《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交差

涅槃図…罠

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 トンネルの入口は狭く内部は湿っている。男と別離した娘の向かう先は涅槃図の向こう。此の暗闇を踏破するしか上流へ向かう術はない。象徴は陰。打てないボールの象徴。象徴は陰。応答のないコールの象徴。内部は混沌としており上部からは年度不明で粘度を伴う液体が垂れてくる。『ぽた/ぽた/ぽた』液体達は役目を知っており固い地面に少しずつ穴を掘りながら地面を走行し装甲を破ることを画策している。彼等も此処から脱出したがっているのに違いない。

 暗闇に目が慣れる。少しずつ目が慣れる。慣れないのは足元の景色だけ。骨のうち最も小さいものが足の爪先に当たる。『……!』絶句する彼女の表情を目撃した電光石火の執筆者は『そりゃあそうだろう』と笑いながら指を交差させ鳴らす。黒く腐敗して蟲に集(たか)られる骸骨の群れ。散乱され産卵された骸達は「ひと」又は「ひとにちかしいもの」の成れの果て。酷い匂いに彼女の竦み足が更に竦む。

 幾つかの骨は上顎骨と下顎骨に◎型の金属を嵌められている。同じやうに骸骨達の鎖骨には同様の金属が例外なく嵌め込まれており,それ等だけが鈍い光を発している。侵食。侵蝕。深色。不可侵燭。脳内で乱舞する幾つかの文字達。増大する恐怖に消されてしまう文字達。折角の出会いを拒否された乱舞字達は涙を流し/刹那の出会いを拒否され夜食テーブルから姿を消した。それはとても悲しい出来事。

『ぎい』

『ぎい』

『ぎい』

『ずどん/どん』

『……!』

 後方から重厚な音が響く瞬間にあわせ黄土色のワンピースは振り返る。ショートカット・ヘアが少し重力作用になびく。頬に指す僅かな明かりが遮断されると雰囲気の分圧が変わる。真紅より暗い黒の壁がにたにたと笑っている。『ようこそ。骸骨のトンネルへ』街区表示のないトンネルは多少の音…例えば①彼女の衣擦れの音②彼女の吸気音及び呼気音③中央付近から発生している獣に近しい者の激しい吐息/其れ等を反射しUターンできぬ反車のエンジンルームを加熱し燃やし尽くしてしまう。嗚呼。そういえば暗闇には松明と相場が決まっている。又は手持ちには相応しくない巨大な蝋燭と決まっている。誰がなんと言おうが。

 灰色に近い白の世界。灰色に近い黒の世界。暗黒の闇と反響する音階は改訂前のもの。神秘的で且つ畏怖の対象でもある。闇は神職(しんしょく)が深色(しんしょく)に侵食(しんしょく)され寝食(しんしょく)のない魂の座に新燭(しんしょく)を求める。骸骨のうち最も高貴なものが右手を動かした。『……此れ……を……持って……』幾つかの骸骨達は同じ方向を向いるが其処に意味はない。蝙蝠と近しい天井裏の獣が騒いでいるようだが不明確な意図と糸しか持っていない。骸骨は僅かに光る石を彼女に差し出した。

『……!』

 ターコイズ/サファイア/ブラックタイガーアイ。三種の混合石は仄かな明かりを自己発生させている。振動医学の神ゝがお造りになったものに違いない。勾玉(まがたま)の形にきちんと意味が付されており/科学や化学では貫通できない見事な穴が無双原理を正確に表現している。

 随分と高貴な者の亡骸なのだろうと察する。『…有り難う』彼女は一言だけ其処に置いていく。彼女に石を渡す事を目的として其処に在ったのだろう。役割を終えた彼又は彼女は音もなく崩れ落ち/溶融し/蟲達の餌になれる事を喜んだ。『こちらこそ』彼又は彼女の一言はトンネル内に響き渡る…………→が。その骸骨の連れ合いである嫉妬深い片割れは同時にトンネル警報器を鳴らす。嫉妬の炎は燃える。嫉妬の炎は燃える。真紅よりも深い赤。それよりももっと深い赤/朱/赫。

ZZZZZ…響き渡るベルの音
AAAAA…同時に可聴域を下回る重低音
TTTTT…更には可聴域を上回るモノラルビート
EEEEE…肉の来訪を告げるバイノーラルビート
FFFFF…目覚ましには十分だ/此れは罠だった
XXXXX…此処は涅槃図/此処は涅槃図の中

ZZZZZ…髑髏の起き上がる音がする
AAAAA…惰眠は終了だ。給餌の時間だぜ
TTTTT…お待ちかねの美少女の到着だ
EEEEE…宴の始まりだぜベイビー
FFFFF…此処は涅槃図/涅槃図の中
XXXXX…飲み込みな/臍帯を覆う恐怖を
ZZZZZ…飲み込みな/骸骨の射出する液を
AAAAA…彼女の歩行速度は余りにも遅い
TTTTT…捕まったら終わりだぜ/急ぎな
EEEEE…おっと。そっちじゃあないぜ
FFFFF…入口は封鎖されており
XXXXX…爆音警報の中/掴まれる右手
ZZZZZ…振り払う力がない娘に責任の全てがある
AAAAA…件(くだん)の光石は手から落ち
TTTTT…骸骨①と骸骨②の肋骨に挟まってしまった

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