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祈り女と狩人
祭り
しおりを挟む…不思議な感覚だ
と俺は思った
:::::::::::
今夜は
年に一度の
コミュニティの祭り
宵深く
闇深く
黒よりも深い、青い闇と
炎のゆらめき
飲めや歌え、
そんな大騒ぎを尻目に
俺はいつもと変わらず
矢尻を研ぐことに
意識を集中する
…何も考えるな
何も考えなくて、いい
…集中し、没頭しろ
そのことが明日に、繋がる
ただ、行為の中にあればいい
…著名な言葉を借りるならば
「真であり、有益であること」
今の俺は
その中にある
ドン…ドン…ドン
もうすぐ、
祭りはクライマックスを
迎えるのだな
シャーマニック・ドラムが言っている
炎の前には
大勢のオトコ、オンナがおり、
無心に肉を貪り
談話に興じ
今夜の相手を探すことに、
夜がもたらす雰囲気そのものに
大いに酔いしれている
…くだらない
俺は狩人であって、
それ以外の何者でもない
故に俺は矢尻を尖らせ、
短剣を研ぐ
…それでいい
それでいい
…快を求める心がある
誰の心の中にも、だ
それが
人生の目的であることを
俺は否定しない
しかし
しかしだ、
俺のテントの前で騒ぐな
俺の道の邪魔をするな
快の道は人、それぞれだ
そんな思いが頭をよぎる
シャーマニック・ドラムが鳴り響く
大きな音が頭蓋骨を揺らす
祭りは
大いに
大いに
盛り上がり
周波数を高めていく
オトコ達は
明日への活力は何処とばかりに
飲み、食い、歌い、踊る
両肩にオンナを抱き
何やらこそこそ、と
今夜の閨はどうこうの、と
ドン…ドン…ドン
ドラムが夜に彩りを添え
オンナが彩りを可憐な華にする
2つの打楽器は
左右非対称に
大きな音を打ち鳴らす
バイノーラル・ビート
というヤツらしい
非対称な音は
聴覚を混乱させ
異様な雰囲気を醸し出す
ルートチャクラを刺激し
丹田を賑わせ
太陽神経嚢が震えるような
そんな音階が響く
炎
音
踊り
…祭り
これは、
儀式、
意識と無意識を繋ぐ橋
::::::::::
祭りの最後には
何人かのオンナが
踊ることになっている
円形のステージ
その四方には
燭台が配されており
ロウソクの揺らめく炎が
妖しい夜を
さらに妖しくせている
…まるで
焼けた
フライパンのようだな
俺は円台を見て
奇妙なことを考えた
今宵の踊り手、舞姫は3人
平たく言えば
長老のお気に入りってやつだ
…くだらない、な
…好色の祈り女が
好色のオトコの欲情を駆り立てる
ただそれだけのことだ
2人目の踊りが始まる、らしい
1人のオトコが
彼女をステージにエスコート
オトコは狩人の1人のようだが
俺の知っている奴ではない
そもそも
俺は狩場でつるむことをしない
知らないのも、当然か
単独行動を許された
狩人のナンバー・ツー
それが今の俺
しかし、
しかし、な
地位など関係ない
少なくとも
俺には
没頭できれば
それでいいのさ
円台の上
オンナは一礼し
頬を赤らめながら
不慣れな舞いを踊ってみせる
クラシックでもなく
コンテンポラリーでもない
ヨガでもなく
戦場の最前線に送る舞いでもない
…別に
顔が不造形な
訳じゃない
…スタイルは…
…66人のオトコがいれば
65人が「良い」と答える
そんなオンナだ
…しかし、な
同じだ
同じ
いつもと
同じ
彼女らは
祈り女(イノリメ)と呼ばれ
専ら
祈りと採集を
生業としている
ドン…ドン…ドン
2人目の
祈り女は舞う
オトコ達に囲まれ
まるで視姦されているような
雰囲気の中で、
誰が教えたか知らん
振り付けを
間違えぬよう
最後まで踊り終えた
…喝采、
興奮、
熱狂、
欲情、
渦…
祈り女は
ほっと一つ
長い息を吐く
オツトメ
ご苦労様だな
両手を合わせ
月に祈りを捧げたのち
彼女はステージを後にした
…何も変わらない
いつもと
同じ、
同じだ、
宴の本質は一緒
…俺は狩人だ
…内面を成長させること
肉体を鍛えること
精神の鍛錬
いうなれば
…《究極の心と、身体》
それを目指すことにしか
興味は、
ない
ドン……ドン……ドン……
シャーマニック・ドラムが
最後の祈り女の
登壇を促している
最後の舞い姫を待つ
ステージを
静寂が支配する
…?
辺りが少し
暗くなる
…?…
誰かがロウソクの火を
吹き消したのだろうか
こんなに暗くはなかったはずだが
先刻、までは
4方の燭台は…
そのままだ
…?…
ドラムのリズムが
おかしくなってきた
左右非対称
だったものが
くっついたり、
また、はぐれたり
《風見鶏
炎ゆらめく
この夜に
コイのはじまり
アカシヤ揺れる》
…?…
名前のない植物が
大きな口を開け
そんな詩を詠む
思えば…
この時分から
空気が
変わりつつあった、と
思うのだ
今、ならば
ドン、
ドン、
ドン…
…!…
先刻まで
夜空に浮かんでいた
月は何処へ行った?
北を示すのが常な
あの星の
傍に有ったはず、なのに
……
…そして
そのことに
誰も、
気づいて
いな、い
…会場に、
周囲に、
異様な、
緊張感が、
溢れている
と、
俺は感じた
…何だ?
これは…
ドン……ドン……ドン……
最後の祈り女が
壇上に導かれる
ステージの右側から
1人のオトコのエスコートとともに
《舞姫の
おどり見るため
月がくれ
揺らめく煙は
紫その色》
周囲に
紫の煙がかかる
洒落た演出、なのか
俺が、おかしくなってきたのか
闇夜に浮かぶ
彼女のシルエットに
目を奪われる
スタイルがいい、とか
可憐である、とか
仕草が美しい、とか
そんなことじゃ、ない
…何、
かが
違う
一体、何が?
狩場に居る時のような
命のやりとりしている時のような
緊張感が俺を包む
鼓動が早くなり
血流がそれに乗り
身体が熱くなり
俺は思わず
短剣に右手を伸ばす
…不思議な、感覚だ
俺は思った
一人のオトコに導かれ
少し恥じらう仕草とともに
彼女は
円台の中央へ向かう
ゆっくりとした
足取りは
まるで
《どれだけ人はゆっくり歩けるか》
を実験している
ようでもある
か細く、可憐なたたずまい
顔はまだ陰影の影の部分にあり
視認できるものではない
ウェストが
とても
とても
見たことがない位に細く
誰がデザインしたのか知れん
へそまでが視認できる
華麗な着衣を
身にまとう彼女
着衣の直上には
腰骨のラインが
しっかりと刻まれている
綺麗な、
綺麗な、
カラダだ
…何かが違う
何かが、違う
…空気が変わった
周囲の雰囲気が
…色も
…ドラムの音色が
曲がって見えるし
…アカシヤの花が
強烈に香りだす
…音が見え
匂いが聞こえる
…そう、感じているのは
俺だけ、なのか?
…背骨の、
頸椎の、
胸椎の、
腰椎の、
形が違う
…そうか、
ある種の獣には
我々が探知できない波動
周波数がある
…彼女も、
そうなのか
…
不思議な感覚だ
と俺は思った
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