《瞑想小説 狩人》

交差

ベルベット

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下手糞な口笛が招く柔らかなベルベット
裏声で拵(こしら)えたコーラスはファルセット
悲しき定めの奏者、それはハムレット
荒野を行く旅団の片隅には吟遊詩人がおり
旅路で獲得した経験を綺麗なコードにのせる

開放弦の響きに潜む重奏のメヌエット
輪番の巫女が美麗な脚を凜と伸ばし
其の価値を高める魔女か老人を探す也

『不／不』奇特に笑う蝙蝠は娘を抱き
『不／不』幸福論者に間違いを突きつける
『不／不』彼が言う言葉を聞きたまへ
『不／不』彼の語る真言は何よりも真実に近く
『不／不』人間寿命の６倍を経過した経験値に依り
『不／不』静電気の束が７色の光を放つ
『不／不』私は蝙蝠／６本爪の蝙蝠

『嗚／呼』娘は身体操作が上手くいかない様だな
『嗚／呼』赤色の光が会陰を捉え美しい
『嗚／呼』橙の曼荼羅が会陰の上部に描かれる
『嗚／呼』ベース音は４４４ヘルツであるぞ
『嗚／呼』意味不明ならバックボタンを押下せよ
『兎／羽』蝙蝠は語りだす
『兎／羽』聴衆は息を飲む
『兎／羽』彼は先ず時間という概念を可視化する

『時間…此の概念を獲得してから人間は随分と弱くなったな。一年を２４節季に分割して考えているだろう。一年を３６５日にして考えているだろう。おっと、うるう年を考察すれば四年で１４６１日として数えているのかな。最小生物。つまりソマチッドについて語るならば彼ら／彼女らに時間の概念などは無い。あるのは現在という瞬間の連続。先ず此れを理解して頂きたい』

『相対性理論に大きな風穴を開けたのは極ミクロを包含し極マクロを包含する理論だったな。予言又は預言となるだろうが量子力学の方が理論としては完成に近い。何故なら意識の有無が周波数、波動の様相を変化させる事を述べているから』

『時間の話に戻すとしようか。娘。今お前は此の私…６本爪の蝙蝠の下腹部に抱かれているな。それは現在。妖精の村で生まれ、育ち、牧歌的な生活から発芽する三昧の生活を送っていたのが過去。奴隷市場の王に見事な罠を仕掛けられ意識を消失し此処に担ぎ込まれたのも過去。時間は一見、過去から未来へと流れているように見える。時間は一見、過去から未来へと流れているように見える』

『過去・現在・未来。三密加持で考えてくれても構わない。規定する言葉が必要ならば』

『強力な圧力を持つものはどれだろうか…過去か／現在か／未来か。禅問答の終着点たる時間の概念を可視化してやろう。過去という膨大な蓄積は在る。確かに在る。時間とは別個の存在として。知識の集合体。経験の集合体。意識の集合体。イドの集合体。カルマの集合体。おっと／動くなよ／どんなに辛くとも／きちんと聞いておれ』

『過去を時間として使用するならば…現在時分の行動規範のうち、何をしないかに意識を向けるための学びの海として使用せよ。それは大きな大きな氷山の突端であり、春を待つ蟲の声であり、現在の選択又は行動のうち何をしないべきかを決定するものである。繰り返しになるが時間などというのは形而上のものである。』

『残念なことに時間の概念を獲得してからというもの、人間は弱くなってしまったな。言い得ぬ不安をという列車のレールに乗ってしまった。私は蝙蝠／６本爪の蝙蝠』

『嗚／呼』娘は何度か弓になり
『嗚／呼』身体の奥底にある
『嗚／呼』秘密の宝物庫を攫われる
『嗚／呼』其処に彼の血液が挿入り
『嗚／呼』其処に未知の粘液が挿入り
『………』言い得ぬ感覚を獲得したのち
『………』蝙蝠の言葉とともに消氣する

『だらしない』蝙蝠は言う
『もう一度だ』蝙蝠は言う
『起きな／皆様がお待ちだ』
『私は蝙蝠／６本爪の蝙蝠』

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