《瞑想小説 狩人》

交差

奴隷市場 箱入娘

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……………「薬草学」…………

其の本のある頁に似たようなレシピが
書かれていた事を思い出し、脳内で二ノ矢を打つ

俺に其れを食わせようというんだな
俺に其れを飲ませようというんだな
余計なお世話だ…短剣の傷を心配しているな
血が止まったばかりの此の身体が
まともに動く訳が無いと思っているな
小娘よ…恩を仇で返すといふ言葉が在るが
お前達の先代・先代・其の先のものが
我々に何をしたのか知ってはおるまい

まあいいのさ…まま在る事さ
頬杖を付いて其の「無知の道」の中に
どっぷりと浸かって居るがいいさ
真実を知る者は少なければ少ない程良い
此れは世界の陰を煮詰めて煮詰めて
冷やして煮詰めて…更にもう一度
冷やして煮詰めて…切り返しを二度
喰わせて排出(だ)させて…盛りつけを三度
吸わせて吐かせて…呼吸を深く四度
履かせて脱がせて…睦み合って五度
世界中の偽物…赤色髭男爵を捕えて
其の嘘つきの口を針で結んで
金品商船の粗を探し・更に探し
全部の真実を明るみになるまで
互いの口唇を潰しあう…其れを六度
そんな陰を詰めた「くりすます・ぷれぜんと」
此の俺が興じて目を覚まさせてやる

台所から漂流する,にほひが刻々と濃くなる
時にして巳(み)から未(み)に変遷する刻
未知のままで居るがいい…羊にしてやらう
純朴に、俺の意のままに振る舞う哀れな羊に

少女は奇妙なレシピが書かれた
書物を右手に持ちながら鼻歌交じり
随分と気持ち緩んでいる様相を呈している
視線の先に小窓が在り木漏れ日が差し込む
丁寧に描かれた一枚の絵画の様だ

娘の清楚可憐な左手には樫を素材とした
小さな棒が綺麗に収まっている…
其の棒で物事の最小単位の十字を切り
最後の仕上げとして自らの鱗粉を混ぜる

美しい指先がそっと最後の仕上げを実施する
十指が縦横無尽に舞ひを踊れば
其処は一瞬が永遠に変わる美の世界
此処は其の直上の間でありながら直情の貫通撃
欲情の浴場は俺が持ち合わせるものではないが
抱いた女の誰よりも優美で可憐な動きをする指…
其の指先程,他を圧する美を見たことが無い
其の指先で…ヒトガタに触れた事などあるまい
其の指先で…淫靡な滴り,受け止めさせてやらう

俺の指先を見せてもやらうぞ
複数本を失った哀れな指先をな
其れを見てお前は思うのだろう「嗚呼哀れ」と
其の空白に俺は付け込み、漬け込む言葉を選び
アラブのときめきよりも丁寧な嘘を
小娘のまともな十指に順番に塗りつけてやる

右第一指…其処には契約を
右第二指…秘密の儀式を
右第三指…薄い紅色を
右第四指…薄い青色を
右第五指…恋年頃を

左第一指…其処にも契約を
左第二指…晴天霹靂
左第三指…親族への手紙を
左第四指…感謝と対をなす獣を
左第五指…悪魔が作った毬藻(まりも)を

指の動きを三ツ目を透して感知する
俺がお前におしえやう
世界の陰を極めた力を
…階段を登る音が聞こえる

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