《瞑想小説 狩人》

瞑想

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輪番の始まり

輪番の巫女

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コン…コン…

ドアはノックされた

春の間の一番奥
この部屋にいるのは君だけ
答える義務は君にある
部屋には一人しかいないのだから

「…は、い」

ガチャリ

ドアは
無造作な音とともに開いた
開ける音だけで
それがオコトの行為で
あることがわかる

何人かの気配を感じる
足音も1人ではないことを告げている
部屋に風がなびき
オトコの香りが空気を包む

君はソファに腰かけたまま、
笑顔でも仏頂面でもない
ニュートラルな表情を保つ

時は宵の口
交感神経と副交感神経が入れ替わり
夕焼けが山並みに沈むころ

三人

…一人は
  私をここに導いた仮面のオトコ
…一人は
 同じ仮面をかぶった大柄なオトコ
…そしてもう一人

…それは長老
 このコミュニティの長であり
 最高権威者

初老というには歳をとりすぎているし
好好爺というには企みの笑顔が過ぎる
白髪の髪は元気に生え揃っており
髭は丁寧に剃られていた。

暖炉にはいつの間にか火が灯され
大きめな部屋に
陰影を、炎のゆらめきを作っている

「…昨夜の踊りは
 よかったぞ、巫女よ」

長が言う

「…」

君は答えず、ただソファに座り
うつむいているのみ

まるで蛇に睨まれたカエル
ヒマラヤの蜂蜜を無防備に舐めたアリ

「不無、
 よかろう
 思った通りのオンナだ
 …
 祈り女よ、
 お前は輪番の巫女として
 選ばれた」

「…」

「ようこそ、春の間へ」

「…一体…」

「何かね」

「…一体、何を、すれば
 良いの、です?」

「不、不、
 何も聞いておらんか
 まあそのほうが楽しめるというもの
 祭りを境とし
 乙は甲に入れ替わる
 …
 今は、甲月
 闇が支配し、
 獣が調教師の力を上回る
 そのような月周り」

「…おっしゃる意味が…」

「…コミュニティは私のもの、
 この村は私のもの
 先代から受け継ぎ、
 脈々と続く営みの中
 お前たち、
 祈り女の存在が
 必要なのだよ
 …
 《夜は自分を慰めること》
 この教えに従い
 夜は享楽の場とした
 …
 先人の知恵は誠に
 素晴らしいものだったといえる」

「…享、楽…」

「ところで」

「…」

「昨日の夜のことだ
 …
 お前は祭りの踊り手として舞い
 存分にオトコ達は楽しんだ
 …
 そのことは褒めてやろう。
 そして、
 同じ夜、
 一人の狩人が
 この村から抜け出した。
 知っているか?」

「…いえ、何も…」

見当は…
ついていた

私と語らった、
私と同じ次元を共有した
あの狩人様のことに違いない

彼は、
旅に出ると言っていた

「…ならば良い、
 今はな
 だが覚えておけ、
 私はこのコミュニティの
 全てを知るもの、
 全てを把握するもの、
 全てを知覚するものなるぞ」

「…」

「…先ずは
 着替えをしてもらおうか
 祈り女の装束は
 この場にそぐわない
 …
 その衣をまとい
 上にはガウンを
 …
 そしてこの部屋を出たなら
 隣の部屋をノックするがいい
 おっと、
 ノックの数に決まりはない
 1回でも、2回でも、
 3回でもかまわん
 6回は困る数字だとだけ言っておこう」

「……」

「返事は」

「は……い」

「よし」

彼等が立ち去ると
ドアが閉まれば
部屋にまた、静寂が舞い戻る

唐突に始まった
輪番の初夜

君は予め置かれ
畳まれていた
ピンクのキャミソールに袖を通し
その上にガウンを羽織るしかない

…言い付け通りに

…オトコの待つ部屋に、
 自ら訪ねていく
 初めての経験

コンフォートゾーンの外に出るのが
フロー理論の
真髄とはいえ
初夜
彼女には初めてが多すぎる




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