《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交渉

視座

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交渉は失敗だった

思惑とは違う運びだったのか
思惑通りだったのか
それは長老に
聞いてみるといい

再び
《懲罰房》に
入れられた君は

拘束され、
苛烈な責めに
喘いでいた

具体的な内容は
後日の記載となる
その一端をここに

「…嗚呼っ!」

被虐の声が響き渡る
室内に嬌声が反響する

鳴け
鳴け
もっと鳴け

《懲罰房》
名前に相応しい
ものであることを
教えて
やる

「躾けが…
 なって
 おらんの、
 だ」

「…嗚呼、
 やめ、て…
 …御容赦、
 くだ、さい…」

その部屋に所狭しと
並べられた
奇妙なカタチの淫具は
そのほとんどが使用される

君は「後ろ」に
スティックを
挿されたまま
振動する球体に
全身を襲われる

「…駄目
 …駄目っ!
  あ、あ、あ…あ…っ!」

何かが
長老のお気に召さなかった
ようだな

それとも
総てが
この為だったのか

もう少し、
そうしているといい
お仕置きだ
お仕置き、してやる

「……」

早いぞ
ぐったりするな

直ぐに起こしてやる

これを飲め、
ほれ
ほれ、
苦い、
苦いお茶だ

南米産の
覚醒茶、
お前の為に
作らせた

…その後の
 惨劇、は
…しっかりと
 記録しておくこととしよう
…また、後日

……………………
……………………顛末は、こうだ
……………………

「おいで
 ソファは寒いだろう」

隣村の長は優しく囁く
交渉は中断され、夜を迎えた

君は昨夜と同じ様に
彼を大浴場へ案内し、
同じようにかけ湯をかけ、
昨夜と同じ
特別室へと舞い戻る

違うのは…天気
天気が違えば
雰囲気も変わる

昨夜の嵐が嘘のように
今夜は月が
顔を出している

「話をしよう、
 昨夜の話の続きを…
 おいで」

「…は、い」

子猫は尻尾を丸くして
昨夜のベッドに入り込む

彼は左端に
君は右端に

ベッドの中は温かい
彼の心も温かい
今夜はそれに
包まれていたい
そう、思う

「…続きをしよう
 どこまで話したかな?
 …そうそう
 月まつわる2つの話…
 1つは
 不思議な天体であるということ
 そこまでは、話したかな」

「…は、い」

もぞ、
もぞ、
わく、
わく、

「…疲れては
 いないか?」

「…大丈夫
 …で、す」

きらきらとした目を
ゆっくりと閉じ
聴覚に意識を

聴くことに集中する
特有の、所作だ

《感覚は、遮断したときに
 その真価を発揮する》

瞼の中に
勇敢な1人のオトコが宿っている
祭りの夜
旅に出た貴方

…不思議な
 ものね
 わたしは
 輪番の身でありながら
 こうして
 違うオトコの人と
 ベッドを共にしている

…言葉を、聴くために
 物語を、聴くために

……………

「月の話
 2つ目は《視座》の
 概念について、だ」

「……?」

「先ずは、月を思い浮かべる
 目を開けてごらん
 そして、この
 図形を見てみるといい」

《 ◁◎▶ 》
 
…この図形をご覧、
 美しいお嬢さん
 左半分が、闇
 右半分は、光
 月を左から見ると
 闇の天体
 右から見ると
 光のボール

…光の反射がなく
 暗く、じっとり、
 おぞましいものが蠢く、闇
 7本の頭を持つミミズや
 人を食すのが趣味な
 人外の獣が巣食う、闇

…希望に溢れ
 鍛錬を常とし
 向上を目指す、光
 繋がりと協調
 勤勉と科学
 精錬な魂の宿る、光


《A ◁◎▶ B》
    C

…Aは言う、俺は嫌いだな、と
 Bは言う、私は、好きよ、と
 Cは無関心
 
…時は移り
 陰影が逆転する


《 ◀◎▷ 》
 
 左半分が、光に
 右半分は、闇に入れ替わる
 しかし、待て
 この天体の本質は同じ
 光と闇の位置が違うだけ


《A ◀◎▷ B》
    C

…Aは言う、素敵だな、と
 Bは言う、ちょっと合わないわ、と
 Cはまだまだ無関心

…唯一、態度を変えなかったのは
 Cの人物だ
 一見、
 《中庸》という
 賢人の
 立場をとっているようにも見える
 が
 本質は違う
 ただ、思考を止めただけ

「…ここまでは?
 わかるかな
 美しいお嬢さん」

「……は、い」

《 ◁A▷ 》

…暗闇に浮かんだ文字を
 全く同じ3人が眺める
 Aは、見えない、見ずらいと言い
 Bは、雰囲気があって素敵じゃない、と
 Cは、同じく無関心

《 ◀A▶ 》

…光の中にも文字一つ
 Aは、やっぱりこれがいい、と
 Bは、ちょっと、もの足りないと
 Cは、彷徨い、途方に暮れる

…同じ文字
 背景が変わっただけ、
 陰と陽のバランスが
 変わっただけ
 
…なのに、
 AもBも、
 好きになったり、
 嫌いになったり、
 忙しい
 
…さて、Cは?
 考えることは面倒だと
 退屈だと
 家にこもっているのが一番だと

…物事は見方によって
 変化する
 どこに
 観測点を置くか
 どこに
 その身を置くかによって
 性質が変化する
 このことを《視座》という

「…し、ざ」

…そう、
 暗黒の世界には
 魑魅魍魎が、
 不適切な欲望が、
 淫乱な天使が巣食っている

「…」 

…しかし
 意識を光の方に向ければ
 希望、
 清々しさ、
 鍛錬、
 渇望、
 目的、
 そんなものが見えてくる
 要は、
 意識をどの位置に置き、
 物事を見るか、ということ」

この物語において
最も実践的で
華麗なる言葉

「視座」

これで人間は
簡単に幸せになれる
はずなのに

誰かがCに
誘っているのかも
無関心
平凡
怠惰

隣村の長よ
もう少し
語ってくれ
メモを忘れずにとるから
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