《瞑想小説 狩人》

瞑想

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涅槃図…剃毛干魃地

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 涅槃図に投げ出された彼女は泣いている。月賦という概念のない補給廠が在る。月齢を知らぬ衛星が周回し本集会の開幕に目を凝らす。彼女の右目から3粒の涙。左目も同様の所作。『ぽた/ぽた/ぽた』シンメトリーに悲哀の音が響く。

 洞窟は魔窟であり採光のない環境は責める彼等にとっては最高の環境。催行される宴の動向について再考する衛星が透視魔法を最古の文学で綴る。此処は涅槃図/此処は涅槃図の中。

『嗚呼』咽び泣きの声が漏れ響く
『嗚呼』感度を確かめるがの如く
『嗚呼』骸骨①は右の突起を噛んだ

『嗚呼』其の行為に呼ばれるかのやうに
『嗚呼』骸骨②は左の突起を噛んだ
『嗚呼』上下区別のない上顎骨は
『嗚呼』花弁を咥え刺激する

『嗚呼』肉の接収行為及び折衝工事
『嗚呼』久しぶりだぜ此の感覚は
『嗚呼』湯浴みの隙すら与えず彼等は
『嗚呼』投網で彼女を捕縛し動きを封じた

 骸骨③は腐り落ちていないベル・ボトムを履いている。右後ろポケットには妙なガジェットがありポシェットにはファルセットのカセットテープが埋め込まれており息継ぎが出来ないかのような断末魔に近い男の下顎呼吸が延々と再生されている。
 『しゅー。しゅー。しゅー。』今にも途切れそうな呼吸音は時間とともに間隔が長くなり細くなる。

『嫌…そんな』右胸に触れられると彼女は弱い
『駄目…嗚呼』左胸に添えられると満月は欠ける
『其処…は…』突起のラストピースにしてもそう

『葉………っ』以心伝心の彼等は連絡を密にし
『派………っ』腐った舌を這わせる事を決め
『歯………っ』連絡網の末端の蟲達を鼓舞する

『嗚呼………』夜会への参集ベルが鳴り響き
『嗚呼………』彼女は濡れ/骸骨は動き出す

 骸骨④は彼女の涙粒に見惚れ/此の美味そうな人肉回廊をどのやうに歩行するか細胞の残渣で感じ取る。彼は意識の核を眠りにつかせる事で此の洞窟への定住券を得ることとなったらしい。血飛沫で汚れきった契約書を彼女の眼前に自慢気に差し出した。彼女は其れを見る。『砂漠の昼は暑かった。其処で生まれた事がそもそも運がなかった事を証明している。昼の砂漠は何もかもが熱され至適温度をとうに超えていた。温度に特化した蠍(さそり)に生まれ変わりたいと一日に何度も祈った。水分を探し求める事だけを考えながら日々が過ぎる。閾値(しきいち)が丁度いい時間に眠れるだけ眠る事が出来なければ地獄が待っているのだ。昼夜の寒暖差。其れに驚くダンサーとの無茶な性行為は刺激的なものであったが…彼女は一晩も保(も)たなかったな。砂漠の夜は寒すぎた。長すぎた。低体温症で呂律が回らなくなり深部体温は低下の一途を辿る。身体を擦りあう寝袋の中。体温をあげやうとするものの限度がある。早朝の冷たい身体を置いていけとシルクロードが冷たく言い放つ。彼女は一足先に旅立ったよ。低温に耐えうる殻のある動物が羨ましいと。温度の変化に耐える事が人生の大部分であったと言いながら。』

 彼は激しく右の突起に噛み付いた。怒りに震えた骸骨は言う。『祈りで救われるのならば救ってみせろ。金で救われるのなら救ってみせろ。天変地異。何に由来するのか理解らない大洪水と大干魃から。ソマチッドの様に強力な殻を持つ生命体以外に生き延びる事の出来ない此の世の地獄から。深い瞑想のプールから覗いて真実を記載してみろ。集合的無意識に刻まれているのだろう。お前達の理論では。原因を究明し救命してみろ。旧名世代の命を全部。出来まい。出来まい。運の方程式が存在する証拠を持ってこい。』

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼』右胸の突起に刻まれる怨恨の刻み目。指揮者(コンダクター)の居ない宴と欲望の胃内(いない)。左胸に関しても同様の処置が施され血染みにならない不可思議液体が流れ洞窟床面を濡らす。一方で下腿部をなぞる指先の数はどんどん/増えていく一方だ。どんどん/増えていく一方だ。指先の数が一体につき10であるならば数を数えるのも楽なのに。それぞれの欠損箇所には理由が在り由来が在り孤独が隠されていた。

『嗚呼/嗚呼/嗚呼』陰核を目指し
『嗚呼/嗚呼/嗚呼』伸びる骨指の先ゝ

『嗚呼/嗚呼/嗚呼』器用な皮剥き作業
『嗚呼/嗚呼/嗚呼』毛頭が邪魔らしく

『嗚呼/嗚呼/嗚呼』霊魂の根毛処理の為
『嗚呼/嗚呼/嗚呼』専用剃毛機が準備され

『…!/…!/…!』複数回往復し干魃を模す
 此処は涅槃図/此処は涅槃図の中

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