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File.6

お別れボーイ

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何故そんな顔をするのか、俺にはよくわからない。影男がいる限り、自分の身にかかる危険は付いて回るというのに。

「なんかあったのか?コイツと」

「このひと、可哀想だと思う。生まれたばっかりなのに、すぐ消えちゃうなんて」

「いやでも、コイツが居るとお前が……」

俺がそう言いかけると、体を起こした影男が苦しげに声を発する。

「そこの男の言う通り……我を消さねば、貴様を喰らう」

「ねぇ、真っ黒なひと。僕を食べないなら、ここに居てもいいよ。きみが悪さしないなら、僕も苦しまないで居られるんでしょ?」

「何言ってんだお前wwwwww」

影男に歩み寄って屈んだミルクティ少年は、無邪気な笑顔を向けて手を差し伸べる。毒気を抜かれる気分だった。子供ゆえの判断だろうが、これには影男も予想外だったようで、おずおずと手を伸ばす。

「……我を、受け入れるというのか?」

「うんっ!君が悪いことしたら、変なお兄ちゃんに追い出してもらうけどね」

「勝手に俺を使うなwwwwww」

「禁呪である我を……」

目を見開いた影男はボソリと呟き、ミルクティボーイの手を取ると、その場で片膝を着いて頭を下げる。

「わかった……今から貴様を我が主として認めよう。主に降りかかる火の粉は、我が払う」

「よくできました!よろしくね、キンちゃん」

「キンちゃんって何だよwww黒いからホクロとかにしようぜwww」

「だめだよ!
禁呪?から生まれたから、キンちゃん!」

「わかった。我が名はこれより、キンとしよう」

それでいいのか影男wwwwww
ともあれ、なんか丸く収まったっぽいので俺も退散することにした。表に戻った時にこの報告を聞いたら、皆はなんて言うのか想像もつかないがwwwwww

「一応釘刺しとくけど、絶対そこの少年喰うなよ?俺が面倒なのでwww」

「我が貴様に敵わないのは承知している。信じろ」

キンがそう言うと、俺は出口の扉を開けた。
魔法陣を通って精神世界から脱出すると、ミルクティボーイも同じく目を覚ます。
様子を見てみると、禁呪の暴走状態の名残りなのか、腕や足に薄っすらと黒い虎模様が見えた。

「カルラとルキ、起きた」

「良かった。無事だったのね」

「長い一日だったが、ようやく終わりか?ふぁ……疲れた」

「ククッ、そのようですねぇ」

皆が安堵の声をかける中、リンドウはハニー少年を一瞥すると眉を顰める。

「ルキくん、禁呪は消えていないようだが」

「うん。僕はキンちゃんと友達になったんだ!危なくなったら助けてくれるって!」

嬉しそうに語るミルクティボーイだったが、彼の両親は納得していないようだった。

「ルキ、何故そんなものをまだ体に残しているんだ?!」

「そうよ、いつまた暴れだすか……!」

「キンちゃんはもうそんなことしないよ!もしそうなったら、勇者のお兄ちゃんがまた止めてくれるんだ!」

「どうもwwwwww勇者のお兄ちゃんですwwwwwww不本意だけど頑張るっちゃwwwwwwww」

俺が挨拶すると、何やら不審者を見るような目で睨まれた。俺が悪いのかこれwwwwww

微妙な沈黙が辺りを支配したが、リンドウが何やら饒舌に語り始める。

「だが、実際その禁呪自体が暴走を始めないとは言い切れないねそこで、ご両親に相談があるのだが、よれけば彼を私に預けてはくれませんか?そうすれば、禁呪の安全性を確立させる魔導具を作成したりと付きっ切りで研、ではなく見守る事が出来ますが、どうですか」

最後研究って言おうとしててワロタwwwwwwダメだろそんな理由はwwwwww

「ルキ……どうしても、その禁呪を消す気が無いのなら、勇者様達の言う通りにしなさい。それが消えるまで」

「そうね、それがいいわ。暫くご厄介になりなさい」

「そんな……どうして?大丈夫だって言ってるのに」

ご両親、全力で保身に走るの巻。
まぁ、目の前で変わり果てた息子の姿見てしまったら、肉親といえど恐怖や不信感も抱くだろうが。
こんな子供にはそんなの分かる訳ないので。

「ルキ、かわいそう」

「確かに不安なのは分かるけど、自分の子供にそんな事……」

女性陣は同情の眼差しを向けておられる。非常に気まずい雰囲気になりつつある中、俺はスッキーに耳打ちした。

「今回の作戦ってさ、ギルドの迎えとか来る感じ?」

「ええ、連絡してありますよ。保護された民間人を居住地へ送り届ける馬車が手配してあります」

条件は揃ってる。仕方ない、これ以上親子関係が拗れる前に一肌脱いでやるとするかwwwwww

「お前があんな姿になって暴れるのはもう見たくないんだ。確実に大丈夫だと分かるまでは、勇者様達を頼りなさい」

「お母さんもそう思うわ。貴方が心配だからこう言ってるのよ」

「嘘だ!本当はお父さんもお母さんも……っ、僕のことなんか!」

「ハイ、というわけでねwwwwご両親にはさっさと帰って頂きましてwwwww」

「バカ!いきなり何してんだお前!」

俺は二人の背中を押して、階を移動する魔法陣へ追いやる。
慌てて止めに入ったタカトを無視して陣へ向かう。話し合いが長引けば長引く程、親の気持ちが離れている事を見せつけられるこの状況にしておくほうがマズイと思うのよねwwwwww

「待ってよお兄ちゃん!なんで……?!」

「ルキ!元気になって帰ってくるんだぞ!」

「待ってるわ!必ず無事で帰るのよ!」

「お別れタイム終了wwwwww」

「お父さん!お母さん!」

いつかまた機会を見て、このミルクティボーイを実家に届けてあげればいい。今一緒にしておくのは得策じゃない。引き離す役が必要だと思った。

「カルラ!なんであんな無理矢理離すのよ……っ」

「いやwwwなんか見てられなくてwwww」

「酷いよ、お兄ちゃん……」

がっくりと膝から崩れ落ちるミルクティボーイを見て、本当に良かったのか分からなくなった。親から切り離されるのと、親から嫌われるのは、どっちが辛いんだろうか。

答えは本人達にしか分からない事ではあるが、ハニー少年の怒りの矛先が少しでも俺に向いているならいいか。

俺は穀潰しニートだったから親に嫌われたりするのは慣れてるけど、コイツは違う。
本人も無意識でも薄々分かっているのかも知れないが、あのまま言い合いになれば、そう感じてしまうのではないかと思った。

「ハニーボーイや、悪かったな勝手なことして。でもまぁ、ちゃんと調べてキンが本当に安全な存在だって分かったら帰れるんだから、ちょっと長い旅行くらいの気持ちでwwwwww気楽に行こうぜwwwwww」

「うん……わかった」

涙声でそう答えると、イヴっちがミルクティ少年の頭を撫でながらぽつりと言葉を零す。

「カルラは、意地悪じゃない。変なところが沢山あるけど、優しいところもある」

「まぁ、そうね。その辺は私も否定しないわ」

「クックックッ、素晴らしいピエロでしたよ。勇者様」

「スッキーは何か悪意感じまするwwwww誰がピエロだwwwwww」

「あははっ、変なお兄ちゃんはやっぱり変なんだね」

場の雰囲気が少しだけ軽くなったところで、タカトが欠伸をしながら岩にもたれ掛かった。

「ふぁあ……まぁ、いいんじゃねぇの。今更子供一人増えたって困らんだろうし。つか腹減ったし、俺らも帰ろうぜ」

「お前は居候だから早く宿借りろwwww」

「無理。金ない」

「話はとりあえず纏まったかな。今のうちに整理しておきたい情報もある、私達も帰ろうじゃないか」

リンドウに促され、俺達は転移陣に乗って一階に戻ってきた。開けられた扉の外にはギルドの送迎馬車の列が出来ており、続々と人が乗り込んでいる。
それを見たヴァンとリリィちゃんが気付き、此方にやってきた。

「全員無事だったみたいだな。勝手にここに転移させられたから少し心配だったぞ」

「あれは一体誰の仕業だったですか?」

「あれだよ、クソダサ七人衆の銀髪野郎がやったんだwwww」

「【傲慢のリオンヴァルト】か……あいつまで出張ってくるとはなァ」

ルシアのフルネームが判明したところで興味無いからすぐ忘れちゃうんだけど、これで未見の七刃将はあと二人となった。
暴食の後釜が決まってるかどうかを知る術はないが、とりあえずルシアはイケメンなので次会ったらぶっ飛ばす事にしましたwwwww許されざる顔面wwwwww

「そういえば、ルキの親は見つかったですか?」

「え、あ……僕の、お父さんとお母さんは……」

「事情は今度ゆっくりとwww二人きりでネッチョリ教えてあげるからwwww今は帰ろでびゅふっwwwww」

俺がそう言うと、リリィちゃんは不快感に表情を歪ませて俺の顔に氷の礫を叩き込んできたのだった。冷たくて痛いwwwwww

ミルクティボーイの親はもう列に並んでいるのだろう。探せばすぐに見つかる筈だ。
『いってきます』くらいは言わせてやらなきゃいけないと思った。

「ヘイボーイwwwちょっとこっちwwww」

「どうしたの?変なお兄ちゃん」

「ちょっとの間離れるんだし、親に挨拶してこようぜwww元気な姿で見送ってやれば余計な心配は薄れるだろうしwwww」

「いいのかな。僕、嫌われちゃってないかな?」

やはりその心配はあったらしい。両親が禁呪を恐れている以上、俺達と過ごして安心を得られるならそうするのが一番いい。
本当はお互い、離れるのは辛い筈だし。

「大丈夫よ。そんなことないわ、ルキくん。見送りしておいで」

「うん……わかった。いこ、変なお兄ちゃん」

「そろそろ『変な』を付けるのやめてもらっていいすかwwwwww」

カノンたんを始め、他のメンバーにも後押しされてミルクティボーイは歩き始めた。
乗り込んだタイミングで両親を発見すると、少年は声を上げた。

「お父さん、お母さん!いってきます!」

「体に気を付けるんだぞ。待ってるからな」

「ルキを、よろしくお願いします」

両親からは、心の底から心配しているのが伝わってきた。あの時は冷静じゃなかったのもあるだろうけど、今は目に薄っすらと涙が浮かんでいた。

「勇者にお任せをwwwww状況とかは手紙を書かせますんでwwwwww」

窓から顔を出して頭を下げてきた両親に俺も軽く頭を下げると、ハニーボーイと一緒に手を振って見送った。
チラッと顔を覗き見ると、両親と同じく目には涙を浮かべていたが、必死に笑顔を作っている。

「お兄ちゃん、僕がキンちゃんを残したのは間違ってたのかな」

「んーまぁ、それでも曲げなかったのはお前の優しさじゃないのwww知らんけどwwwていうか髪柔らけぇwwwwフワッフワwww」

頭にそっと手を乗せて言うと、ミルクティボーイから押し殺した嗚咽が聞こえてきた。

「……やっぱり、お兄ちゃんは変なお兄ちゃんだ」

「変じゃないwww勇者だwwww」

ハニーミルク少年は赤くなった目で俺を見て、無理に作ったような不格好な笑顔を浮かべる。

「僕、お父さんとお母さんに安心してもらえるくらい強くなりたいな」

「お前なら、すぐになれる。けど、焦って無理するなよ?」

「だい、じょうぶ……僕、泣かないし……っ」

「強情ボーイだなお前wwwwww」

流石にそのまま泣き出すかと思ったけど、暫くすると無理矢理押し込めて、二人で皆の元へ戻り、全員で別荘に帰還した。
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