《瞑想小説 狩人》

蟲責め

蟲責め 其の８

長老はその手に
ブラシを持つ

君の尻尾と
猫耳を
《ブラッシング》
すると彼は言う

ブラシには
片面に無数の突起があり
その突起の先端部分には
小さなプラスティック製の
「丸」がついている

…裏面は
　というと

同じく無数の突起がついているものの
その先端は「丸」に覆われておらず

銀色の突端が
尖ったまま、
いくつも
いくつも
鈍い輝きを放っていた　

長老はブラシを
右手に携え

君の眼前に
かざして見せる

…これで
　お前を
　撫で回して
　やる

…片側を見ろ
　丸いカバーがついているだろう？
　これは普通の
　ブラシだな
…女性が髪をとかし
　美しい髪を
　整え
　身だしなみを
　整えるための
　ブラシ
　
…気持ち良さそうだろう
　先ずは
　お前の髪を
　そっと
　そっと
　優しく
　撫でてやろう

…どうだ？
　気持ち
　いいか？

…そうか
　そうか

…逆側も
　見ておけ
　
…鉄の突起が
　そのまま
　あるだろう？

…これは
　家畜用
　
…いわゆる
　家畜の毛を
　削ぎ落とすための
　ブラシ、だ
　
…お前の尻尾
　お前の耳を
　強力に
　ブラッシュするための
　もの

…そんなに
　怖いか
　
…怯えているな？
　さて、
　もう一本
　あるのだが
　これも
　見ておくといい

長老は左手に
もう一本の小さな
棒きれを手にしていた

先端だけが車輪状になっており
くる
くる
くると
地球儀のように
回転する

車輪の周りには
その周囲には
…何も
…ない
…ように
…見える
俺の位置、からは

例えば
紙に押し付けて
くりくりと
押し広げ
シワを伸ばす

そんな用途にでも
使われるのか？

そんな形容し難い
棒について
長老の説明を聞いておこう

…見ろ
　これを
　よく
　見ろ
　くるくると
　先端が回るだろう？
　ローラー状に
　
…この
　先端のローラーに
　何が付いている？
　見えるかね？

…もっと、
　目を凝らせ
　そう
　そう
　眼輪筋と
　毛様体筋を
　上手く使って
　もっと、近くで
　見てみるんだ

…わかったようだな
　そう
　そうだ
　細い
　細い
　《針》だ
　
…まあ
　そう怖がるな
　細く
　細く
　とても細い
　針が無数に
　付いているが
　痛みのないものだ
　美顔器にも使われる程、だぞ
　
…その針の先端は
　世界で一番
　小さく
　細く出来ている
　
…ダーマ・ローラーと言われ
　かの三連符
　小柄に造らせたもの

…これは…
　逸品だ
　どのように使うのか
　知りたい
　だろう？
　今に、わかる
　そう
　慌てるな

…丸ブラシ、
　突起ブラシ
　ダーマ・ローラー
　ブラッシングタイムだ
　楽しみだ
　楽しみ、
　だろう？
　どんな
　気持ちに
　なるのか
　楽しみ
　だろう？
　
…どんな
　感覚に
　なるのかなあ
　不、不、不…

：：：：：：：：：：：：

…嗚呼
　ちょうろう、さま
　おね、がい
　
…いたく、しない、で
　下さい、ね
　こわい
　こわ、い

…もう
　カラダは…
　とうに限界
　なの、です
　おわかりに
　なり、ませんか？

…駄目
　尻尾は
　嗚呼…
　駄、目

…くに
　くに
　しない、でっ！

…何なので、す
　これ
　この
　感触、は？

…何を…
　何を、
　使っていらっしゃるのです？
　くすぐったい
　ような
　気持ちいい
　ような
　
…丸ブラシ
　ですか
　お察しするに

…嗚呼…
　嗚呼…！
　嗚呼…！！
　
…へんな、きも、ち
　に
　なって
　参ります

…変な、声は
　変な、声は
　漏れておりませんか？

…おかしな
　こと、も
　あるもの
　ですね
　狩人、さ、ま

…宇、宇…

…私は…
　尻尾を付けられ
　そこにブラシを
　あてがわれ…
　こすられ、
　こすられ、
　さらに
　こすられ、
　えも言われぬ
　こうこつ、かん…
　を
　感じて、
　います
　
…嗚呼
　嗚呼
　この
　感覚から
　逃れたくとも…
　
…手首と
　足首が
　緊縛されておりまして…
　何とも
　何とも
　うご、く、のに
　難儀するのです
　そもそも
　首輪の鎖は
　外れることは
　御座いません、嗚呼…

…物理的なものでありながら
　精神的な束縛をもたらす
　《首輪》
　赤い首輪
　これは
　何の象徴なのでしょう？
　
…わたし…
　嗚呼…
　駄、目
　尻尾が…
　熱く…なって
　ごしごし
　しない、で…

…もう、すこし
　やさし、く…

…駄目だ
　なんて
　そんな
　御無体、な…

…嗚呼
　首に巻き付いた
　この首輪、は
　ワタクシめが
　ちょうろうさ、まの
　ものであり
　輪番のオンナである
　
…その、象徴で
　あるよう、に
　思えてなりませぬ

…鎖に繋がれ
　緊縛される夜は
　こんなにも…
　長い、のです

…だれ、か
　教えて
　頂けませぬか…

…前回も
　前々回も
　その前も
　あったのでしょう？
　輪番の甲月、が
　その、ときも…

…そのとき、も
　
…みんな
　こんな、こと
　された、の？

…少し
　ほんの少し
　噂には
　聞いていた
　けれ、ど
　全然、違う…

…そう、全然

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…　《長老様の
　　少し変わった性癖に
　　６０日間
　　お付き合いするだけよ…
　　それで
　　夕方の祈りと
　　採集の時間を
　　免ぜられるのだから
　　私は、楽だったわ
　　なんせ、老人の挿入なんて
　　短い時間だったし
　　物理的にも短いしね
　　休暇みたいなものよ
　　早く終わらないかなあ
　　ってね
　　退屈だなあ
　　ってね
　　嗚呼、早く
　　お気に入りの狩人のテントに
　　潜り込みたいなあ
　　って
　　物足りないなあ
　　って
　　そんなことを
　　思っていた、わ》

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…だれ、かが
　そう言っていた
　と
　思うのですが…
　違うの、ですか？
　違う、の？

…こんなこと、
　されるのは…

…わたし、
　だか、ら？
　なの
　ですか？

…お願い、です
　誰か
　たす、けて…

…尻尾が
　溶ける
　熱くなる
　
…もう
　むず、むず、
　むず、むず、
　ブラシが通る度
　むず、
　むず、
　むずと、
　熱くなって、くる…

…熱くて、
　痒い
　もっと、
　掻き回して欲しくも…
　なって、しまう
　
…嗚呼、
　嗚呼、
　早く
　早く
　ここで
　果ててしましたい
　早く
　終わりにしてしまい、たい
　のに…

…嗚呼
　丸ブラシ、様
　これ以上
　こすりつけるのは
　止めて、ください、まし

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