洗濯物は二度と乾かない事も伝えておく。今のうちに。』
『辛いか。悲しいか。怖いか。戻りたいか。後悔が絶えないか。前後不覚の知覚は意外に正常値かも知れないだろ。理解るもんかよ。二元論で形成された脳内の独り言に支配されるよりも/それよりも/今を大事にするんだぜ。今を大事にするんだぜ。何度でも言っておくがな。其れが涅槃に至る道標の一つ。もう一つは…………。』
夜会は酔狂にして素頓狂(すっとんきょう)にして豚豚拍子(とんとんびょうし)。脊椎から皮膚へ流れる徐脈龍の存在が際立つ月夜だ。皮膚から脊椎へは可逆の水流が在り/水脈が在り/もう一匹の龍が呼吸に集中している。同水脈は俺の脳内に在ると告げられる。此処を掘ってくれるなら永遠に水道代は要らないとの事。我幸運於心底(らっきー)。夜会の一つのテーマとテーゼは重なり合う。
死にやしないぜ。そう簡単には。そして直ぐに死ぬぜ。射ち処が背骨に近ければ・な。呼吸筋の痛覚すら他人事として眺めなさいと助詞が好きな女師が言う。俺は素直に其れに頷いた。『狂ってしまえば楽になれるかも。恒常性の理論は知っているだろ。そう。快適空間を広げる事を脳内物質は好まない。変化も返歌も望んでいない。成長に繋がる道標としての機能として不十分だと告げている。』『☆嫉妬を使え。成長への羅針盤として。涅槃寂静とは涼やかであるといふ印象操作が強い。が。時に熱風吹き荒れる弾丸低気圧。嵐の近接にも等しい存在である☆』『故に呼吸と鍛錬を怠るな。怠慢になるな。欲に流されるな。呑み込まれるな。支配されるな。支配者で在れ。一瞬の青い炎ではなく永遠に稼働する永久機関の一部と成れ。』
三回転半,蜷局を巻いた蛇が仙骨に宿っている。十五年以上も彼奴(きゃつ)と寝食を共にしてきたんだ。舐めるな。『随分と結節を貫通するのに難儀した折もある。後頚部の圧痛を氣(き)・水(すい)・血(けつ)の意図的な操作で相殺致しましょう。如何です総裁。時に美しい性を取り戻す為には言論統制を解除していただかないと上手く歩けませぬ。お早く御決断を。』
『戦場ヶ原が笑っている。数秘術が笑っている。方舟の制作者も笑っている。其の子孫であり一部でもある我々の心を覗き込みつつ。』深夜の密会は続くが此の辺で一先ずのさよならを。…密告者は利己的に振る舞う一方で/何処ゝまでも利他的な存在として傍で蕎麦を喰うておる。
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