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交差
奴隷市場 同床異夢
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大腿部から血液の流れる音
…どく・どく・どく…
随分と流れ出てくれるものだ
此れでは意識なぞ遠のいて当然
痛みは…無いな、瞑想によるものか
目を閉じたまま待機するのも良かろう
乾杯しやう…自らの大腿部に
刃を突き立てる事が出来た自分自身に
乾杯しやう…其の痛みを苦悶とせず
平然と眺める事が出来る自分自身に
乾杯しやうじゃないか…瞑想深い
常世現世の狭間に於いても確実に
地に足をつけながら歩けてきた自分に
此処は一体何処なのだろうか
俺は森の中で短剣を自らに突き刺し
其の出血でによる混濁した
意識の中で夢を見ているだけか
…こん・こん・こん…
誰かの咳払いの音
宙空に浮かぶ意識の中で
東西南北の順に壁体を探し彷徨う
東に迎えど其処は霧深い森
南に迎えど其処は侍の谷
西は更なる困惑への橋流
北に裏背戸、意識はようやく壁体に触れる
…こん・こん・こん…
ノックに力が入らない
此れだけの血液を失えば当然
打突音を強く…糞、身体が俺の
命令を聞いてくれぬのに腹が立つ
もう少し強く…糞、風流画家め
此の様な時こそ力を貸すのではないのか
更に強く…糞、平衡感覚が狂っている
精巧で精工なコンパスを持って来い
そして強く…糞、痛みは無い癖に
手指に力が入らないのは何故だ
嗚呼…既に俺は凍土の中で
手指の数本を失った上で生き
此処に来たのだったか
…こん・こん・こん…
誰かの咳払いがもう一度聞こえる
女性の咳である事が理解出来る
俺は耳が良い、多分産まれた時から
特に注意を払わずとも音階とリズム
其の発生の極初期微動に意識を合わせれば
「何を言うのか」「結末はどうか」
「どの様な意識状態であるのか」
「悪意と善意、又は其の中間のものか」
其の全てを掌握する事が出来たし
極・極・極・当たり前の事だとも思っていた
「みなまで言うな」という言葉があるが
俺には発生部分の感触だけで充分だ
洞窟の中で出会う大柄な獣の足を見分し
其の爪先に殺意が宿っていれば
殺るしかない仲良くなど出来ぬ
周囲の諸氏の耳は違うのだと気づくまで
6年と、6ヶ月と、6日の歳月がかかる
::::::::::::::::::::
…こん・こん・こん…
咳払いがもう一つ
女性…
若い…
若いというよりは
幼い…
無知…
無垢…
純粋…
花…紫陽花
気配…朧(おぼろ)
秋の月よりも
世間…知らぬ
行動範囲が狭い
陰陽…
どちらでもない
中道…
無垢が故の中道
色…
薄い臙脂色と
薄い紫色の混濁色
呼氣…
澄んでいる
吸氣…
此れ呼氣と同等也
…こん・こん・こん…
何度目かの咳払いで
俺は彼女の大部分を知覚する
:::::::::::::
網膜に随分と明るい光
…さん・さん・さん…
返歌が得意な姫君ならば
「闇は光に勝りつつ
無性の愛へ成り変わり
貴方の心に小鳥さえづる」
などとでも詠むのだろうか
涅槃の領域に到達したのか
其れにしては重力作用が
平時と全く変わらない事が不可思議だ
上は上であり、下は下
右は右であり、左は左
又は地獄と呼ばれる場所であろうか
嫌・嫌・嫌…そんな訳は無いな
閻魔様がこんなにも優雅な気配を
宿しているとはミリメートルも思えぬ
抑々(そもそも)光が眩しすぎる…
7色のグラデーションは目の周辺の皮膚を越し
毛様体筋及び眼輪筋を照らし
水晶体を貫通するとともに
網膜まで到達してくる
菩提樹の袂(たもと)、其の世界か
…つん・つん・つん…
胸元をついばむ小鳥の遊戯
俺は此処が現実である事を知る
:::::::::::::::::::
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