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交差
奴隷市場 波間を逝く
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嗚呼・娘
其の弐枚羽根を
焼き尽くし
贄となるのだ
触れよ・琴線
嗚呼・娘
大気は薄かろ
悲しかろ
辛かろ嫌だろ
独占・寡占
燃え上がれ
羽根焼きダンスは
淫靡なり
プラスとマイナス
働く・電線
嗚呼・嗚呼・嗚
鳴けよ鳴け鳴け
鳥の様に
夜明けの稜線
電磁・感染
其の羽根は
飛び立つものでは
ないのだぞ
其の羽根は
降り立つための
もので非ず
我々の
玩具となりゆき
幾久し
奴隷市場の
大事な玩具
にやにやと
子分が電気を
羽根元に
更に加えて
脳が暴れる
「ああ」・「止め・て」
「お羽根が」・「焦げ・ちゃう」
「ああ」・「も・もう…」
脳内を
満たした歌は
誰のもの
万歳・三唱
童謡・唱歌
:::::::::::::::
小さい船が
波間に1つ
ぷかぷか浮かんで
漂っている
小さい・船
其処に精悍な
オトコ達
彼等を知らぬものなど
此の界隈には存在しない
彼等は武器弾薬こそ少ないものの
他にない大きな力を手にしていた
…其れは
知恵…
「誰よりも多く本を読む」
そんな海賊達だった
船長は夕暮れに煙草をふかしながら
昨日の収穫に酔いしれる船員を
なだめるように言う
「どうせ此の世は
仮の住まいだ
大胆に行こうぜ」
不無・成程・納得
彼は知恵を大事にした
誰よりも自分の位置を
しっかりと把握できていたし
誰よりも《身の丈》というものを
意識しながら海を駆けた
彼には
赤・
青・
という腹心がおり
何時でも自分を
殺して構わない
と
言っていた
…何故?
赤が聞くと
…それが、
俺の生き残る術だからだ
構わんぜ
今
ここで
俺を狙っても
一向に構わん
…そうすれば
此の船はお前のもの
此の財宝もお前のもの
なあ
どうだい
そんな俺だが
ついて来るかい
…下船したければ
いつでもどうぞ、
俺は去るものは追わないよ
そんな彼に
赤は惚れていた
青も聞いたことがある
「何故、そんなにも
本を読むのか」
と
…海賊家業に
足りないものがあるからだよ
知識
そう、知識だ
海図ってあるだろう?
俺は先ず
それを疑ってかかるのさ
本当に合っているのか?
実は誰かの策謀じゃないのか?
ってな
…現実主義とでも言うのか
実は慎重なんだよ
…知識は自分に教えてくれる
本は自分に、教えてくれるんだ
どれだけ自分が
無知であるかを
どれだけ自分が
小さい存在なのかを
だから
俺は本を読む
…青
俺の寝首を
刈り取ってみろよ
なあ
俺は一向に
構わんぜ
…俺が恐れるのは
それじゃない
勤勉でなくなること
向上を失うこと
欲に溺れ
自分を見失うこと
それ・が…
…凄く・怖い
どうだい
こんな俺だが
ついて来るかい?
下船は止めんよ
一向に構わん
何だったら
そこの小舟を
使っていいぜ
…俺の寝首を刈り取ってみろ
…俺の背後から
其の銃に指をかけろ
簡単だろう?
そしたら
お前が
船長だ
青はそんな彼に惚れた
オトコがオトコに惚れる
というヤツだ
赤も
青も
そんな彼のことが好きだった
大胆で
緻密で
勤勉な
彼を
::::::::::::::::::
其の船は小さく
本当に必要な物しか持たず
金銀財宝については
最も信頼のおける
「銀行」と呼ばれるところに
預けるようにしていた
其れは危険なこと
どの海賊もそんなことはしない
《預ける》なんて
不確実なことを
海賊稼業は一方が負けた時
命と引き換えに金品
又はオンナを差し出すと
昔から相場が決まっているし
昔は実際にそうだった
故に必ず
幾つかの金品と
何人かの奴隷オンナを
連れておく必要がある筈
赤も
青も
世界の金品の1/6を
かき集めたのにも関わらず
得体の知れない銀行なぞに
預ける彼の頭の中を
覗いてみたいと訝しがっていた
何故
彼は
其処に
金品を
預けたのか
準備銀行と
名付けられた
其処に預ける
意味を知っていたからだ
「無利子で構わん」と
彼は言った
其れでこそ
価値があると
意味不明なことを言っていた
…戦場を駆る其の船は
知識という渦の中に
膨大な実戦経験を蓄え
無敵の力を得る
…旗印は
骸骨マークではない
「文字」だ
…《謙虚》
の文字を掲げ
死の覚悟とともに
船は行く
そんな彼等に転機が訪れたのは
1隻の大型船を仕留めた時だった
赤は言う
「大型船の方が簡単だ
兵数と戦力は比例せず
むしろ矛盾する場合が多い」と
青は言う
「最初が肝心だ
取っ掛かりの雰囲気と
初弾の正確さで
戦意を喪失させる
其れは、名声であり、覚悟であり
《謙虚》の旗印とともにある」と
彼は言う
「不無
赤・青
お前達が居るもんだから
此の船は無敵でいられるのだな
ところで、どうだ
俺の素っ首
へし折って
船長になる意向は
固まったのかい?」と
:::::::::::::::
赤は仕留めた
大型船の全員に向かって
「財宝の6割を頂く
海賊稼業の習わしに従えば
カネもオンナも
全て貰っていくぜ
と、言いたいところだが
6割だ・6割でいい
赤は賢明だ
青も続く
「け!
大きな船の割に
肝っ玉が小せえんだな
全員、竦み上がっておるよ
情けない…
敗因を教えてやろう
《覚悟》
圧倒的な覚悟の欠如
其れが此の戦の敗因だ
覚えておけ」
青は賢明だ
彼は言う
「赤・青
謙虚に
謙虚に
謙虚にだ
それが我々を最強たらしめ
無敵の存在として
規定しているのだから」
「ところで・船長殿」
「オンナを全員
甲板に並べて頂きたい
何、痛いことはせんよ
あまり時間をかけるような
野暮なこともせん」
「急いで頂きたい
間もなく夕暮れ
頃合い・だ」
大型船の船長は
彼の言いつけ通り
オンナを全員・甲板へ
そこには船長の妻がおり
召使いがおり
お手伝いがおり
船倉の奴隷がいた
「不無」
66人のオンナを
甲板に並べ
何事もなかったかの様に
平常時のような
落ち着いた様子で
彼は言う
はっきりとした
口調で
「オンナ達は全員
1メートル感覚で
其処に並べ
そうだ
そうだ」
「おっと
そこは俺が通る場所
少しスペースを
開けておけ」
「そこは気の循環道
トーラスの中心点という訳だ
意味がわからないか
まあ・そうだろう
それで構わない
よし・全員、座れ
安楽座でいい」
「わからない・か
まあそうだろう
オンナは通常
本など読まんだろうからな」
「こう
こんな感じだ
嗚呼・呼吸が違う
先ずは4秒吐き
4秒止め・4秒吸い
4秒止める
これを繰り返し
安定した呼吸を目指せ」
不思議な光景が広がる
先の戦闘の喧騒はどこへやら
甲板は静まり返り
オンナ達の呼吸の音
時折、肺の病変部が痛む
そんな咳払いが聞こえる以外は
静寂が支配する
そんな空間が広がっている
夕暮れ
交感神経と
副交感神経が交差し
ピンガラ村とイダー村が
1つになる瞬間を彼は支配する
彼は一人ひとりの背骨を見る
オンナを見る時は
決まってそうだった
「背骨で人生が透けて見えるのさ
なに・魔法なんかじゃないぜ
現実としてそうなんだ
お前たちもいずれ解る時が来る
赤・青
お前達にもきっと・な」
彼はチャクラの輝きを観察する
其の観察眼に長けているのが
最も特質的で特筆的な彼の特徴だった
界隈で知らぬ者なし
《謙虚》の旗印に気をつけろ
そんなウワサが世界を闊歩し
自己を肥大化させているのを
彼は知っていた
《白夜》
《藍色の獣》
《監獄船》
7つの海を翔けまわり
幾つかの
称号とは言えない二つ名を得る
それらは彼を
満足させた
どんな金品財宝よりも
ある国の姫を抱いたときよりも
其の言葉が嬉しかった
:::::::::::::::
彼の産まれは貧しくもなく
裕福でもなく
平凡、が似合う御家柄
カラダは弱く
齢6歳のころには
全身の皮膚病と
呼吸器疾患で苦しむ日々
何故・俺・だけ…
呼吸が・苦しい
24時間
365日
マトモに呼吸が出来た
ためしがない
皮膚が痒い
全身の皮膚が・痒い
引っ掻いた跡が・痛い
其れ専門の悪徳業者がおり
彼の皮膚全体に
山芋と唐辛子を混ぜ合わせた
悪夢の軟膏を塗っていったような
そんな痛み
そんな痒み
彼は
両親と
祖母と
兄と
姉
6人で暮らしていたが
一度も呼吸苦について
皮膚の疾患について
相談したことはない
学び舎で
友達に馬鹿にされるのが嫌だった
本当に嫌だったんだ
休み時間まで
カラダの痒み
カラダの痛み
呼吸の苦しみ
其れらに耐え
休憩時間は一目散
誰もいない倉庫へ向かう
そこで
肘の裏
膝の裏
金玉の裏を
掻いて
掻いて
掻きむしった
患部からは血が流れ
明日はもっと
酷くなる実感と
ヒュー
ヒュー
と奇妙な音を立てる
喉に・苛立ちを覚える
肌を晒すのが嫌いだった
ズタズタでボロボロで
時折、血が滲む其の肌を
人に晒すのが嫌いだった
少しの運動で
気管支が狭窄し
呼吸が苦しくなってしまう
無呼吸の状態になることもしばしば
顔面を鏡に写せば
土気色・赤黒顔
酸素が不足し
チアノーゼに陥って
いることが確認できる
学び舎は定期的に
行かないことにした
自分の判断で
適当な理由をつけて
行かない日は少し
ほんの少し気分がマシになる
今、思えば…
精神の回復作業のために
どうしても必要だったのだろう
:::::::::::::::
齢10歳
状況は好転することなく
むしろ悪化の一途を辿る
皮膚は末期的な状態になり
痛みと痒みで
拷問のような日々が続く
エンドレス・ペイン
父親の一言は決定的だった
随分と酔っていたのだろう
ヘロヘロになって放った
其の一言は印象的だった
「…
お前は、
居ても居なくても
構わなかった
末っ子の次男
お前は
居ても
居なくても
構わん
そんな・存在だ」
実際の言葉通りであるか
実際とは少し違う
脚色が入っているのかは解らないが
概ねそんなことを言っていたのを
今でもはっきりと覚えている
転機だ
反抗期とい訂正の良い言葉で
体裁を整え
此の言葉を依代とし
情熱に変えてやる
自分で生きる術を学ぶ
本当の知恵を学ぶ
此のオトコのようにはなるまい
酔っ払い
息子にかけてはならぬ
一言を無碍に言い放ち
夜な夜な寿司でも
買ってくれば
其れでお前は
満足なのだろう・と
そんな人間には
なるまいと決めた
人生を変えるには
食事
運動
瞑想
先ずは・ここから・だ
:::::::::::::::
そんな海賊の船長は
先ずは自分の人生というものを
大雑把に眺めることから開始した
○歳で、こうなる
○歳で、こうなる
そのためには
半年後、こうなる
1ヶ月後、こうなる
そのためには…
今・これをやる
わかりやすい
誰もが使う思考回路だ
だが、半月を待たず
一心不乱に書いた其の大事な紙を
彼は迷わず直ぐに
ビリビリと破き
ゴミとして燃やした
「違う・違う
そうじゃない
発想そのものが
違ったんだ」
つまり…
終わりから考える
終わりとは
「死」だ
祖母も
父も
母も
兄も
姉も
愛犬も
そして俺も
いつか死ぬ
終わりから考えてみよう
そうすれば、納得のいく
大雑把な人生の捉え方が
できるかも、知れない
「死」
彼は死を科学する
死についての文献を
読み漁る
死の科学には
様々な記載がある
其の土地に依って
其の風習に依って
習わしが違う
…人間は産まれ変わり
輪廻を繰り返し・云々
…死の先には
何人もの処女が
お前を待っている
そこには楽園が・云々
…ある川を辿り
ある場所で死を迎える
これが人間として
最上の死に様で・云々
彼は墓は要らないと
今も心に決めている
拝むなら勝手にどうぞ
俺はここには居ないよ
もっと魂を
ブラッシュアップさせて
後世に・現世に
影響を与える存在として
何処か別の場所にいる
そんな死の概念を
考えに考えた末
彼は2つの知恵に到達する
「死はイベントだ
魂は・意識は・無くならない
それは・真実だ
死という目的に向かって
いかに自然体で居られるか
其処が・肝心だ」
「死を意識すること
これが唯一
生を輝かせる・道標」
これらを胸に
彼は大海原を翔ける
船は小さいくて良い
全てに自分の意識と届くくらいに
小さい方が良い
持ち物も最低限で良い
…?
彼は目を細め
オンナ奴隷の背骨に
目をつける
船底に幽閉されていたのだろう
衣服はボロボロ
顔には昨夜の余韻なのか
誰かにぶたれた跡が
くっきりと頬に刻まれている
ウェストが細く
腰骨のエッジが美しい
「お前、名は?」
彼は声をかける
「名前、は
あり、ません…
どうぞ、必要とあらば
貴方が、おつけになって、くだ、さい」
「良し、決めた」
彼は其のオンナを
名もないオンナ奴隷を
戦利品とすることとした
大型船の全員が大喜び
これで済むのなら・と
苦・苦・苦
彼は笑っていた
赤も・青も
其の理由が解らず
表情が曇る
「何故?
其の娘を?」
「そうです
財宝をかっ攫って
くれば良かったのに
「いずれ解る日が来る
此の娘を船底に
軟禁しておけ」
「この娘は…
等量のプラチナよりも
価値がある
いずれ解る日が来る
お前達にも・きっと」
:::::::::::::::::
「ああ」・「ああ」・「あ」
「お羽根が」・「焦げ・ちゃう」
「もう」・「やめ・て」
プラチナの
価値有るものは
此処にあり
奴隷市場の
妖精・奴隷
人外が
人に嬲られ
果ててゆく
其の様・御覧よ
小粋・電撃
::::::::::::::::
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