《瞑想小説 狩人》

瞑想

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涅槃図…絶頂香

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赤の小舟が離岸する事はなく
彼女は途方に暮れている
此処の時空は螺旋を描き進む
涅槃図の中に潜む獣の声がする
彼女の魂は守人の口吻を拒めずに
虚空を彷徨う也/虎口に囚わるる也

『…嗚呼』絡みつく舌は/魑魅の味
『…嗚呼』三回転する萌葱色の舌先
『…嗚呼』唾液は硝酸のやうであり
『…嗚呼』唾液は硫酸のやうであり
『…嗚呼』不徳の致す心持ちと果実
『…嗚呼』口腔内を満たすリズムは
『…嗚呼』罪の味/詰みの味/摘み花の味

どくどく/涅槃図は巧みに体位を変え
彼女を捉え離すまいと画策する絵図へ
どくどく/百会付近にもう一つ心臓があり
太陽神経嚢に集功(しゅうこう)出来ぬ娘
どくどく/橋の向こうに渡るに得策はない

『宇/宇』奴隷市場のそれとは違う
『宇/宇』魂が焦げるキッスの味
『宇/宇』彼の嘲笑が突き刺さる四肢
『宇/宇』彼の魂縛は嬉々としてはおらず
『宇/宇』只管に贖罪を求めている
『宇/宇』悦の果実が彼女を訪ねてくる
『宇/宇』別の車軸が周り始めるのが解る
『宇/宇』別腹の触肢が襲う脳中不和/嗚呼
『宇/宇』此の程度で感じてしまっては
『宇/宇』更に罪の深い身体になってしまうが
『宇/宇』それでもいいのかね/どうだい

 黄土色のワンピースは剥がされ
 全裸を強要する蛇どもが足元に居る
 『蛇足だな』『蛇喰鷲の如く』
 『残忍且つ封豕長蛇な我々が』
 『君を頂くとしやう』
 彼らは言い/打毒の準備よろしく
 念入りに歯を磨きつつ牙を研ぐ

『…嗚呼』裸足の足末端を蛇が這うのを見る。恐怖に慄く表情を見分する守人は無表情を貫いた。広範に渡り撹拌した唾液交換の儀式を継続する。舟は何時の間にか消えていた。先日の記載に間違いがあったやうで/赤い川の流れに飲まれて蒸発したといふのが事実である

『なんと罪深い種族なのだろうか。此れが妖精というものか。噂に聞いていたのとは又/随分と違う。汚れた身体だ。汚れた魂だ。怠惰欲と承認欲の塊のやうな身体だ。せめて此の私の口吻で罪を軽くしてやらう。少々の痛みは伴うだろう/が/君独りが此処で頑張れば種族全体の罪を少し軽くしてやれる。選択肢はない。少し我慢しているがいい』

『…嫌』魂が焦げる。舌先に灼熱が転がってくる。其の成分を抹消する事の出来ない彼女。只管に只管に我慢を続けるうちに脳内/嫌/魂の根幹までもが灼けていく感覚に襲われる。此処は涅槃図の末端葉である故

彼女の下半身は毛無垢沙羅(けむくじゃら)の蛇に巻き付かれ/かなりハードに絞りつけられる。『ぎし/ぎし/ぎし』『ぎし/ぎし/ぎし』同肉体を所有し保有する現の市場まで其の音は響く。市場の王は天から顕現する御大の音帯を前に遅延のない知恵の印を組む。深い深い/とても深い瞑想の中で彼女の存在を探知しつつ

魂だけになったとて
魂だけになったとて
霧が晴れると思ふ事なかれ
日々に重ねた罪の数ゝ
知りつつ重ねた罪あれば
知らずに重ねたもの/また罪なり

壁に耳あり障子に目あり
蜻蛉切にて蜀志を沸かす
男/なんぞや其の肉体は
女/なんぞや其の肉体は
此の世は修行の場ではないのか
安寧秩序に安穏(あんのん)しよって

暴君なる君/涅槃へようこそ
校訓破りも嗜みといふ
斜め契りの乱交騒ぎ
70年代必死の抗争
同じ時代のヒッピー文化

其れは親(ちか)しい
其れは近(ちか)しい
模倣せよ/せよ
それでいいのだ
同世の涅槃を/同夜の値段を
道誉の出番を/幇助の欺瞞を
おおひにおおひに
たのしむがよかろ

何処で曲がった小火(ぼや)騒ぎ
鉾はへし折れ/盾は曲がりて
四面楚歌なら常世は無情
楽しめぬのなら俺に寄越せよ
その時間を/その身体を
その言葉を/その絵画を
その楽曲を/その才覚を
その宵月を/その朝日を
覚悟の光を/時間の束を
嫁の陰核を/処女の蕾を
金銭の束を/そして優しさを
悪いやうにはしないから

『嗚呼』彼女の霊魂は自在の旅
『嗚呼』絶頂香(ぜっちょうか)が貫く実態のない脳天
『嗚呼』劣等感(れっとうかん)を彷徨ふ柔肌は
『嗚呼』窃盗団(せっとうだん)の狙いどおりに弱く
『嗚呼』窃豆団(せっとうだん)が焙煎する豆のやうに
『嗚呼』血小板(けっしょうばん)も魂も犯しつくす
『嗚呼』鉄蕉館(てっしょうかん)に供される御菓子
『嗚呼』徹甲弾(てっこうだん)のやうな口吻に
彼女の霊体は震えて絶に至る
震源と根源は異議にて似たり

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