《瞑想小説 狩人》

祈り女と狩人

松果体の交流

……
……

（…何故、何故
　君の声が聞こえるんだ？
　そもそも、君は踊っているだけだろう？）

（…そうね
　…私にも、
　…わからない
　でもね、予感はあったの…
　今日、何か、あるなって）

（…何故？
　そう思った？）

（朝…）

（朝…？）

（…凄く鮮やかな光が見えた、の
　いつもと違う、紫色の光）

（…わかる、気がする）

彼女は180度の
大きな開脚をしたかと思えば
その右足を
自らの右手で抱え
高々と天に突き上げた

アーサナにもこんなものが
あったような、
なかったような

…学び舎でもっと
　真面目に学んでおくべきだった

円形のステージ
それを取り囲む
オトコもオンナも
不思議な踊りに魅了されていく

チャームの魔法

惹きつけの媚薬が蒔かれた空間に
それぞれの
欲情が植えられ、
栄養を蓄え、
水分とともに発芽する

（…紫色の、光
　丹光って、やつか）

（…そう…
　…なの…？
　…私、わからない）

時間軸がねじ曲がる
時間と、空間が一つになる

シャーマニック・ドラムと
ティンシャの響きが
不浄を浄化し、
気を、水を、血が逆再生する

（…何を、考えて、踊っている？）

（…何も、考えて、ないわ
　…気持ちよく、
　…カラダが求めるまま
　…それだけ）

（…そうか…）

両手がガルーダアーサナの
ねじ巻きを形作る

脚は大胆に開き
片足は地に、
もう一方は天高く

オトコの欲情を
たぎらせるような

無意識のスイッチを入れ
魅了するような
そんなポージング

チャーミングな顔に
小柄な身体

全身を見れば
《痩せている》と
《痩せすぎ》の
中間くらい

胸は小さく、
時折、誰がデザインしたのか知らん
ショートワンピースから
極細の
ウェストラインが覗き見える

常識深い女ならば
こんなポーズはとるまいな

際どいな
際どすぎる

彼女は…
身体の声を聴いている
ただ、それだけなんだろう

（…不思議な感覚だ…）

（…そうね
　…私も…）

俺と彼女の間には
大きなトーラスができ
中間地点が軸になり
気が循環している

多分、踊りは
クライマックスなのだろう

ドラムは叩くのをやめ
ホルン奏者は吹くのをやめた

ティンシャの音だけが
暗闇に鳴り響く

…俺の耳元に
　彼女が居る
　松果体が振動する距離を保ちながら