《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交差

蜘蛛の糸

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其れは大きな蜘蛛である
其れは大きな蜘蛛である
芥川様が記したものよりも大きく
足の数は数え切れない程である

其れは大きな蜘蛛である
其れは大きな蜘蛛である
『さて/出番だな』彼は言う

口の中には戯れに食したのであろう
何かの残骸が見分できるのであるが
其れが何であるかは見てとれぬ
東西南北に灯籠/奴隷市場は暗すぎる

『ごり』
『ごり』
『ごり』
音が三度鳴る

口腔内の残渣…所謂/骨は
其の園で蘇の硬度を失い
粘液で適度な柔らかさになることを許され
口から繋がる円盤状の身体に飲み込まれた

『嫌/嫌』…じゃらり
『嫌/嫌』…じゃらり
『嫌/嫌』…ぎし/ぎし/ぎし

娘の身動きを封じる専門官が一人/ひととおり
拘束具の強度を確認するのを見る
響くのは咽び鳴きの声/喘ぎ声/更に声
鐵のベッドに娘は寝かされる

『嫌/嫌』…ぎし・ぎし・ぎしり
『嫌/嫌』…ぎし・ぎし・ぎしり
『嫌/嫌』…じゃら・じゃらり

拷問ベッドのヘッドにカラビナフックがあり
其処に首輪から延びるリードが掛けられる
リードはZ状に折り曲げられフックを貫通し
スリー/オン/ツーというふ特殊な鍵を抜け
再度アンカーに取り付き/取り憑き
被虐の南京錠が彼女を監禁嬢(かんきんじょう)とし
便宜上(べんぎじょう)の公開場(こうかいじょう)に
華化粧(はなげしょう)の桜花賞(おうかしょう)を捧げ
老師匠(ろうししょう)は『傍観しやう』といふ

『…首だけで構わんよ』
蜘蛛はそう言った

『…あとは私に任せておけばいい』
蜘蛛はそうも言った

コオロギの接吻よりも低く…くぐもった声
其の声が観覧席に響き渡るのを皆が聞く

御散歩の次の相手は明らかに屹立しており
娘がリードを引かれ/自らの眼前に立ち
『宜しくお願い致します…嗚呼…何卒』そのように
口を窄めて少量の唾液をこぼす事より
人外の宴/其の行く末に奇妙な興奮を得る

『座/座/座』大蜘蛛の足音が近づけば
『挫/挫/挫』娘は腰骨を振り逃げようとする
『坐/坐/坐』大蜘蛛の口は大きく広がり
『砂/砂/砂』口腔内死骨を全て飲み込む
『佐/佐/佐』同人外は何時も何時も腹ペコで
『ざ/ざ/ざ』同種以外は全てを食欲の対象と
『ザ/ザ/ザ』するといふ言われ/嗚呼/哀れ

『嫌…嫌…』娘は首を振ってみた
蜘蛛は其れを知らぬ顔/存ぜぬ顔

『嫌…嫌…』娘は再度懇願してみる
蜘蛛は聞く耳を持たず/近接する

『嫌…嫌…』娘の可憐な足掻きをみたまへ
その足は蜘蛛を蹴るためのものではなく

『嫌…嫌…』中空を空振ること幾度か
よって彼女は蜘蛛のものになる

『嫌…嫌…』糸が射出される/其れは
彼の大きな口からだった/更に其れは

『嫌…嫌…』足掻足を無明足とし
鉄のベッドに白色糸で見事に緊縛してみせる

『嫌…嫌…』華は美しく咲くものであり
『嫌…嫌…』同時/散りゆくものである
『嫌…嫌…』ならばせめて綺麗に散れば良い
『嫌…嗚呼』皆に見され塵になる迄

動産と不動産を資産とし私産の試算は上々
蜘蛛は随分とこの館がお気に入りなのでな
仕事もきっちりするといふ訳なのだよ
雨降り止まぬ周囲を御覧/悲哀に満ちているだらう

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