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蟲責め
蟲責め
しおりを挟む…なんで
なん、で
なん、で
こんな、こと…
「…お仕置き、
…お仕置き、だ
…躾けが
足らんのだよ
さて…
と…」
「嗚呼!」
胸の突起を
捉えたクリップは
久々の登壇に大はしゃぎ
飲めや歌えや
酒池肉林の儀式を
君の胸で
踊っている
我が物、顔で
耳から侵入した
2匹の蟲はすっかり、
祈り女の脳内に収まり
ホット・スポットを、
エンドルフィン神経を司る
とある部位へと辿り着き、
そこに実る果実に甘く
噛みついた
脳内に電撃が走る
直接的な刺激は
理性を崩壊させかねない
…痛みは
その理由さえわかれば…
統制できます
かつて中柄に責められた時
君はそう言っていただろう
今度も、そうできるかな
蟲はもっと、
直接的で、
物理的だぞ
「…駄目
…だ、め
もう…」
「まだだ…
まだ、
逝かせんぞ」
長老がクリップのスイッチを切る
両突起はお預けを喰らい
びっくりしたように鳴き狂う
長老は脚を少し持ち上げ
着衣の隙間から
スティックを差し込んだ
君の「後ろ」が標的、だ
「…嗚呼…
そこ、は…」
「痛く、ないだろう
たっぷりと
塗り込んでいるから、な」
スティックが埋まっていく
ぞくぞくと毛が逆立ち
全身が波打つような
刺激が走る
「力を、抜け」
「嫌…
嫌…
おし、りは…
駄目…」
「…蟲をもう一匹
…挿れてやっても
いいんだぞ…
…苦、苦」
恐怖に震えた身体の反応で
拘束具が冷たい音を立てる
ジャリ、ジャリと
その音が被虐の夜を、
仕組まれた夜を、
もっと深い藍色に染めていく
鉄は防腐処理をされていない
酸化し、赤錆びをつけるだろう
一夜にして
それほど、
この夜は、
酸素が薄い
……!…!……
網膜に変わった華が咲く
「Purple Haze」と文字が浮かび、
誰かが背中で楽器を奏でているのが
見える
観衆は絶叫と
興奮の渦の中
奇妙なお茶で
遊んでいる
……!…!……
「嗚呼!
嗚呼っ!」
スティックが深く、深く
挿入され
クリップが再び通電したとき
蟲達は好機とばかりに
脳内ではしゃぎ回った
……!…!……
次に見えたのは
オンナの絶叫だった
ジャニスと呼ばれたそのオンナは
魂を削り取るように
歌う
歌うというよりは
生きる
観衆は雨の中
感電し、感染する
……!…!……
「嗚!呼!
駄、目……」
「まだだ」
クリップを指先で
チクリと摘まれ
両突起は再び鳴いた
長老は奇妙なベルトを
君に着装する
ベルトの先には
約1メートルほどの
長い円柱があり
ふわふわした毛が
その周囲に生え揃っている
「猫
お前は、猫
鳴け、
鳴け、
もっとだ」
猫ならば
うつ伏せに拘束すべきではないか、
と
筆者は思うが
今は流れの方が肝心だ
仰向けのままでいい
脳内に宿った
蟲は、
君の尻尾にまで
快楽神経を繋げたようで
長老がその尻尾を
にぎ
にぎ
にぎと
する度に
呪いにかけられたように、
背骨がきしむのが解る
…なんで
…なんで?
ベルトから生えた尻尾は
背骨と直結し
君の中枢をかき混ぜる
……!…!……
脳内に
蟲がおり
それらは
網膜に
4人のアイドルのうち
最も
イマジンであり
マザーであった
彼の最期を映し出す
「幸せとは、暖かい銃である」
そんなことを唄い
彼は果てていく
…ホワイト・アルバムがいいわ
ジュリアがいるし
ヤー・ブルースがあるもの
あのクラプトンはいいわね
鳴いているわ
ギターが鳴いている
…そう言えば、
レ
イ
ラ
は、どこに
行ったのかしら
あんなに狂おしく
求めて、いたのに…
……!…!……
君は音楽に
詳しくもないのに
そんなことを
考えさせられた
きっと、蟲の仕業だ
《交渉は失敗だった》
…多分、な
……追記を………
……おねが、い…
……しま、す……
そうか
ならもう少し
酔ってきたな
蟲が良い働きをしているようだ
ここまでで既に
何百人かの目に
触れているのだぞ
改稿されていたら
驚く人もいるかも
知れん
ほれ
ほれ
どうだ
にぎ
にぎ
にぎ
「……!!」
君はカリソメの尻尾を
長老の手で握られる
握力はさほどない
筆者を10とすれば
彼はそのうち2しかない
「葉!嗚呼!
葉っ……」
…な、んで
…どう、して
不可思議なこともあるものだ
枯れない紫陽花があることのように
明晰夢が確かに
存在していることのように
カリソメの尻尾と
脳内の蟲は連携し
身体をさらに虐めてくる
…な、んで?
神経は確かに繋がっている
蟲までは
仮に理解できたしても
そんな馬鹿な
ベルトの先の尻尾まで
わた、し
は…
ねこ、じゃない
ねこ
ねこ
わたし、は
ねこ…
……!…!……
古びた洋館が脳内に浮かぶ
それは吸血鬼が住むと
もっぱらの噂で
周囲の村々は
その住人に恐れをなしている
月に1人の巫女を差し出せと
そうしなければ
災いがやってくると
彼は言っており
本当にそうしていた
膨大な力は
膨大な知恵となり
天候までも変化させた
かの公は食事に大いに
こだわっており
その中に
不老不死の鍵があると
ミトコンドリアが全てだ
と言っていた
村々のオンナ達は
…実は
彼のありように惹かれていた
そうか
そうかも知れない
一ヶ月に一度
必要な栄養があるに違いない
奇妙なウワサに拍車がかかり
黄金拍車と成り代わり
彼を模す絵画は高値で売れた
絵画は乙女の自慰の種となり
乙女はまだ見ぬ伯爵に
永遠の恋をする
《洋館の
アルジまだ見ぬ
恋心
一度まみへて
コイはいずこへ》
この詩は引き継がれ
オンナはウワサに華を咲かせた
洋館から帰ったものはいない
12ヶ月の月日で12人
10年の月日で120人
ある乙女は思う
選抜試験があればいいのに、と
…体重は○キログラムであること
…ウエストとバストの比率は
黄金比であること
なお、本比率は
レオナルドの定めた
ものであることを付す
…狐目ではなく
たぬき目であること
…後ろ蕾の貫通式を
終えていない乙女であること
なお、本条件は
「前」には適用しないもので
あることを付す
…ショートカットヘアーであること
肩より長いものは
全て適応外とする
…会話の接続詞は
全て「故に」であること
…脚は機能性以外のものを
全て削ぎ落とすこと
なお、毛を剃り落とすことなく
そのまま自然な状態でおり
3本までの成毛を可とする
また、本条項は
所謂、陰毛を除き適応する
…仕草については
かの輪番の祈り女を
100とし
60以上であること
こんな具合に
乙女達は
実際にそのオフレが出たものだから
騒ぎ
騒ぎ
大いに騒いだ
毎日が
お祭り騒ぎ
何故って
永久不変の
美の定義が
しっかりとここに
示されたから、だ
かの公が示したものに
近づく
近づく
そのための努力を
惜しむものはいなかった
が
全ての条項を
達成できたものも
いなかった
絵画はさらに高値で
取引きされるようになり
我が娘のために、と
世界の富の1/6を
差し出す富豪が
現れる始末
条項を示した
所謂
「オフレ」は
洋館へと続く
一本の橋に掲げられた
明確な美の基準として
……!…!……
気でも触れたのか
そんな短編小説が
祈り女の
頭の中を駆け巡る
蟲の仕業、だ
きっと、そうだ
奇妙なお茶を飲まされる
長老の口から
そっと、
口移しで
それを
吐き出して
しまえば
良かった
のに
……!…!……
剣闘士に見惚れる
姫様の物語
姫は王の愛撫にうんざりし
王の体型にもうんざりしていた
食には困らず
自分のことは
全て従者がやってくれる
姫は靴下を自分で履きたい
なのに
履けない
「それは、
ワタクシめの
仕事で御座います」
姫は外の空気を吸いたい
なのに
吸えない
「そんな
そんな
危険なことを
万が一
万が一のことも
有るというもの」
姫は夜な夜な
自室での行為のために
上質なワセリンを塗っておく
何故?
濡れないからだ
決まって、いるだろう
王では、濡れない
王の身体は
腐った果物のような香り
王の声は
脂肪分がたっぷり
乗っている
なのに
姫は姫であるが故
心なくとも
抱かれねばならぬ
「嗚呼…
第2王妃が
羨ましい」
彼女はそう、漏らしていた
そんな彼女に
恋
芽生える瞬間が
《本日のメインイベントは
剣闘士 対 猛牛の
対決、
で
御座います~~》
頭の悪そうなオトコが
頭の悪そうなトーンで
会場にアナウンスする
何でも100円で
買えると思っている
彼は
実際にそこに足しげく
通っていた
姫は…
剣闘士の身体つき
から
彼の人生を透かし見る
…嗚呼
何て…
美しい
身体を
しているの
…剣闘士
奴隷
身分
関係、ないの、ね
私はオンナ
只の、オンナ
突き詰めれば
只の、動物
この思いには
抗えない、ものね…
姫は唯一の相談役に
このことを話すかどうか
何ヶ月も多いに迷った
判断、決心、行動の順で
彼女は相談役に
この恋心を
鎮める方法はないか、と
相談する
相談役の答えは、こうだ
「《獣と調教師》
スズキ様の著書の表現ですが
獣のパワーは絶大です
故に、並の調教師では太刀打ちできない
ならば、
こうしましょう、
…適切に獣に
栄養を与えるのです」
とのこと
有無
100点満点の解答だ
彼女は大いに悩み
いっそ、王を何とか
してしまおうかとの発想にも至る
しかしそれは行動に
移されることはない
そこまでの勇気
そこまでの度胸
そこまでの覚悟
を
姫は持ち合わせていなかった
……追記を………
……おねが、い…
……しま、す……
そうか
ならもう少し
繰り返しになるが
ここまでで既に
何百人かの目に
触れているのだぞ
改稿されていたら
驚く人もいるかも
知れん
現在がフロー状態というヤツだ
君も十分、
教わってきたはずだ
姫は夜な夜な
同じワセリンを塗り
王との睦み合いに
《半ば耐え
半ば楽しむ》ようにした
楽しむ
楽しむ
どうせするなら
楽しく、やる
扁桃体を騙そうと
不快の反応を快にしようと
やっきになってみたものの
やはりどうも上手くいかない様子
それはそうだ、
我々は動物だ、
アファメーションにも限度がある
もし、姫に
《変性意識への入り方》
を語れる従者が居れば
状況は変わった
かも
知れない
が
そんな輩は居はしない
…姫は剣闘士に
抱かれたい
なのに
許されない
《夢の中、
せめて金沢、
一夜妻、
貴方の腕に、
かみつきたくて》
その詩は
誰に歌われることもなく
郵便ポストの隅っこに
挟まったまま
そして彼女は
自慰に更ける夜を重ね
剣闘士の反乱により
第2王妃が攫われた
ことを知る
彼女の恋は
ここで
終わる
……!…!……
蟲が脳を軽く噛めば
胸の突起が踊りだす
長老は
クリップごと
君の突起を甘噛みし
さらに激しく
追い詰める
スティックは挿された
まま
後ろ蕾もジンと鳴く
「…葉
…葉
…葉っ!」
吐息は途切れ途切れ
その吐息の色が
桃色になり
部屋を染め上げる
桃色、吐息
……!…!……
小さい船が波間に1つ
ぷかぷか浮かんで漂っている
小さい、船
だが、精悍なオトコ達
彼等を知らぬものなど、
この界隈には存在しない
彼等は武器弾薬こそ少ないものの
他にない
大きなチカラを手にしていた
…それは
知恵…
《誰よりも多く
本を読む》
そんな海賊達だった
船長は夕暮れに煙草をふかしながら
昨日の収穫に酔いしれる船員を
なだめるように言う
「どうせこの世は
仮の住まいだ
大胆に行こうぜ」
不無
成程、納得
彼は知恵を大事にした
誰よりも自分の位置を
しっかりと把握できていたし
誰よりも《身の丈》というのを
意識しながら海を駆けた
彼には
赤、
青、
という腹心がおり
何時でも自分を
殺して構わない
と
言っていた
…何故?
赤が聞くと
…それが、
俺の生き残る術だからだ
構わんぜ
今
ここで
俺を狙っても
一向に構わん
…そうすれば
この船はお前のもの
この財宝もお前のもの
なあ
どうだい
そんな俺だが
ついて来るかい
…下船したければ
いつでもどうぞ、
俺は去るものは追わないよ
そんな彼に
赤は惚れていた
青も聞いたことがある
「何故、そんなにも
本を読むのか」
と
…海賊家業に
足りないものがあるからだよ
知識
そう、知識だ
海図ってあるだろう?
俺は先ず
それを疑ってかかるのさ
本当に合っているのか?
実は誰かの策謀じゃないのか?
ってな
…現実主義とでも言うのか
実は慎重なんだよ
…知識は自分に教えてくれる
本は自分に、教えてくれるんだ
どれだけ自分が
無知であるかを
どれだけ自分が
小さい存在なのかを
だから
俺は本を読む
…青
俺の寝首を
刈り取ってみろよ
なあ
俺は一向に
構わんぜ
…俺が恐れるのは
それじゃない
勤勉でなくなること
向上を失うこと
欲に溺れ
自分を見失うこと
それが
…凄く、怖い
どうだい
こんな俺だが
ついて来るかい?
下船は止めんよ
一向に構わん
何だったら
そこの小舟を
使っていいぜ
…俺の寝首を刈り取ってみろ
…俺の背後から
その銃に指をかけろ
簡単だろう?
そしたら
お前が
船長だ
青はそんな彼に惚れた
オトコがオトコに惚れる
というヤツだ
赤も
青も
そんな彼のことが好きだった
大胆で
緻密で
勤勉な
彼を
……!…!……
蟲が蠢いているのかな
随分と苦しそうだ
嫌
随分と気持ちよさそうにも
見える
エンドルフィンには
十分注意したほうがいい
暴れ牛ならぬ
暴れ蟲
まだまだ、
甘噛み程度の強さ
このこと夢々
わすれぬように
輪番の、
巫女よ
……!…!……
その船は小さく
本当に必要なものしか持たず
金銀財宝については
最も信頼のおける
銀行と呼ばれるところに
預けるようにしていた
それは危険なこと
どの海賊もそんなことはしない
《預ける》なんて
不確実なことを
海賊稼業は一方が負けた時
命と引き換えに金品
又はオンナを差し出すと
昔から相場が決まっているし
昔は、実際に
そうだった
故に必ず
幾つかの金品と
何人かの奴隷オンナを
連れておく必要があった
赤も、
青も、
世界の金品の1/6を
かき集めたのにも関わらず
得体の知れない銀行なぞに
預ける彼の頭の中を
覗いてみたいと訝しがっていた
何故?
彼は?
そこに
金品を預けたのだろうか?
準備銀行と
名付けられたそこに
あえて預ける意味を知っていたから
だ
無利子で構わんと
彼は言った
それでこそ
価値があると
意味不明なことを言っていた
…戦場を駆るその船は
知識という渦の中に
膨大な実戦経験を蓄え
無敵の力を得る
…旗印は
骸骨マークではない
「文字」だ
…《謙虚》
の文字を掲げ
死の覚悟とともに
その船は行く
そんな彼に転機が訪れたのは
1隻の大型船を仕留めた時だった
赤は言う
「大型船の方が簡単だ
兵数と戦力は比例せず
むしろ矛盾する場合が多い」と
青は言う
「最初が肝心だ
取っ掛かりの雰囲気と
初弾の正確さで
戦意を喪失させる
それは
名声であり、覚悟であり
《謙虚》の旗印とともにある」と
彼は言う
「不無
赤、
青、
お前たちがいるもんだから
この船は無敵でいられるのだな
ところで
どうだ
俺の素っ首
へし折って
船長になる意向は
固まったのかい?」と
……!…!……
チクリ
チクリ
と
蟲が噛む
と
青息吐息の君が居る
美しい
腰骨までの全てを
オトコの前に晒し
脳髄と
両突起
そして
陰核と
後ろ蕾を
何度も何度も
責め立てられながら
果てることも許されず
只、そこに有るのみの
身体
カラダ
そう、
カラダ
蟲責めは辛かろう
長い執筆はひとまずここまで
蟲責めの改稿は
詰まるところ筆者の
気分次第としておこう
《謙虚に》
《心の脂肪との闘い》
嗚呼
文字は素晴らしい
………改稿を………
………おねが、い…
………しま、す……
そうか
ならば
蟲責めの時間が
増えるだけのような気がするが
君はそれで構わんのだな?
宵越えの改稿、
深夜と
朝が交差する時間
この時間帯の執筆も
悪くないだろう
赤は仕留めた
大型船の全員に向かって
…財宝の6割を頂く
海賊稼業の習わしに従えば
カネもオンナも
全て貰っていくぜ
と、言いたいところだが
な
6割だ
6割でいい
赤は賢明だ
青も続く
…け
大きな船の割に
肝っ玉が小せえんだな
全員、竦み上がっておるよ
情けない
敗因を教えてやろう
《覚悟》
圧倒的な覚悟の欠如
それが
この戦の敗因だ
覚えておけ
青は賢明だ
彼は言う
…赤、青
謙虚に
謙虚に
謙虚にだ
それが我々を最強たらしめ
無敵の存在として
規定しているのだから
…ところで、
船長殿
…オンナを全員
甲板に並べて頂きたい
何、痛いことはせんよ
あまり時間をかけるような
野暮なことも
せん
…急げ
間もなく夕暮れ
頃合い
だ
大型船の船長は
彼の言いつけ通り
オンナを全員
甲板へ
そこには船長の妻がおり
召使いがおり
お手伝いがおり
船倉の奴隷がいた
…不無
66人のオンナを
甲板に並べ
何事もなかったかの様に
平常時のような
落ち着いた様子で
彼は言う
はっきりとした
口調で
…オンナ達は全員
1メートル感覚で
そこに並べ
そうだ
そうだ
おっと、
そこは俺が通る場所
少しスペースを
開けておけ
…そこは気の循環道
トーラスの中心点という訳だ
意味がわからないか
まあ
そうだろう
それで構わない
よし
全員、座れ
安楽座でいい
…わからない、か
まあそうだろう
オンナは通常
本など読まんだろうからな
…こう
こんな感じ
だ
そして呼吸を
先ずは4秒吐き
4秒止め
4秒吸い
4秒止める
これを繰り返し
安定した呼吸を目指せ
不思議な光景が広がる
先の戦闘の喧騒はどこへやら
甲板は静まり返り
オンナ達の呼吸の音
時折、肺の病変部が痛む
そんな咳払いが聞こえる以外は
静寂が支配する
そんな空間が広がっている
…夕暮れ
交感神経と
副交感神経が交差し
ピンガラ村
と
イダー村が
1つになる
そんな瞬間を彼は支配する
彼は一人ひとりの背骨を見る
オンナを見る時は
決まってそうだった
…背骨で人生が透けて見えるのさ
なに
魔法なんかじゃないぜ
現実としてそうなんだ
お前たちも
いずれ解る時が来る
赤、
青、
お前たちにも
きっと
な
彼はチャクラの輝きを観察する
その観察眼に長けているのが
最も特質的で
特筆的な彼の特徴だった
界隈で知らぬ者なし
《謙虚》の旗印に気をつけろ
そんなウワサが世界を闊歩し
自己を肥大化させているのを
彼は知っていた
《白夜》
《藍色の獣》
《監獄船》
7つの海を翔けまわり
幾つかの
称号とは言えない二つ名を得る
それらは彼を
満足させた
どんな金品財宝よりも
ある国の姫を抱いたときよりも
その言葉が嬉しかった
……!…!……☓☓
苦しいか
いい表情だ
蟲が蠢いているのか
突起がいいのか
後ろがいいのか
交渉なぞ
どうでも良かった
これは本当のことだぞ
筋書きは2つあった
どちらを辿っても
私に益するストーリーだ
1つは
何も交換せず
現状を維持するのみ
1つは
…お前、輪番の巫女を
隣村に移住させること
そのどちらかが
交渉の結末として用意されていた
前者は
今の状況であるし
後者は
お前が居なくなる
コミュニティを去る結果を生む
…それでも、良かったのだ
なのに
お前は
あの狩人のためなのだろうな
ヤツが帰って来た時
お前が居なければ
意味がなくなる可能性があるものな
もし
お前がその判断で
ここに残ったとしたら
尚更
この夜で力を削いでおかねばならん
蟲よ蠢け
夏よりも熱く
冬よりも冷たく
もっと、
もっとだ、
果てることを許すな
生かさず
果てさせず
無限の快楽を
この祈り女に
……!…!……
彼の産まれは貧しくもなく
裕福でもなく
平凡、が似合う御家柄
カラダは弱く
齢6歳のころには
全身の皮膚病と
呼吸器疾患で苦しむ日々
何故、
俺、
だけ、
呼吸が苦しい
24時間
365日
マトモに呼吸が出来た
ためしがない
皮膚が痒い
引っ掻いた跡が
痛い
それ専門の悪徳業者がおり
彼の皮膚全体に
山芋と唐辛子を混ぜ合わせた
悪夢の軟膏を塗っていったような
そんな痛み、
そんな痒み、
筆者もそんな類だった
彼は
両親と
祖母と
兄と
姉
6人で暮らしていたが
一度も呼吸苦について
皮膚の疾患について
相談したことはない
学び舎で
友達に馬鹿にされるのが嫌だった
本当に嫌だったんだ
休み時間まで
カラダの痒み
カラダの痛み
呼吸の苦しさ
それらに耐え
休憩時間は一目散
体育館の誰もいない倉庫へ向かう
そこで
肘の裏、
膝の裏、
金玉の裏を
掻いて、
掻いて、
掻きむしった
患部からは血が流れ
明日はもっと
酷くなる実感と
ヒュー
ヒュー
と奇妙な音を立てる
喉に
苛立ちながら
教室に戻る
そんな日々が続く
体育は嫌いだった
体操服になるのが嫌だった
何故?
肌を晒してしまうから
ズタズタで
ボロボロで
時折、血が滲むその肌に
誰もが嫌悪の表情を浮かべたものだ
何故?
少しの運動で
気管支が狭窄し
呼吸が苦しくなってしまうから
ほぼ無呼吸の状態になることもあり
顔面を鏡に写せば
土気色
赤黒顔
酸素が不足し
チアノーゼに陥って
いることが確認できる
学び舎は定期的に
行かないことにした
自分の判断で
適当な理由をつけて
行かない日は少し
ほんの少し気分がマシになる
今、思えば…
精神の回復作業のために
どうしても必要だったのだろう
これで
無遅刻無欠席を目指せ
それが我が家の
習わしだ
などと言われていたら
彼は死んでしまっていたかも
しれない
それほど
彼は自尊心が高かった
齢10歳
状況は好転することなく
むしろ悪化の一途を辿る
皮膚は末期的な状態になり
痛みと痒みで
拷問のような日々が続く
エンドレスペイン
父親の一言は決定的だった
随分と酔っていたのだろう
ヘロヘロになって放った
その一言は印象的だった
「…
お前は、
居ても居なくても
構わなかった
末っ子の次男
お前は
居ても
居なくても
構わない、
そんな、存在だ」
実際の言葉通りであるか
実際とは少し違う
俺の脚色が入っているのかは
解らないが
概ねそんなことを言っていたのを
今でもはっきりと覚えている
転機だ
反抗期で体裁を整え
この言葉を依代とし
エネルギーに変えてやる
自分で生きる
術を学ぶ
本当の知恵を
強くなる
俺は、強くなる
このオトコのようには
なるまい
酔っ払い
息子にかけてはならぬ
一言を無碍に言い放ち
夜な夜な寿司でも
買ってくれば
それでお前は
満足なのだろう、と
そんな人間には
なるまいと決めた
人生を変えるには
食事
運動
瞑想
先ずはここからだ
……!…!……
子猫ちゃん
もっと、可愛がってあげよう
背中を舐めてあげる
「葉…
嗚呼…」
耳を噛んであげる
「嗚呼っ!」
胸は、クリップで
そう、もっと激しく
「宇、宇…!」
後ろ蕾はどうかね
淫乱なオンナだ
スティックを根本まで
しっかりと咥えておる
口を開け
お茶の時間としよう
南米産の
特性だ
お前のために
造らせた
「コクリ」
喉が鳴る
…余程憔悴していたと見える
飲めば飲むほど
その茶は
お前を覚醒させ
敏感な部分を
さらに敏感にしてしまうぞ
苦、苦、苦
懲罰房の夜は
一瞬であるような
永遠であるような
そんな時間の流れ
人間は究極まで
集中したとき
エンドルフィンなる脳内ホルモンに包まれ
恍惚を得るように出来ている
そして
死の間際
Dを頭文字とする
もっと奇妙な脳内物質が
発生していることを
科学者は発見する
Mを中間文字とする
その物質は
祈り女の中
脳に入り込んだ蟲の
大好物
Tを末尾とする
そのものを
強制的に発生させられ
祈り女は夢を見る
……!…!……
そんな海賊の船長は
先ずは自分の人生というものを
大雑把に眺めることから開始した
○歳で、こうなる
○歳で、こうなる
そのためには
半年後、こうなる
1ヶ月後、こうなる
そのためには…
今、これをやる
わかりやすい
誰もが使う思考回路だ
だが、半月を待たず
一心不乱に書いたその大事な紙を
彼は迷わず直ぐに
ビリビリと破き
ゴミとして燃やした
違う
違う
そうじゃない
発想
そのものが違ったんだ
つまり…
終わりから考える
終わりとは
「死」だ
祖母も
父も
母も
兄も
姉も
愛犬も
そして俺も
いつか死ぬ
終わりから考えてみよう
そうすれば、納得のいく
大雑把な人生の捉え方が
できるかも、知れない
死
彼は死を科学する
死についての文献を
読み漁る
死の科学には
様々な記載がある
その土地に依って
その風習に依って
習わしが違う
~人間は産まれ変わり
輪廻を繰り返し、云々
~死の先には
何人もの処女が
お前を待っている
そこには楽園が、云々
~ある川を辿り
ある場所で死を迎える
これが人間として
最上の死に様で、云々
彼は墓は要らないと
今も心に決めている
拝むなら勝手にどうぞ
俺はここには居ないよ
もっと魂を
ブラッシュアップさせて
後世に
現世に
影響を与える存在として
どこか
別の場所にいる
そんな死の概念を
考えに考えた末
彼は2つの知恵に到達する
「死はイベントであり
魂は、
意識は
無くならない
それは、真実だ
死という目的に向かって
いかに自然体で居られるか
そこが、
肝心だ」
「死を意識すること
これが唯一
生を輝かせる道標」
これらを胸に
彼は大海原を翔ける
船は小さくて良い
全てに自分の意識と届くくらいに
小さい方がいい
持ち物も
最低限でいい
…?
彼は目を細め
オンナ奴隷の背骨に
目をつける
船底に幽閉されていたのだろう
衣服はボロボロ
顔には昨夜の余韻なのか
誰かにぶたれた跡が
くっきりと頬に刻まれている
ウェストが細く
腰骨のエッジが美しい
…お前、名は?
彼は声をかける
…名前、は
あり、ません…
…どうぞ、必要とあらば
貴方が、おつけになって、くだ、さい
…良し、決めた
彼はそのオンナを
名もないオンナ奴隷を
戦利品とすることとした
大型船の全員が大喜び
これで済むのなら、と
苦、苦
彼は笑っていた
赤も、
青も、
その理由がわからず
表情が曇る
…何故?
その娘を?
…そうです
財宝をかっさらって
くれば良かった
のに
…いずれ、
解る日が来る
…この娘を
船底に
軟禁しておけ
彼女は
《等量のプラチナよりも価値がある》
いずれ
解る日が来る
いずれ、
な
……!…!……
耳の中に蟲がいる
ざわ
ざわ
ざわと
ぬめ
ぬめ
ぬめと
奇妙な足音を発しながら
奇妙な液体を放出しながら
祈り女の脳内を闊歩し
秘密の部屋を目指し
再度行動を開始する
魂の座
松果体を目指すには
慎重に歩を進めねば
量子力学の定義よろしく
彼等は互いに連絡しあう
…この道がよさそうだ
ここを通れば、近道だ
だが、待てよ
回って
回って
遠回り
それが最短ということも
往々にしてあるというもの
…彼女のカラダが耐えれれるかどうか
そこが問題だ
慎重に、慎重に
…左右対称では、ないのだな
それはそうか
人間は螺旋状に出来ている
かの人体学にも
そのように記載されていたものな
「葉っ!
葉っ!
葉っ!……!」
喘ぎを聴かせろ
もっと、もっと
声は
供物
この夜を
更に
妖しく光らせる
供物
……!…!……
《かごめ
かごめ
かごの中の鳥は
いついつ
でやる
夜明けの
ばんに
つるとかめが
すべった
うしろの正面
だあれ》
誰かがバンジョーを奏で
鼻声で歌っていた
その歌い手は
CDを作成する際も
「ライブ感が一番大事だ」
と言っており
ほとんどの場合
一発で、
一回で、
録音を終えた
《地球の裏側にいても
わかるような声》
そのように評された
彼の真価は
腰を痛め
まともに立てなかった
1970年代に絶頂を迎える
「俺は生きたい
俺は与えたい
俺は黄金の心を求め
彷徨う鉱夫
この思い
言い表せずにいる
今はそれでいい
この思い
これが
俺を掻き立てる
黄金の心へと」
そんな旅路の詩を歌った
「オトコはオンナが必要」
をピアノで
「収穫」
をアコースティック・ギターで
彼が歌う
祈り女は
夢見心地
恍惚
安心
覚悟
勇気
そんな魂に触れられることを
誇らしくも思う
そんなオトコが
夢の中で君の手をとる
「今夜は収穫の月
それを一緒に
眺めないか?」
ドロップDで調律された
マーティンのD45が
美しく鳴り響く
……!…!……
にぎ
にぎ
にぎ
あん
あん
ああん
カリソメの尻尾は
悪魔の尻尾
耳の中の蟲は
さらに踊る
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