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永久機関の村
演説
しおりを挟むあいつは言った
《鍛錬…何のことだ》と
それは、俺の心を曇らせた
そして続けてみせた
《成長…何のことだ》と
この言葉が決定打だった
俺は心底、呆れていたよ
俺はこの村を間借りしたまで
ここに最早、用はない
語るべきこともない
さっさと書き記し
早く去ろう、この村を
ここは俺のいる場所じゃない
~~
俺はこの村で一番強いオトコと
戦ってみたいと
彼に懇願した
どうしても
そうする必要があったんだと
今ではそう思う
その願いは
6日後に叶うこととなる
その6日間については
中略する
ここに記すべきことはない
退屈な時間
それだけ
そして
その日は訪れる
…確かに、
筋骨隆々、
この村の中では一番といえよう
俺より背丈はかなりあろうし
上腕2頭筋が発達してもいる
…だが、それだけだ
筋肉が協調していない
見れば、解る
何よりも、
決定的に足りないものがある
村の者はこのショーを見るため
寄り合い
群れあい
中央広場に集合した
俺は弓矢も
短剣も彼の家に置いてきていた
相手も素手だったが、
戦斧のような武器を持っていたとしても
意に介さずだ、結果は同じ
決定的なものが、欠けているから
何故、こんなことを?
何故?
村人が口々に言う
理解がどうにも追いつかないようだ
…まあ、いい、
今に、わかるさ
力比べのルールはこうだ
・どちらかが、声を上げたとき
・その声が、敗北を意味するものだったとき
・5大関節の一部が機能しなくなったとき
・意識を消失したとき
その他幾つかのルールが設けられたが
もうそんなのは覚えちゃいない
大型のドラムが鳴り
《力比べ》の開始を告げた
瞬間
俺は彼に向かって大きな声を
《××××!!!》
表現するには難しい
只、気を込めただけ
勿論、敗北の声ではないことを
確認しておいてくれ
…覚悟
…勇気
…燃える心
…輝き
…生
…集中
この旅で唯一といえるのか
あのオトコには
世話になった
ありがとうと、言っておきたい
大男との距離は歩幅にして6歩
その距離感を一瞬で詰め
肘を一閃
彼の胸ぐらに叩き込み
直ぐに俺は離脱した
これで十分だ
その感覚はあった
彼は気を失い
その場に伏した
聴衆は一様に青ざめ
ざわついていた
大男の妻と子供がかけより
その容態を案じて声をかけた
彼は唸り声をあげ
顎で何とか呼吸している
まだ
死んではいないことに
一族郎党、気づいただろう
~~~~~~~
よし
先ずは呼吸を
そして覚悟を
いかに狩場で死を覚悟する
毎日だったとはいえ
俺は丸腰
全員でかかってこられたら
結果は解らない
そうなったら
全員殺す
そうなったら
全員殺してやる
涼やかな殺意を
身にまとえ
俺は待っていた
全員が俺を見る
この瞬間を
ゆっくりと喋る
はっきりと喋る
声が先、心があと
あくまで、ゆっくりと
慌てるな、呼吸法
仙道だ、仙道の呼吸を
…
「笑わせるな!
何だ、この村は」
「退屈、そのもの
働かず、動かず
豊作の木に向かって礼拝するのみ」
「何だ、この村は
オトコは弱く
オンナは情欲にまみれている
俺は知っているぞ
ここ6日間、とっぷりと
見させてもらったぞ
お前達の体たらくを!」
「俺は見た、オンナどもを
群れ、集い
他と一緒であることに
安心をしきっているのだな
肥え、さらに肥え、
旦那との一夜を過ごしながら
一方で
隣のもう少したくましい
オトコの腕を求めている
食欲に支配され
朝の目覚めは遅く
夕暮れの支度もしない
羊だ
羊の群れだよ
どんなに束になろうとも
ある祈り女には
勝てようはずもない
家畜どもが!羊どもが!
豚どもが!
永久機関に寄りかかり過ぎたな
恥を知れ、オンナよ」
呼吸を、深く
喋りは、
しっかりと、ゆっくりと
考えるな、感じろ
「俺は見た、オトコ達を
日々の生活は一緒
毎日が一緒
安定し
食うに困らなければ
狩りをする必要もない
水を汲みにいくこともなければ
歩かず、走らず、狩らず
怠惰の毎日の連続、
安心しきって
昼間まで眠れるのは何故だ?
永久機関
この存在があるからだ!
この存在が動きを止めたとき
俺がそれを破壊したとき
お前達は守れるのか?
家族を
子供を
愛しい人を!
輪番の祈り女を!
羊だ、
羊だよ、
群の中に居すぎたな
…
力自慢の大男、
お前も聞いておけ!
鍛錬は
バランス、
目的、
集中、
瞑想の先にある
だから、一瞬で負けたのだよ
自分、独りでは
最早立ち上がれまい
怠けものども!
家畜どもが!
恥を知れ!オトコよ!」
「幸せとは何だ?
一体、何が幸せなのだ?
教えてやろう
子供らよ
これだけは覚えておけ
このうちの一つでよい
集中だ
没頭だ
感じることだ
アウトプットすることだ
学ぶことだ
謙虚であることだ
不安を認め
戦うことだ
愛することだ
向上することだ
鍛錬することだ
成長だ
お前たちはそのために
ここに生まれ落ちた」
もう少し、だ
呼吸を整えろ
「…オトコ達は…
鍛えろ、
学べ、
弱くなるな、
頼るな、
地に足をつけろ、
狩れ、
変化を恐れるな、
そんな無様な生き方で
そんな無様な体型で
一生を終えるのが幸せか?
違う
違うはずだ
この世界はもっと
伸びやかで
しなやかで
お前たちにだって
無限の可能性があったはず
今も、なお」
「…オンナ達は…
群れるな
常識の中に入り込むな
集中したオトコの邪魔をするな
TO DOよりも
NOT TO DOを考えろ
俺が去った後、
直ぐに
部屋に一枚の紙を用意し
《群れず、邪魔せず》
この2つは書いておけ
そこから4つは、自分で考え
自分で決めろ
もう一つ
砂糖を入れるな
ブラックが正解だ
そんな無様な生き方で
そんな無様な体型で
一生を終えるのが幸せか?
違う
違うはずだ
この世界はもっと
伸びやかで
しなやかで
お前たちにだって
無限の可能性があったはず
今も、なお」
もう、一呼吸
「自立しろ
自分の足で立て
何かに依らず
自ら決め
自ら動け
…要は行動だ、
最後に……」
「…死を意識しろ
どう生きたいか
ではなく
…どう死にたいか
これが生を輝かせる
唯一の順序
覚えて、おけ」
《…今のお前たちには
永久機関は似合わない!》
これが最後の台詞だった
潮時だ、
今しかない
さらば、
友よ
何日も俺を泊めてくれたな
色々な話をしたな
この旅の途中、こんな経験をできるとは
思ってもみなかった
ありがとう
さようなら
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