ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww

刺狼(しろ)

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複雑で醜悪

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魔族襲撃の騒ぎで、私達は人の波に流されて離れ離れになってしまった。特にイヴちゃんやルキくんのように小柄な子はこうなってしまうと見つけるのに時間が掛かる。

「とにかく、皆の無事を確認したいわね」

──バコッ!

「ギャァアッ!!」

背後から迫る魔族を裏拳で殴りつけると、私は緩んだ髪を結い直した。近くで戦闘音がするので、そこへ駆けながら皆の身を案じた。

広場から大通りの横の筋へ入ると、ギルドの冒険者のような出で立ちの男が三人、華奢な少年と剣を交えていた。少年の方は息一つ切らさずに不敵な笑みを浮かべ、私を見据える。
その時走った言い様のない不快感と殺気で、私の敵は確定した。
そもそもこんな子、騎士団時代に巡回してた時も最近出入りしてるギルドでも見たことが無い。

「あなた達!大丈夫?!」

「うぉお!アンタは……っ」

「騎士団の巨乳副団長!」

「元、じゃなかったか?」

「いや巨乳は健在だろうよ」

「そっちじゃなくて肩書のほうな!」

こんな状況なのに、失礼な冗談を交わす彼等に呆れつつ魔装具を展開した。
口調こそ陽気だけど彼等の体は傷だらけで、強がっているのがわかる。

「逃げなさい、こいつは私が引き受けるわ。あと、失礼なこと言わないで」

「ふぅん。お姉さんがボクの相手してくれるんだ。楽しみ」

対峙していた少年の方も、彼等を逃がすことには特に異論は無い様だった。魔装具と思われる彼の手に握られた剣は、引き摺るようにカリカリと地面を僅かに削る。

「副団長さんがやってくれるなら安心だぜ!」

「さすがの巨乳だな!」

「頼んだぜ!巨乳副団長!」

「だ、だからそれが失礼だって言ってるのよ!!
とにかく他の所に加勢するなり、逃げ遅れた人を安全な場所へ連れて行くなり、あなた達に出来ることをしてっ」

男達は軽口を叩きながらその場を去っていった。態度は悪いけど、返事は一応していたので任せてもいいと思う。

「立派だね~。キシドー精神ってやつ?ふふ、ウケる」

「何も面白くないでしょ。アンタ達魔族のせいで街がこんな風になってるのに!」

「しょーがないじゃん?ボク達は人間キライなんだしさ。それより、さっさと殺ろうよ」

ギラリ、と夕日に照らされた血塗られた剣身が光る。タカトよりほんの少し歳下くらいの見た目からは想像出来ない程の殺意を込めた眼が、私の視線とぶつかった。
人の形をしていても、この状況でヘラヘラしている彼は、どう見ても普通ではない。

脱力した姿勢で此方に向かってくる少年の剣が地面を擦り火花を散らす。
鞭のようにしなって振り下ろされた腕は、紅龍とぶつかって甲高い音を立てた。

──キィィイン!!

続けて、弾いて出来た隙に差し込むように炎を纏った五指で相手の腹部へ打ち込む。

「【紅龍三式・爆焔爪ばくえんそう】ッ!!」

「ぐっ……ッ!」

捩じ込んだ五指をそのままに、カルラに教えて貰った寸勁の要領で掌底を叩き込むと、少年は石畳を砕きながら吹き飛んでいった。

「あぁ……いってぇ。容赦ないんだね」

「あんまり効いてないみたいね……」

「そうだね。ボク、痛みには強いから」

口角を歪に吊り上げて笑う不気味な反応に、警戒を解かずに問い掛ける。

「アンタ、何がしたいの?なんで魔族に加担するの?」

「だから言ってるでしょ。人間キライなんだ。ボクの事を虐めた奴ら全員血祭りにあげて、そいつらの大事な奴も全員地獄に叩き落としたい……お姉さんはそういうの無縁そうだよね。いいなぁ」

「復讐……ってことね」

無縁どころか、私も復讐という点ではこの少年と同じだと思った。やっぱり私はギースを、心の何処かでは許せずに殺意を抱いているのだと。
無意識に唇を噛んでいた私へ、少年が突然楽しそうに笑った。

「あっはっはっ!なにその顔?もしかしてお姉さんも、誰かを許せなくて殺してやりてぇとか思ってるんだ?!はははっ!!いいなぁ、それを受け入れられてないのもいい……ふふ、好きになっちゃいそう」

「ふざけないで!私は……!」

「そんな事思ってないって?嘘つきだなぁ。じゃあさ、試してみようか」

少年がそう言うと、彼の体にドス黒い魔力が纏わり付き始め、あっという間に全身を包んだ。
闇をそのまま被せたような人型の影となった姿が、今度はドロドロと下に落ちていく。

「ボクは魔改造兵」

背丈は延び、

「製造No.13【ノエレア】」

口調は軽薄に、

「よろしくね、騎士団のおねーさん」

声は、次第に聞き慣れたものへ。

「うそ……?なんで……?!」

忘れもしない、浅葱色の髪。歪に吊り上がった口角、私の人生を変えた憎むべき相手の姿をとって、少年ギースは私の前に現れたのだった。

「あぁ、びっくりしてるねぇ。無理もないよ。だっておねーさん……いや、カノンちゃん・・・・・・が望んだ姿だもん。この男を殺したいんだよね?はははっ……しかし、まさかこのヒトがねぇ。世間って狹ぇよなぁ」

確かに、何もかもギースだった。これが、この少年の能力なのだろう。まさかここまで完璧に再現されるなんて思わなかったけれど。

突然の出来事に、構えはそのままに硬直してしまった。姿を真似るだけならまだしも、名乗っても居ない私の名前をさも当然のようにギースとして発するそいつが、私の前に佇んでいるのだから。

「何なのよ……!一体アンタは……!!」

「そんな怖がること無いんだけどな~。でもまぁ、そんな泣き虫カノンちゃんにはちゃんと説明してあげよう!

俺の能力は擬態。姿や能力をそっくりに自分に移す事が出来る。だけどここからが面白いトコでさぁ。

瘴気の坩堝で吸収したカノンちゃんの感情の中から、印象深いヒトの記憶を引きずり出して擬態出来ちゃうんだな~!何人か候補は居たけど、ギースに抱く感情が一番醜くてドス黒かったからさぁ。あははっ!!」

ノエレアの能力を聞いて、自分の心を土足で踏み荒らされた気分になった。私は自分が思っていた以上に、ギースのことを恨んでいて、まだあの日の出来事も乗り越えられていなくて。

「違う……私は……っ」

「何が違うんだよ?!俺を殺すために強くなりたいんじゃなかったの?!」

この場に、カルラ達が居なくて本当によかったとさえ思った。こんな、汚い私は……あいつらと一緒に居る資格なんてないんじゃないか。

「違う……!」

「いいや違わない。カノンちゃんはその事をずっと胸にしまって、誰にも言わずに隠してきたんだ。
言える訳ないよねぇ、仇をブチ殺す為だけに生きてきましたぁ~!なんてさぁ」

頭がボーッとしてきた。視界も揺れて、熱くて、何も考えられなくて。
私は、なんで。だけど、ゲイルさんは、ギースが……。

「ちが、う。違うよ……わたし、は……っ」

「いい顔になってきた……ふふっ。そろそろ始めよっか。カノンちゃんの仇討ちの予行練習だね。上手に殺れるかな?」

「い、や……違うの、私は……わた、しはただ……!」

足が一歩も踏み出せない。心臓が胸を突き破って落ちていきそう。息が出来ない。
それでも、ノエレア……ギースは、楽しそうに拳を振り上げて私に迫るのだ。

──バギィッ!

何も出来ない。

──ドゴォッ!

なんで動けないの?

「また見てるだけなの?!カノンちゃん!あの日と変わってねぇじゃん!ははははっ!!」

「あ゛っ、がはっ……!」

為す術もなく、私は地面に倒れ伏した。

そうだ。あの日も私は動けなくて、怖くて。
久しぶりに会った時も、全然敵わなくて。
私は弱い。なんて無力なんだろう。こんな偽物にも足が竦んでしまうなんて。弱い自分が、心底情けない。

「はぁ~……つまんな。もっと真剣にやってくんなきゃ困るなぁ。期待してたのにさ。やっぱ本物じゃねぇとやる気出ない?」

「うる、さい……!」

そうだ、こいつは偽物だ。惑わされちゃいけない。あの時の私から変わるために、強くなろうとしたのに。
強くなったら、今度こそ大切な人達を助けられるような人になりたかった。

「ん?何」

自分の想いを再確認した途端、それに突き動かされるように、体に自由が戻ってきた。

「目が覚めたわ……おかげで、大事なことも思い出せた」

ゆっくり立ち上がると、頬から流れた血を静かに拭う。こんな奴を怖がることないんだ。
拳を握りしめると、紅龍からは真っ赤な炎が吹き上がった。

今立ち塞がっているのは、ギースに限りなく近い偽物。ならば、今の私の力がどこまで及ぶのかを試す機会だと思えば良い。
私がギースに抱く感情は私だけのもの。惑わされちゃいけない。

「やっと覚悟が決まったかな?清々しい眼ェしてて何か気に食わないけど」

「確かに私はアンタが憎いのも認める……だけど、それだけじゃないから」

「チッ……だから醜いんだ、人間って。ふざけんなよ」

心の奥底では、『私が尊敬してた昔の兄弟子あにでしに戻って欲しい』という気持ちが有ることにも、ノエレアのお陰で認められた。
ギースを頼む、そう言って息を引き取ったゲイルさんの真意は、復讐なんかじゃなかったんだと。

「さぁ、いくわよ。ノエレア」

「イライラすんなぁ、クソが……!!」

紅龍の具足が爆炎を吹き、ノエレアの眼前に躍り出ると、そのまま胴を殴り付けた。
しかし、めり込んだ拳を引く間もなく、腕を取られて横に放り投げられてしまう。

「そんなっ?!」

「潰れろッ!!」

追撃で私の真上に跳び、急降下で繰り出される踵落としが迫る。私が咄嗟に爆炎でそこから飛び出した直後、

──バギャァァアアアッ!!

周囲の建物の壁を石畳諸共破壊する一撃。無防備な状態ならば確実に死んでいただろう。

「あらら、逃げられちゃったか」

「幻神流……龍形拳……ッ」

大きく距離を取り、舞い上がった砂埃の向こうに待ち構えるノエレアへ向けて、両掌に膨大な魔力を高密度に圧縮していく。

「ああ、ソレか。撃ったら動けなくなる、不完全な奥義ね」

「どうかしらね。あの時よりは、私も強くなってると思うけど……ッ」

私の感情から引き出した記憶を探って、この技の事は分かっているようだった。受けてくれるなら、好都合だ。

「自爆にもならないよ、カノンちゃん。ほら、どうぞ」

「最終奥義ッ!!」

宝玉を掴む龍が如く拳を握り、地を揺らし天を駆ける。

赤熱した紅龍が火花を爆ぜ、ノエレアに肉薄する。

「【双龍咆】ォオッ!!!!」

両掌に溜め込まれた魔力がノエレアの腹部で一気に爆発し、辺りを白い光と爆炎が包む。

──ドガガァァァァァアアン!!!!

「がぁ゛ぁ゛あ゛っ!!」

絶叫を上げたノエレアは、地面を深く抉りながら吹き飛んだ。
私自身の反動も大きかったけれど、前のようにはならずに済んだ。少しふらつくものの、動くことは出来る。

「やっぱり、修行の成果はあったみたいね」

「はっ、はぁ……クソっ、こんな……はずじゃ!」

「アンタのおかげで、少し整理できたわ。自分の気持ちとか」

「うるさい……っ!ボクは、がっは……!」

ノエレアの擬態は解け、その身体には黒い痣がまだ広がっている。それは次第に粒子となって、ノエレアの身体ごと分解しているように見えた。

「何、これ……どうなってるの?!」

「ボク、は……負けた……魔核に致命的な損傷が、出来た……から……だから、死ぬ……ようになってる、んだ」

「そんな……」

倒したのは確かに私だけど、でも息があるのにそれを切り捨てるように仕組まれているなんて……。
諦めたような顔をして自嘲気味に笑うノエレアの痛々しい姿に、顔を俯ける。

「はは……っ、結局、目的は果たせなかったなぁ……ざんね、ん」

これが、魔王軍のやり方なんだろう。
私は敵の残した僅かな粒子が完全に消え去るまで、何故だか目が離せなかった。
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