《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交渉

湯船に浸かりましょう

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君は薄襦袢をまとい
大浴場の中、隣村の長を待つ

何分待ったかは
よく覚えていない

ふと、思う

…胸がざわつくことも
 あるものね
 
 あの狩人様は今
 どこで、何をしているのかしら

 呑気で
 平凡で
 退屈な
 
 このコミュニティに
 嫌気がさしているのかしら

 怠けて
 だらしない
 色欲に溺れた
 そんな場所
 
 そう思って
 いるのかしら

 コミュニティの
 落日の日
 それが訪れたなら
 どんな目で視るのかしら

…退屈とは最も遠い
 平穏とは言えないであろう
 傷の絶えないその旅路に
 
 どうか、実りが多く
 ありますように…

…………

「…お待たせ、したかな?」

客人は、
隣村の長は、
入口で君に挨拶をする

湯気ではっきりと
視認できない、が
そこに腰巻き一つの
《概ね裸》といえる
初老の男が立っていた

腰巻き一つ
それはそうだろう
これから風呂に
入るのだから

上半身も
下半身も
9割の肌が露出している

…目のやり場に
…困ってしまうわ

年齢の割には
しっかりとした身体つき
腹筋は筋ばっており
胸は君より大きいくらい

髪の毛の結び目は解かれ
長髪が肩位置よりも下に
おいでなすっている

「…」

「大きな風呂だ
 有り難いな」

「…」

「どのように、すればよいかね
 この村のシキタリに従おう」

「…わたし、
 よく、わかりません
 わたし、
 いつもは…」

「…いつもは?」

「…湯船に浸かる前に
 …かけ湯を6回
 身にかけて…
 みそぎをします」

「不無、不無、それで?」

「そのあと…
 6分の入浴と、
 6分の水風呂へ…」

「水風呂とな…
 成程…」

「……」

「交感神経と
 副交感神経の入れ替え
 そういうこと、かな?」

「わかり、ませんが…
 ととのう、まで数回
 それを繰り返します…
 何となく、ですが
 そうしています…」

「…つまり
 入浴にルールはないが
 君自身は
 そうしていると?」

「は、い」

「…おもしろそうだ、
 君に従おう
 美しいお嬢さん」

「…」
 
「ところでな、
 美しいお嬢さん
 君の
 薄襦袢が
 透けているのでな、
 なるべく
 なるべく
 目を背けておくこととしよう」

「……!」

確かに

湯気が身体にまとわりつき
襦袢はぴったりと
君のくびれた腰と
小さい胸と
その先の突起までもを
うっすらと透かせていた

今頃、
君はそれに気づく

全く、
君はいつもだが
オトコ心を、
知らない
常識を、
知らない

いつも、そう

…陽
 太陽の属性

…君はそう思う
 彼の身体
 彼の言葉から
 陽を感じる

「…どう、なさいますか?」

「不無、君の思うままに
 私を導いてくれ
 それでいい
 君の思う、ままに」

「………」

…どうしよう
 困った

自然な反応だ、
輪番の日々、
君が他人を導くことなど、
一度もなかったのだから

…身体の声に従おう
 そうしよう
 そうするしか、ない

彼を
湯船の近くへ
促し
足元に気をつけるようにと
いっぱしな事を言う

なるべく
ゆっくりと
なるべく
ゆっくりと

彼にかけ湯を
1、2、3、4…
何とか回数を数えながら
6回、
優しくかけてみる

右足
左足
腰巻きの部分
背中
胸まわり


の順番で

彼はその部分を
自分でこすり
なるべく彼女に迷惑をかけまいと
そんな配慮をしている
ようにも見える

何故って
彼がこすらなければ
彼女がこすらねば
ならないだろう?

こんな細かい所作からも
彼の人柄が伺える
嫌、
細かい所作は
その人そのもの、
人となりを表す、もの

…?

君は背中の筋肉の一部に
大きなかまれ傷のようなものが
あることを知る

傷の理由には触れないでおこう
何となく、
それがマナーであると
そんな気がして

「…では」

君は6分の入浴の間
彼の傍らで椅子に座り
月を眺めぼーっとしていた

嗚呼、
月が、綺麗
嗚呼、
今夜は、とても綺麗

ふと、何分が経過したのか
わからなくなり

彼の方から
「そろそろ、かな」
そんな声がかかる

「粗相をするなよ」
長老の声が聞こえてくるようだ
申し訳、在りませぬ…

彼は入浴と水風呂を
3回繰り返し

「不無」
「整った」
「成程、こういうことか」

その言葉の後は続けず
無言で浴場を後にした

優しい人…
君は思う

彼は客人
オトコとオンナが密室で2人
オトコとオンナが浴室で2人
そんな状況でありながら

触れもせず、
「一緒に入ろう」などとも言わず、
睦み合いに及ぶこともなく、
浴室から去った

もう少し
言葉を交わしてみたい
もう少し
彼を知ってみたい

胸に宿る思いとともに
月をもう一度、眺めてみる

今夜の月は、
本当に、綺麗
何故、かしら…
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