《瞑想小説 狩人》

追手

決着

髪の毛が焦げる匂いがする
タンパク質が炭化する
独特な匂いが鼻腔を包む

室内と呼ぶには
余りに広大な面積を持つ
その洞窟は

彼の手にする
長剣が放つ
炎の伝播を受け
上層部から順に中層までが
ヒトの生存できる環境では無くなった

じり
じり
じり

ぱち
ぱち
ぱち

水が蒸発する音が聞こえる
木材が水分を失っていく

平常心…
この様な時こそ

運動神経
視神経
自律神経
そして

最も大事な
勝負の材料は

氣、
氣、
氣の、流れ…

決めろ
覚悟を

俺はこれからヒトを殺す
未知の領域に踏み込み
また一歩、強くなる

ヒトを殺すのは大罪だ
紛うことなき事実
しかし…今

紅の剣士よ
その命は
俺のものだ
貰い受ける

短剣を強く
握りしめるな
軽く触れている程度でいい
呼吸は絶やすな
ゆるやかに

呼吸が、熱い
熱風、、
熱気、、
その中でも

呼吸だ
仙道の呼吸
呼吸を乱さぬこと
氣の往来を感じ
隙を見つけること

：：：：：：：：：：

《かの乙女
　ゆらりゆらりと
　艷姿
　蛇との戯れ
　祈り届かず》

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誰だ
俺の頭の中で
奇妙な短歌を歌うのは

俺は死地に在る獣
山野を翔ける一匹の獣
熱風に耐え
辛辣な毎日に
喉の奥から唾を吐き
コミュニティに反逆する
唯一無二の狩人

…殺す
　
一足飛びに
跳躍する俺
迷いは、ない

一瞬、
熱気を帯びた上層部に
首までが浸り
耳の産毛が焦げていく

彼はその長剣を
上段に構え
高い跳躍力の頂点から
下降してくる一匹の獣に合わせた

キン

一度だけ
大きな金属音が響く
それはどちらの肉にも刺さらず
鉄と鉄が、かするのみ

…火傷の…
…具合は？

俺は呼吸筋のうち
最も重要な気管が
熱風に殺られていないことを
確認すると

そのまま
彼の脇腹に
短剣を
鋭く
素早く
突き刺した

迷い無く
淀みなく
戸惑い、なく

「宇っ！」

暗殺者は一瞬
声を上げるとともに
傷を負った部位を両手で抑え
そのまま床面に
仰向けになる

《勝負あり》
立会人が居るならば
そのような言葉を発するだろうが

まだだ
まだ
勝負はついていない

彼はまだ
呼吸をしている
死んではいない

生死を賭けた勝負…
俺も死を存分に覚悟したし
お前もそう、だったはず

決着は
死、以外
あり得ない

長老の刺客
コミュニティの追手
子飼いの、犬め…

その素っ首
へし折ってやる

これで
決着、だ

俺は彼の首の根本
胸鎖乳突筋から
斜角筋のあたりに
手を添え
一気に押しつぶそうとした

：：：：：：：：

ヒトはヒト
自分は自分

貴方は貴方
彼は…彼よ

お待ちな、さい…

：：：：：：：：

誰だ
邪魔、するな
男の間に割って入るな

彼の剣は手を離れ
灼熱の熱気は
去りつつあった

入り口から新鮮で
酸素の濃い空気が
低温無双の空気が
入りこんでくるのがわかる

俺は顔面の一部分と
首の根本あたり
肌が露出している場所に
２度から３度に近い熱傷を負う

もう一度
彼の首に力をかける
彼はまだ、生きているし
その灯火を根絶させるには…

その手に力を込めればいい
又は
再度、短剣を手にとり
胸の部分に一突きするべきだ

殺しに慣れておかねばならん
この先、こんなことは
まま、あるはず

今、ここで
その練習を
するまで、だ

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…やめ、て
　おね、がい…

…彼は、きっと…

：：：：：：：：：：

誰だ
先刻、から

随分と
しつこく

才児、お前の技か
それとも未知の
永久機関の存在か
又は…

君か？
君、なのか？

もし、そうなら

もし、そうなら
教えてくれ

君は今、
何処で
何をされていて

俺は今ここで
どうすべきなのかを

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