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追手
追手
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…!!
…気配!…
::::::::::::
俺も、
才児も
瞬時にそれに
気がついた
洞窟の外…
入口の辺り…
何かが蠢く気配がする
雨の音で
かき消されかけた
不穏な、気配
氣の流れが変わった
空気の質感が変わった
何者かが其処に居る
…
…
…
…!
人だ
獣の類ではない
この規則性のある
独特の気配
これは、ヒトだ
殺気を宿した
その気配を探知する
洞窟の前に佇み
機会を伺っているのか
先ずは「見」の
立ち位置という訳だな
呼吸は
4秒感覚の
規則的な動き…
確信を得る
これはヒトだ
獣に非ず
入って…
来たな…
雨音で消そうと
してはいるものの
反響する穴蔵の中では
その全てを
かき消すことなど出来ない
感じ、る、ぞ
…気配
…覚悟
…殺気、そして
…氣の、流れも
才児よ、俺の後ろに回れ
ビジョンを消せ
今、直ぐに
戦闘は避けられぬ
間違いない
立て
身構えろ
呼吸を整えろ
足の痛み…
気に、するな
探知した
覚悟を宿す
この呼吸から察するに
手練だ、
それも、
かなりの…
ぴり
ぴり
ぴり
張り詰める、空気
…!…!
相手も
俺が
気づいたことに
気づいた、な
おそらく
短剣は…
無事だ、
左の懐にある
そのことに
安堵するな
先ずは観察しろ
状況を見極めろ
足音、少し
姿は見えず…
間もなく、だ…
少し湾曲した
外壁の脇に
影が延びてくることで
その存在を認知する
ヒトだ、やはり
大きさは…?
手にしている、武器は…?
見えん、まだ
凛とした
緊張感とともに
影はやがて
実体となり
我々の手前10メートル程度に
位置取った
ぽた
ぽた
ぽた
雨音の他に
静寂の音の他に
洞窟に聞こえ響くは
そのオトコの
ローブから垂れる雫の音
小柄な、
オトコ…
未だ男とは
判別できんが
男で間違いなかろう
殺気を宿した小柄な男
黒いフード付きのローブ
目は鋭く切れ長で
隙のない
無駄な力のない
美しくすらある立ち姿
そして
何よりも
何よりも
印象的なのは
剥き出しの、殺意
皮膚から、
細胞の一つ一つから
発せられる
その、殺意
黒いローブの周りから
赤褐色の殺意が広がり
同色の煙となって
洞窟内の隅々までを満たす
こいつは…
手強い、ぞ
獣とは、全く違う
確固たる殺意
能動的殺意を持って
其処に居る
手には
…長剣
俺の背丈より
少し短く
その男の背丈よりは
随分と長い
諸刃に切れる
刃のカタチ
柄には《炎》の紋様が
記されている
…!?
その男の殺気とともに
剣から炎が舞い上がり
螺旋状に踊り始める
幻なのか
実体なのか
柄から放たれた炎は
長剣全体に延び
小柄な暗殺者の全身を包むと
天井を蛇のように這い回り
果てしなく、
果てしなく、延びていく
洞窟の最深部まで
ぱち
ぱち
ぱち
ごう
ごう
ごう
はっきりとした音がする
静かだった空間は
炎の殺意に
包まれ騒ぐ
誰だ…
貴様は…
追手か、
コミュニティから
放たれた追手
それ以外に
俺を殺して
益する者など
居るはずがない
俺が邪魔なのか
コミュニティに帰属する
狩人であった筈の俺
手前勝手に脱出し
その内部事情の一部を
輪番の中身を
知ってしまっている
この、俺が
又は
連れ戻しに来たのか
何らかの理由で
それが要件か
まあ
前者だろう
連れ戻すのが要件であるならば
そんなに殺気立つ必要はないし
長剣を構える必要もない筈
相違ないだろう
その炎の剣で
俺を両断するため
そのために
お前はここに居る
紅の剣士…
覚悟を感じるぞ
殺気を感じるぞ
その源泉は何ぞや
氣を感じろ…
何を感じる?
彼から
彼の佇まい
その気配から…
命令
支配
使命
任務…
そうか
長老の命令か
声に出すまでもない
お前は長老の側近の1人
暗殺を生業とし
コミュニティの存続に
相応しくないものを消す
追手であり、暗殺者
ツキが
なかったな
お前も、俺も
俺はこの場所を
寝床にするべきではなかった
そして、紅の剣士よ、お前は…
先ず、その洞窟の入口を
破壊することを考えるべきだった
コミュニティには有った筈だ
硫黄と木炭を混ぜ合わせ作った
黒色火薬なるものが…
それで入口を封鎖してしまうか
壁の反射を利用して
飛び道具で俺の肩口を
狙ってみるべきだった、な
何故、そうしなかったか
何となく、解るぜ
お前はその剣に
酔っているんだ
何となく、解るぜ
美学…
正々堂々
威風堂々
果敢な精神で
俺と対峙してみたかったのだな
………
………
:
雨
:
音
:
:
長剣
:
存在
:
切れ味
:
血
:
:
呼吸
:
構え
:
手強いぞ
:
それも
:
かなり
:
長引けば
不利、だ
地形は…
こちらに味方してはいない
彼は自分の判断で
踵返し出来るのに対し
俺は才児を守らなくてはならず
逃走するにしても
奥側に潜り込むしかない
長剣の柄から伸びる
炎の正体を見極めろ
あれは何だ
本物か
幻か
実体を伴うものか
その剣が振り下ろされたなら
我々を襲うものなのか
周囲の温度が
高くなってきた
これが…
答えだ、な
俺が昂っているのではない
実際に温度が上昇している
天井面の水滴が
いつの間にか
乾いて消えてしまっている
じわじわと
じわじわと
上層から
中層に向かい
高温に熱せられた空気が
降りてくる
我々、2人は
既に彼の
手中に落ちている…
時間の経過とともに
温度は増々、上昇し
この洞窟の隅々までも
引火点にし
燃焼点にし
発火点に至らせるだろう
これは幻術ではない
あの剣に何かが在る
炎の発生を担う
永久機関が其処に、
長剣の柄に
在るはずだ
じり
じり
じり
短期決戦だ
時間は、ない
汗が吹き出てくる
洞窟の入口が
双方向換気支配となり
下方には新鮮な空気が
満ちているものの
奥に向かう程
上方に向かう程
その熱気が逃げ場を失う
最深部に潜む
コウモリが6匹
熱さにびっくり
目を覚まし
洞窟から飛び去っていく
…待つも、地獄
このままでは
時間の経過とともに
こちらが不利になるだろう
覚悟を決めるしか、ない
闘うしかない
奴を殺すんだ
理由を探すな
躊躇するな
殺らねば、殺られる
それが理由だ
只、今のうちに
聞いておきたいことがある
紅の剣士よ
お前が俺を
殺さねばならない
理由は何だ?
普段、狩っている
獣とは違う
お前は人語を操れるはず
コミュニティの追手
炎の使い手
お前は
何故、俺を
殺さねばならん
その、理由は?
一体、何だ?
闘いの前に
教えて、くれないか
そうでなくては
死んでも死にきれんし
殺すにしても納得できん
::::::::::::
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