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交差
霧の物語…scene4
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霧の物語へようこそ
霧の物語へようこそ
心に焔を灯しましょう
歩き疲れた旅人様よ
傷の癒えない狐女共々
どうぞ此方へ/どうぞ此方へ
足元泥濘,御注意ください
戸口に注意の書きものが
三途の川ゆき六文銭
金銭時価也/朧なもの也
心由来の広い御部屋を
想像位の間口でもって
貴方に御用意致します
貴女に御用意致します
入屋の水にて身体を清め
庭に芍薬/季節の羽衣
求めのままに
求めのままに
現実賜杯の春夏秋冬
涅槃を心に宿します
無常の世渡り辛かろや
せめて一夜の夢芝居
精一杯のおもてなし
此れは霧の物語
此れは霧の物語
そんな二人を御覧あそばせ
『寒くはないかい』
『…大丈夫』
『暑くはないかい』
『…大丈夫よ』
『気になることは?』
『…ないわ。何も』
『気に病むことは?』
『…………
…………
……ないわ』
河川を住処にする生物のうち
最も長寿なものが拍手を送る
便宜上と形而上の違いを理解する者は
時が変幻自在に流れるのを見る
過去から未来へ/未来から過去へ
フランツ・カフカが涙を流す
過負荷も怠惰もない世界の中で
「魂の差異がない事は素晴らしい」と
核心を持ち真偽を審議する裁判の絵図
右手を腰骨に添えてしまえという彼心
右手を腰に添えて欲しいという彼女心
欄干の奏者は目尻を傾げ
煌々たる月光を手に集めてみる
霧の物語へようこそ
霧の物語へようこそ
囲炉裏で是非ゝお寛ぎください
勿論/今夜のお客様は一組だけ
勿論/睦み合いに必要な分だけ
万年筆は準備万端で御座います
方眼紙は準備万端で御座います
廊下の音鳴り気になりますか
忍び返しの鎹技法で
誰も邪魔だて出来ませぬ
此処は貴方の物語
此処は貴女の物語
御部屋はどうぞお好きなように
広い畳の部屋に天窓
今宵満月/光があれば
狼煙も届かぬ沙羅双樹
着替えに少々時間を要す
霧物語の平時のコース
傷口癒やすに露天をどうぞ
時に客人/出自は何方
『もう一度…』
此れは霧の物語
『………,…………』
此れは霧の物語
『もう一度…』
刹那と永遠の仲直り
『…………,……』
重なりあう体温/鼓動
『おねがい』
呼気と吸気の差異はなく
『ワニが騒ぐかい?』
量子力学は完全なものになる
『…………,……』
誰にも文句は言わせない
『…今は…』
陰と陽がひとつになる
『……,…………』
その一瞬を刻む為に
『…大丈夫。みたい』
輪廻し/求め/生きる
欄干の奏者に聞け
男と女がその夜に何を語らい
何を求めて祈りを捧げたのかを
欄干の奏者よ聴け
『……』彼女の吐息は色即是空
『……』彼の答えは空即是色
欄干の奏者よ見ろ
初夏の口吻を求める男と女を
躰を預けあう無双原理の投射式を
背伸びなんかしなくてもいい
無理することなんかないんだ
無理に膝を折る必要もないんだ
逆も真なりとは良き図らいに候
真理の侵犯に心理は心煩を失う
霧の物語へようこそ
霧の物語へようこそ
此処は心の籠城先であり
安寧秩序を保つ唯一の場所
露天(ろてん)の風呂での眺めは如何
汚染(おせん)の類は一切皆無
余弦(よげん)を弾いた欄干奏者
語源(ごげん)を言葉に出来ぬのならば
訴権(そけん)/閻魔に突き出しましょう
所詮,此の世の景色なんかは
午前と午後とで違うのでしょう
古典文学/歴史を辿れど
月の秘密は誰にも語れず
『…有り難う』
『良かったのか』
『………』
『………』
『…有り難う』
『こちらこそ』
霧の物語へようこそ
霧の物語へようこそ
月は何時しか消えている
元居た場所へ戻りたい
そのように語りながら
彼はそれが自然であると感じていた
彼女も同様の心持ちだった
無双原理は此処に一瞬の完成をみる
在るべきものを在るべき場所へと
彼女の心の中にワニは居なくなった
渇望は希望となり決して消えぬ気泡を残す
彼は気づくのが随分遅かった
彼は気づくのが随分遅かった
今夜/彼女が背骨に居場所を作った事
夜会に戻り
一応の役割を果たし
互いに目配せをすれば朝がくる
帰路につこうと車に乗りこむが
同じ景色の中,欄干の奏者はもう居ない
『……?』
臓腑の奥底に何かが潜んでいる
背骨に絡みつくように口を空け
空腹の魔獣が叫んでいる
呼吸が少し苦しいのに気づく
移植されたワニは彼のものとなり
はっきりとした気配で体内に居る
肋間筋が酷く痛むのに気づく
色即是空/空即是色
月は誰にも知られぬものとなり
欄干の奏者は次の初夏を待ちわびる
此れは霧の物語
此れは霧の物語
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