《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交差

奴隷市場 御主人様について

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いま、まさに
どれいけいやく
かわされた

みっかみばん
おまえのからだは
おれのもの

このちぎり
たがえることなく
すごすのだ

のうずいを
みたすえきたい
そのすべて

いのなかの
ねんまくまでも
おれのもの
おれのめいれい
ぜったいふくじゅう

じんけんを
はくだつしたのち
のこるもの
ひとりの、さでぃすと
ひとりの、むすめ

さでぃすとの
このむ、めいがら
はいらいと

どれい、いち
そのけいえいしゃ
せきにんしゃ
おまえは、どれい
ここの、しょうひん

わかったな
おまえはどれいだ
へんじ、しろ

「はい」のみだ
おまえのはなせる
ことばは、な
なぜならおまえは
おれのどれいで

じんけんを
はくだつされた
ものなのだ
じんごを、はなす
ひつよう、なかろう

こわいのか
ふるえるからだ
さむいのか

まもなく、だ
せぶんすたーも
ここにくる
かれにみせよう
どれいけいやく

そのちぎり
みせたら、ちょうきょう
すたーとだ

それまでは
おれのはなしを
きいておれ

おれのこと
すこしはしって
おくがいい

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何故、ハイライトを
吸っているのか
間断なく吸っているのか

簡単だ、「格好いいから」
それが理由だ
男が生きていくために
複雑な理由など
必要ないのだ、わかるか

俺をどう思う
娘よ、俺を見て
何を感じる

恐怖、畏怖
権力、圧力
欲望、支配
その様なものを
感じているな

とてもとても、良くわかる
奴隷と主人、その契約を
交わしたからじゃあない
俺という存在、そのものが
畏怖の対象、恐怖の対象となっている
底の知れない男だと感じている
そうだろう

俺は、この村の人間ではない
生まれは全く別のところ
北の果て、とある場所
最高気温は何時も氷点下
常に湿度が高い家
畳から茸(きのこ)が生えて
そこいら中から顔を出す
それを食べなくては生き抜けぬ
そんな、貧しい生まれと育ち

朝、寒さとともに目覚め
昼、寒さとともに過ごす
夜、寒さとともに眠れれば幸運
眠れなくて当たり前

家庭を支え、家計の足しにすることも
俺に課せられた任務の一つ
獣を狩り、氷の中に潜む
凍土のミミズを集めることを
昼の行動習慣としていた
そうせざるを得なかった

界隈には、大きな熊が居る
ここいらのものよりも
2周り以上も大きく
明確な殺意を持っている
不意に対峙するその瞬間
俺は何度も、死を覚悟した
奴等も、必死なれば
俺も、必死だった
クズリ、キツネ、イタチ
小動物達も生きるのに必死
生き残るためには、何でもやる

殺らねば、殺られる
殺らねば、殺られるんだ
死は常に傍らにあった
ジン・トニックの濃度の問題で
薄いか、濃いかの違いだけ
殺らねば、殺られる
それが界隈の常であったし
当たり前のことだと感じていた

短剣と弓矢
一撃で仕留められる様に
工夫を凝らし
何度も死にかけながら
極寒の地で獣を狩る

狩った獣は隣村まで
小さな手で何とか運び
金品や食物繊維のもとともなる
幾つかの薬草と交換する
獣を狩れなかった場合は
ミミズ集めに精を出すより
他に生き延びる術がない
ミミズの味はまだ良かった
最悪なのは家に生えた茸だ
あの味は、最悪だった
人の食べるものでは、ないな

隙間風だらけの家
母の作る少量のスープで
身体を満たす
お前は知るまいな
生き延びる為の
水分の摂取方法を

飲み込んでは、駄目だ
栄養を完全に吸収し
死の影を可能な限り遠くに
追いやるためには
水分摂取の方法にすら
気を配る必要が、ある

…舌を出してみろ
 そう、お前の舌だ
 早く、出せ

…お前は、俺の奴隷
 答えは「はい」しか
 用意されていない

…いいか
 今から
 お前の舌に
 俺の唾液を
 垂らしこむ

…本当の
 水分補給の
 やり方を
 教えてやるから
 感謝、しろ

…「はい」と言え
 それ意外の
 答えは、許さん

…そうだ、動くな
 舌を、出せ

…おかしいか
 変な男だと思うか

…怖いか
 この俺が

…そのままだ
 舌を、出していろ

…俺の唾液を
 受け止めろ
 そうだ、そのまま
 そのままに、していろ

…飲み込むな
 そのままにしていろ
 俺の唾液を
 口の中に
 頬張ったまま

…飲むなよ、いいな

:::::::::::::

母のスープは
出来上がりの直後
温かい湯気が出ていた、が
数分もすれば寒さで凍てつく
悲しい飲み物だったな
先ず大さじ一杯分を
スプーンで口に運ぶんだ
そして、何をするかというと

口に含んだスープが
無くなるまで、口の中で
《転がす》んだ
其れが本当に水分を
細胞に染み渡らせる方法だ
必要は発明の母とは良く言ったもの
母のスープはそんなことを
教えてくれた
お前もそれを体験、しろ

栄養不足は死を招く
寒さを更に寒いものにする
血管が縮小し、臨界点を超え
逆止弁が発動すれば
明日を迎えることができない
そんな夜が続く
お前には想像もつくまい
永久不変の地獄の中で
界隈で最も寒い土地で
明日の保証も無く
只、生きることに全精力を
使う少年の身に、なれるか

…おっと、俺の唾液を
 飲み込むな
 そのままにしていろ

…いいな、返事は
 そう、「はい」だ
 それ意外にない

寒さは痛みを伴い
苦痛は精神を混乱させる
眠れているのか
まどろんでいるだけなのか
覚醒しているのか
プラスなのか
マイナスなのか
ニュートラルなのか
はっきりと意識が定まらない眠り
そんな時、随分と近くに《死》を
感じることができるようになる

お前はどうだ、娘よ
死を感じ、はっきりと
意識したことがあるか
俺は毎晩、そうだった
幼少期、青年期をくぐり抜け
そして、今も、なお…

在る早朝、又は在る深夜
時間にすると2時から4時の間
俺はいつもと違う感覚を
感じながら布団にくるまっていた
死の濃度が濃くなっている
違う世界へ誘う者の足音を聞く

吹雪を切り裂く音
はっきりとした音
実際の足音を伴って
玄関のドアが開き、閉まる
死の気配がそこにある
濃度はさらに高くなる
死神だ、死神の来訪だ
お前は夢物語だと疑うかも知れん
が、死神は本当にいる
何故、そんなことが言えるのか
答えは簡単、俺が、実際に見たからだ

これも覚えておけ
俺は酷く現実主義だ
お前より
お前の母より
お前の父より
お前の村の誰よりも、現実主義だ
祈り女の娘…
お前の生まれは、そうなのだろう
祈りで何を得た
母は、何と言っている
これは、後で話すとしよう
話の根幹部分に
繋がるので、な

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死神は絵に書いたような
誰もが想像するような
鎌を持っているわけじゃあない
あれは絵空事、架空の想像に過ぎない
唯一、黒い影であることは本当だ
あの表現は間違っていない

そいつは言うんだ
死神は言う
「もう、いいか」
「もう、飽きたか」
その2つを俺に問うた
今でも、はっきりと覚えている

人生には答えを
間違ってはいけない瞬間がある
死神との対峙も、そうだった

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