《瞑想小説 狩人》

瞑想

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奴隷市場 流言蜚語

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俺は其の村の在りかを知っていた
正確に言えば…俺だけが、か
俺だけが其の村の在りかを知っていた
標高にして約6000を数える
人を寄せ付けぬ場所…
断崖絶壁を命綱無しで登り
懸垂降下を複数回、繰り返し
迷わぬ様に目印のテープを
付けながら進む

そう…そうだ…
瞑想で全般を探知する狩人
「究極の心と身体」を執筆し
今もなお、執筆中である
あの漢なら…
苦も無く辿り着けるのだろうか
そんな思いが右脳によぎり
左脳に届け、松果体で整理するが
整理し切るには危険箇所が多すぎる
俺は油を浸したコンパスを
羅針盤の一つとして山道を進む

熊が居る、猪が群れる
そんな危険区域
空白の100マイルを
我が身一つで踏破する
其の意味付けが強烈であるが故に

知らない者を知ってみたい…渇望
可能ならば捕縛して連れ帰る…欲望
そして一番重要なのは
速やかに、可及的速やかに
死ぬ準備を整えておくこと…覚悟

俺は奥歯の奥にもう一つ
偽の銀塊を移植することを
此度の旅の最初に考え
実際に移植を行った
中には猛毒を挿れる
何時でも命を断てる様に
だが、此れでは足りぬ

バックアップを
ポケットの奥底に仕舞う
気密・を保つため3重の袋に入れ
機密・の成分を含む
木蜜・から煎じた成分を含む
幾つかの錠剤…
此れを飲めば即座
呼吸を失い・鼓動を失い
死に至ることが出来る代物
準備は整っている

山・谷・山・谷・越える
水の問題は大きかったな
3日飲むことが出来ねば人は死ぬ
しかし…しかし…
界隈の川は毒されているのを
俺は自作の地図にしっかりと記載していた
此れは罠、妖精の村の刺客がやんわりと
気づかれぬ様に準備した罠だ
…用意周到にも…程がある
脳内闊歩する言葉達がうるさい

水は衣服についた朝露を
絞り込むことで手に入れる
其の水分だけは世界中何処でも
安全に飲む事が出来る
随分と少量で或るが故
一滴も無駄に出来ない
帰れる保証は何処にも無い
又・俺には帰る場所は無い

奴隷市場…俺を頂点として
主(あるじ)として
構えられた砂上の楼閣
其れとて永続の物ではない
諸行無常・一切皆苦
諸法無我・涅槃寂静
俺は地底の民の言葉を思い出す
此れは知恵の魔法
言葉の魔法…常に共に在れ

:::::::::::::::::

妖精の村に係る伝説の一旦を
思い返しながら
「ソウルフル・ブリッジ」
魂の橋と名付けられた
美しい橋を抜ける

平坦を歩くのも随分と
久しぶりだと束の間の安堵
少量の水分を補給し
一昨日に捕らえた白兎の燻製肉を
頬張るものの、この肉すら
彼女等(一部彼等)の
罠に堕ちているのではないかと
疑心暗鬼は拭えない

橋を抜ければ最後の道標がある
木製の標は前方・後方・右・左
それぞれに行く先を示す
文字列を携えているのを見る

::::::::::::::::::

木製の道標(みちしるべ)
後方、つまり俺の歩いて来た
急峻苛烈極まる道のりを指す文字
《過去…記憶の集合であり
 現在時分を如何に生きるかの知恵
 時間の集積は斯様に使うべきもの》
時間の概念…過去について
記されているのだな

木製の道標(みちしるべ)
右辺、右を向いて歩けば何処に…
妖精の村は此方では無い筈
俺はもう一度、羅針盤と地図に
目を落とすが印字されているのは
「崖」の地図記号でしかない
過去に歩兵の誰も登ることが
出来なかった悪意のある印字
《死…生きるもの全てを掌握し
 逃れられぬ豪華客船での宴
 此れに其の身、投じるも良し》

道標(みちしるべ)の左
左辺は削れていた
鋭利な刃物の傷が幾つか有る
文字には欠け文字があり
百あれば其の半分しか
読み解けぬ様にされている
其処に俺なりの解釈を加えて
自分勝手な完全文字として
想像力でパテ埋めをするなら
《重力…磁場、中心へ向かうもの
 螺旋を描きながら引力を発揮し
 中心の更に中心へと攫う力》
地図には何が書かれているか…
左辺は切れており其の先に
在る筈のものが確認出来ない
何時の間にか地図が切れている
嫌・誰かが切ったに違いない
直感は…こういう時に役に立つ

前・前方・俺が進む道…
其処には花畑
赤・橙・黄
緑・青・紺
そして其の奥に
紫の蓮の池がある
魂の橋の先は桃源郷也
此処が妖精の村の入口…
封印された歴史の震源地…
もう一度水分を補給する
地図に間違いが無い事を確認し
呼吸を2、3度
覚悟を整え、前へ進もうとする
呼吸を4、5度…

::::::::::::::::::

違う…違う…此れも…罠?
おいでおいでと
花達が笑っているものの
何処か歪な香りが拭えない
其の笑顔は芯が腐っている…
天真爛漫な天使の微笑みではない
血を吸う百本足の蟲が群れる気配
耳元で微笑みが嘲笑に変わるのを聞く…

俺は立ち止まる
道標(みちしるべ)は
嘘をついている
此度の道中での一番の英断
俺は立ち止まり・呼吸をもう一つ

:::::::::::::::::


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