《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交差

藤娘と魔性の籠手

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『…!』嵌められたのは籠手である
『…!』嵌められたのは籠手である
『…!』肘先から四肢末端までを覆ひ
『…!』鈍い銀の輝きは/鋭く/奉仕的で
『…!』内部にはコイル状の銅と鉄が
『…!』縦横無尽に張り巡らされている
『…!』銅は漢の象徴であり陽の性質
『…!』鉄は淑女の象徴であり陰の性質
『…!』此れは精錬技術の副産物であり
『…!』錬金術が目指す最後の物体である

『…嫌』聴衆監視の排泄感に酔う彼女の四肢について述べよう。右手に籠手が嵌め込まれ肘で地を這いつくばる獣のアーサナ。左手にも同等の処置が施され/両の籠手は鉄鎖で距離を封殺され『じゃらり』引き摺り輪姦しの鳴動間隔は三女殿のじたばた加減の匙に依る。

『…嫌』部屋の隅にある燭台を見て御覧。三股の槍のやうになっているだろう。あれを並行して使用しないだけでも感謝して欲しいものだよ。色服男は彼女の視線にその情報を送り込み/彼女は肩甲骨と鎖骨を介して思考の淫猥な萌芽を理解する。

『…嫌』此の籠手は呪われている。はっきりとそれが理解出来る。きっと逃走する奴隷剣闘士に何か制裁を加える為に使われたものだ。『…嫌』此の籠手は呪われている。きっとキャプテン・キッドが船底の姫に酷いことをする為に使ったものだ。『…嫌』此の籠手は呪われている。どうしても相手を打ち負かしたいと願う剣士が非常手段として肘から先を丸ごと轢断したものだ。『…嫌』此の籠手は呪われている。言葉の呪符が外周部を覆い/呪詛の発露を抑える為の護符が一帯に貼られているのだ。『…嫌…嗚呼…嗚呼』此の籠手は呪われている。空腹の腸内に振動が響きエストロゲンを激しく増加させ/対をなすテストステロンを激しく降下させる。同じやうに腸内にエンドルフィンは魍魎共と供託した棒を乱舞させ/彼女は『悦』と『苦』のどちらでもなく/どちらでもある危篤な感覚を間断なく躰に刻む。

『…嗚呼…』一頻り脳内麻薬を射出する彼女は時間と空間の感覚が僅か残る程度。先程まで実施されていた恥辱の浣腸演技の主演女優は心拍既定値を別の旅人が目指す庭へ無為に放り出されることと成る。

『…嫌…』御散歩の続きは醜いアヒルの物語をより苛烈にさせたもの。聴衆の眼前に歩行強要される娘は四足歩行動物から参足歩行生物への進化過程で此のやうな籠手が使用されたのだと識る。其れは喉を限界まで乾かせ/心身の温度を奪い/バレリーナが極限までダイエットをした最終盤で自己タンパクを分解する事で生命を果てさせようという筆者が実際に見た病に似ている。此の籠手は呪われている。

『…や/め…』

『こっちへこい』

『………』

『歩け』

『………』

『歩け』

『………』

『歩け/と/言っている』

 喉が渇く。四つん這いの旅は一歩ゝが果てしなく遠い。日照砂漠よりも喉が乾く。皮膚の潤いすら不要になる程に。彼の大洪水の跡地を乾かす熱射に射たれているやうな感覚。なのに水を与えてくれる者は居ない。此の籠手は呪われている。

『…うっっっっっっ』

 喉が渇く。喘息患者の喘鳴に近似する音が自らの臓腑から聞こえてくる。『何でもいいから飲ませてください』そのやうに心に従って発言する事ができれば彼女の未来も少しは変化したのだろうか。

 喉が渇く。御散歩の中途で無理矢理/三本足を停止させられた時に選択肢は二つあった訳だ。一つは固く屹立した一物を自らの口唇でしごき水分を摂取すること。二つは自らの自尊心を守り抜くこと。前者を選べなかった彼女のバックホールに最後の硝子細工が襲いかかり…最期の挿入/排出を繰り返した事後の事を語るものは居ない。魔性の籠手とともに彼女は果てる。最期の演目は藤娘。

66人の相手をする筈の御散歩は
結局/最小の素数どまり/其の程度
妖精奴隷がバックステージに放り込まれるのと
壁掛時計が終時を告げるのが同時だった

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