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交渉
ベッドイン
しおりを挟む春色のワンピースは
ソファにゆっくりと
腰を下ろす
もう少し暖炉に
火をくべる必要が
あると感じる
この部屋は少し寒い
客人のための部屋としては
「…私から話すべきかな?
…聞きたいことがある、と
君は言っていたが…」
「…わたし、からでも…
よろしい、です、か?」
「何なりと、
美しいお嬢さん」
「…交渉がある、と
…仰っておりましたが…」
「…そのことか、
君はてっきり
長老殿の使いとして、
交渉の一部として、
ここまで来たのかと
そう思ったのだが…」
「…ちがい、ます」
「…そのようだな
君の目が言っている
只の興味だと、
私に対する
興味だと、
そうかな?」
「…は、い
失礼では、
ありません、か?」
「勿論、
その方が私は楽しめる
嫌
そうでなくては
私は楽しめない
…
…交渉について、だったかな?」
「…は、い」
「そう、
交渉のため、
そのために私は
ここに居る」
「……」
「…知りたいかね?
…内容を?」
「…可能で、あれば、
…失礼で、ないのであれば…」
部屋の窓から
雨の音がする
小粒の雨は
瞬く間
大粒になり
互いの声が
少し遠くなる
「…我々の村は
裕福でもなく
貧困に喘いでいる
わけでもない」
「…」
「人数は200人、
昔も今も変わらず
その人数を保っているんだ
66人は画家、
毎日、絵を描いており
絵画に相応しい名前をつける
66人は文学者、
本の執筆、他書の模写を生業とし
他66人は雑事をこなす」
「…」
「1人はまもなく死に至り、
入れ替わるようにして
もう1人がまもなく産まれる
そして、私がここに居る
これで合計は200となる」
「…」
「…採集は最小限、
肉は食べない、
そんな暮らしだ
…故に《狩り》という
概念もなく、言葉もない」
「…」
「先代の、
先代の、
その先代のさらに先代が
言ったそうだ、
最小限を探ってみよう、と
おそらくこれが答えになる、と」
「…こた、え…
何の…?」
「3食なぞ食べ過ぎだ、と
2食でも多いくらいだ、と
1食にしてみろ、
そうすれば
閃きがやってくる
そして幸せになれるだろう、と
…
彼は言った
その知恵は閃光のごとく
早朝4時に現れた、と」
「…なんと、なく」
「…わかる、気がする、
そうだろう?君なら」
「は、い」
「1日1食を
必ず守らせる、
必ず、だ
それに不満をもたらす者は
……………いない
1人、たりともだ
不思議に思うだろう?
そんなことで
身体が持つのか?と」
「…いいえ、わた、し…」
「…わかる、気がする?」
「は、い」
「そんな村だ、
交渉に差し出せるものは
随分と限られている
通常の交渉というのは、
肉と穀物、
穀物と肉、
それを常としているのだからな
…寒くは、ないかね?」
「少し…寒いです…
では、一体
何を、
差し出すのです?」
「…情報
…美術
…書籍
この3つ」
「…」
「この交渉で
我々が差し出すのは、
そのうちの
《情報》
幻の書
《究極の心と身体》の一節
…
中身は明かすことはできない
例え、君でもな
これを手に入れた経緯も、
手に入れる方法も」
「…そして
何を?
得るのです?…」
「不無
我々が求めたのも
《情報》
《薬草学》の失われたページ
…寒くは、ないかね?」
「少し…寒いです…
薬草学でしたら
私も…
持っておりますが…」
「…違うな」
「…」
「薬草学は
完成していない、
著者はまだ生きており、
なおも執筆を続けている
そして、
肝心の部分、
本当に人を癒やし、
治すための情報は
伏せられていると
私は知った」
「…そこに…
何が…
書かれているの、です?」
「…万病を癒やす
薬草の調合について、
…ミトコンドリアなる
人体の細部への理解、
これを手に入れるため
私はここにいる
…寒くは、ないかね?」
「…寒い、です…」
「…おいで、ベッドに、
少し、温まろう
話の続きは、そこでしよう」
「……、
……、、」
「…心配、かね」
「…は、い」
「…私が、オトコだから?」
「…は、い」
「解らずでもない、
無理強いはせんよ
ソファでゆっくりと
横になっていてもいい」
「……、、、」
「寒い、のだね?」
「…は、い」
「おいで、
続きをしよう、
…話の、続きを」
「…
…
…
は、い」
大粒の雨は、
嵐となる
この距離では、
互いの声は
もう、聞こえない
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