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ショタコン人魚
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─
イヴちゃんとルキくんを連れて残された陣に一緒に入ると、そこは最初の階よりも圧倒的に広かった。この塔は太さにばらつきはなかった為、考えられるのは……。
「地下……なのかしら」
「きれい」
「あっ、気を付けてねイヴちゃん!」
駆け出していくイヴちゃんに声を掛けると、それが反響する。
「誰も居ないのかなぁ……?」
そう言ってしがみついてくるルキくんを撫でながら、光る珊瑚や巨大な貝、大きな岩が散らばる海底のようなこの階の様子を注意深く見て回る。
「カノン、こっちに水がある」
「水……?」
私の反対側を見ていたイヴちゃんに呼ばれて行ってみると、地底湖のように水が張った箇所もある。光る海洋生物のおかげか、底もよく見える。
「海に続いてるみたいね。ここには誰も居ないみたいだけど……」
言いかけた直後、全体の光源が明滅した。咄嗟に二人を抱えて後ろに下がると、
──ザバァァアンッ!!
激しい水音と共に、さっきまで私が立っていた所に水柱が立ち昇った。
「お姉ちゃん……っ!」
「イヴちゃん、ルキくんを連れて隠れてて。頼んだわよ」
「わかった」
私は紅龍を呼び出すと、水柱を睨み付ける。
飛沫を弾き飛ばして姿を表したのは、海上で出会った七刃将の一人。
「目当てがわざわざ此方まで出向いてくれるとはな」
「メローネ……!!」
人魚である筈の彼女が、今は下半身が人間のように地に脚を着けて立っている。鱗模様のスカートが印象的だった。
底冷えするような冷たい声色で、私を射抜くように見詰めてくる。
「貴様のような人間に興味は無い。妾が求めるは……」
ギロリと、イヴちゃん達が身を隠す方へ視線を移した。魔族を束ねる軍団の最高幹部の一角、流石の迫力に冷や汗が伝う。
「ル、ルキ……くん……ふふ、確かそういった名前だったね、うふ、ふふっ、ふふふふ……会いたかったぁ……♡」
「え……?」
感情の籠もってなさそうな態度から一変、ルキくんの事を口にした途端メローネの頬は紅潮し、恍惚とした表情を浮かべる。まるで媚びるような猫撫で声まで出して。
「あんた、何なの……?人が変わったみたいに……」
「……黙れ。貴様に用はない。ルキくんを置いて死ね」
私が話しかけると再び冷酷な態度に豹変し、氷の槍を無数に放ってきた。
「わっ?!ちょっと……ッ」
紅龍に炎を纏って撃ち落とすと、蒸発した水分で霧が立ち込める。光る海洋生物達のお陰で神秘的な光景になったが、メローネの無慈悲とも言える猛攻は続く。
「ルキくんルキくんルキくんルキくん……ふふふっ、あはははは!妾は一目観たときからそなたに焦がれているのだ。邪魔な人間を全て排除して妾が幸せにしてあげるからね♡」
「狂ってる……!!」
もう私の事など目にも入ってないのかもしれない。とんでもない質量の水の奔流が、蛇の姿を象って私に襲いかかってくる。
「さぁまずは貴様だ。ルキくんを独り占めするクソ女。死ね」
「やば……ッ」
私を包囲するように水の蛇が氷の牙を剥き出しにして、首をもたげる。
それとほぼ同時に、イヴちゃんの声が聞こえた。
「ルキ、戻ってきて!出たら危ない」
「メローネお姉ちゃぁぁぁあん!!!!」
岩陰から身を乗り出して絶叫したルキくんの声に、私へ向けられた牙は寸前で止まって辺り一面にバシャバシャと崩れ落ちる。
「え?何が起きてるの?!」
突然止んだ攻撃に困惑しながらメローネの方を見ると、
「ごっふぅぅううん!!」
そのまま、盛大に鼻血を吹き出していた。
鼻血を噴き出し、体を仰け反らせて痙攣するメローネ。原因はルキくんだろうけど、名前を呼んだだけでそんなダメージが入るなんて……。
「あはっ♡あははッ!オネエチャ……おねえちゃん……そうかお姉ちゃんときたか……うふふ♡とてもいい響きだ……可愛い……あっはっはっはっ!!」
「一体何が起きてるの……?!」
思わずルキくんの方を見ると、本人も驚いているようではあったが、どこか確信があって叫んだような、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「お名前呼んだだけなのになぁ~」
「ルキ、ナイス」
「とにかく、今がチャンスね!」
親指を立ててルキくんを褒めるイヴちゃんとアイコンタクトを交すと、メローネに向かっていく。
「ぐふっ、はぁ……予想外ではあったが、この程度で貴様らが勝てるとは思わん事だ。喰らえ……」
態勢を立て直したメローネが鼻血を拭うと、私へ向けて魔法陣を展開する。その瞬間。
「メローネおねえちゃぁぁぁあん!!頑張れぇ~!!」
「んっふぁぁあん♡頑張りゅぅう♡♡」
ルキくんのわざとらしい可愛い声を聴いたメローネの魔法は、あらぬ方向へ暴発した。この機会逃さず、私は籠手へ炎を収束させる。
「紅龍一式・龍星殲光ォオッ!!」
「はっ?!しまっ……!」
──ドギャァァァアアンッ!!!!
拳の乱打から打ち出される炎弾の嵐に、メローネが呑まれる。爆炎と煙で視界が遮られたが、確かな手応えがあった。
だが、
「許さん……許さんぞ、クソ女……」
「くっ……まだ立てるのね……」
腕の一振りで煙を晴らして顕になったその表情は怒り心頭といった風で、全身の火傷もものともせず、凄い形相で私を睨み付けてきた。
「ルキくんを囮に使うとは、卑怯な女だ。この淫売め。あまり使いたくは無かったが、致し方ない」
スゥ、と彼女の周辺の空気が冷たいものに変わる。耳を塞ぐような動作の後、ゆっくりと口を開いた。
「【モノディア・カルヴィエリ】」
響いてきたのは、優雅な高音の歌声。
私は咄嗟に耳を塞いだが、彼女の口から発せられる旋律を聴いてしまったルキくんとイヴちゃんに変化が訪れる。
「メローネ、おね……」
「んぅ……ねむ……」
ばたり、と二人は眠るようにその場に伏してしまう。
「さぁ、これで貴様一人だ。存分にやらせてもらうぞ、ルキくんを誑かすふしだら女よ」
「それは誤解なんだけど……。ていうか勝手に誑かされてんのはアンタでしょ」
メローネにはもう、さっきまでの豊かな表情は無い。ここからは、小細工無しの勝負しかない。
私は気合を入れ直すように、掌に拳を打ち付けた。
イヴちゃんとルキくんを連れて残された陣に一緒に入ると、そこは最初の階よりも圧倒的に広かった。この塔は太さにばらつきはなかった為、考えられるのは……。
「地下……なのかしら」
「きれい」
「あっ、気を付けてねイヴちゃん!」
駆け出していくイヴちゃんに声を掛けると、それが反響する。
「誰も居ないのかなぁ……?」
そう言ってしがみついてくるルキくんを撫でながら、光る珊瑚や巨大な貝、大きな岩が散らばる海底のようなこの階の様子を注意深く見て回る。
「カノン、こっちに水がある」
「水……?」
私の反対側を見ていたイヴちゃんに呼ばれて行ってみると、地底湖のように水が張った箇所もある。光る海洋生物のおかげか、底もよく見える。
「海に続いてるみたいね。ここには誰も居ないみたいだけど……」
言いかけた直後、全体の光源が明滅した。咄嗟に二人を抱えて後ろに下がると、
──ザバァァアンッ!!
激しい水音と共に、さっきまで私が立っていた所に水柱が立ち昇った。
「お姉ちゃん……っ!」
「イヴちゃん、ルキくんを連れて隠れてて。頼んだわよ」
「わかった」
私は紅龍を呼び出すと、水柱を睨み付ける。
飛沫を弾き飛ばして姿を表したのは、海上で出会った七刃将の一人。
「目当てがわざわざ此方まで出向いてくれるとはな」
「メローネ……!!」
人魚である筈の彼女が、今は下半身が人間のように地に脚を着けて立っている。鱗模様のスカートが印象的だった。
底冷えするような冷たい声色で、私を射抜くように見詰めてくる。
「貴様のような人間に興味は無い。妾が求めるは……」
ギロリと、イヴちゃん達が身を隠す方へ視線を移した。魔族を束ねる軍団の最高幹部の一角、流石の迫力に冷や汗が伝う。
「ル、ルキ……くん……ふふ、確かそういった名前だったね、うふ、ふふっ、ふふふふ……会いたかったぁ……♡」
「え……?」
感情の籠もってなさそうな態度から一変、ルキくんの事を口にした途端メローネの頬は紅潮し、恍惚とした表情を浮かべる。まるで媚びるような猫撫で声まで出して。
「あんた、何なの……?人が変わったみたいに……」
「……黙れ。貴様に用はない。ルキくんを置いて死ね」
私が話しかけると再び冷酷な態度に豹変し、氷の槍を無数に放ってきた。
「わっ?!ちょっと……ッ」
紅龍に炎を纏って撃ち落とすと、蒸発した水分で霧が立ち込める。光る海洋生物達のお陰で神秘的な光景になったが、メローネの無慈悲とも言える猛攻は続く。
「ルキくんルキくんルキくんルキくん……ふふふっ、あはははは!妾は一目観たときからそなたに焦がれているのだ。邪魔な人間を全て排除して妾が幸せにしてあげるからね♡」
「狂ってる……!!」
もう私の事など目にも入ってないのかもしれない。とんでもない質量の水の奔流が、蛇の姿を象って私に襲いかかってくる。
「さぁまずは貴様だ。ルキくんを独り占めするクソ女。死ね」
「やば……ッ」
私を包囲するように水の蛇が氷の牙を剥き出しにして、首をもたげる。
それとほぼ同時に、イヴちゃんの声が聞こえた。
「ルキ、戻ってきて!出たら危ない」
「メローネお姉ちゃぁぁぁあん!!!!」
岩陰から身を乗り出して絶叫したルキくんの声に、私へ向けられた牙は寸前で止まって辺り一面にバシャバシャと崩れ落ちる。
「え?何が起きてるの?!」
突然止んだ攻撃に困惑しながらメローネの方を見ると、
「ごっふぅぅううん!!」
そのまま、盛大に鼻血を吹き出していた。
鼻血を噴き出し、体を仰け反らせて痙攣するメローネ。原因はルキくんだろうけど、名前を呼んだだけでそんなダメージが入るなんて……。
「あはっ♡あははッ!オネエチャ……おねえちゃん……そうかお姉ちゃんときたか……うふふ♡とてもいい響きだ……可愛い……あっはっはっはっ!!」
「一体何が起きてるの……?!」
思わずルキくんの方を見ると、本人も驚いているようではあったが、どこか確信があって叫んだような、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「お名前呼んだだけなのになぁ~」
「ルキ、ナイス」
「とにかく、今がチャンスね!」
親指を立ててルキくんを褒めるイヴちゃんとアイコンタクトを交すと、メローネに向かっていく。
「ぐふっ、はぁ……予想外ではあったが、この程度で貴様らが勝てるとは思わん事だ。喰らえ……」
態勢を立て直したメローネが鼻血を拭うと、私へ向けて魔法陣を展開する。その瞬間。
「メローネおねえちゃぁぁぁあん!!頑張れぇ~!!」
「んっふぁぁあん♡頑張りゅぅう♡♡」
ルキくんのわざとらしい可愛い声を聴いたメローネの魔法は、あらぬ方向へ暴発した。この機会逃さず、私は籠手へ炎を収束させる。
「紅龍一式・龍星殲光ォオッ!!」
「はっ?!しまっ……!」
──ドギャァァァアアンッ!!!!
拳の乱打から打ち出される炎弾の嵐に、メローネが呑まれる。爆炎と煙で視界が遮られたが、確かな手応えがあった。
だが、
「許さん……許さんぞ、クソ女……」
「くっ……まだ立てるのね……」
腕の一振りで煙を晴らして顕になったその表情は怒り心頭といった風で、全身の火傷もものともせず、凄い形相で私を睨み付けてきた。
「ルキくんを囮に使うとは、卑怯な女だ。この淫売め。あまり使いたくは無かったが、致し方ない」
スゥ、と彼女の周辺の空気が冷たいものに変わる。耳を塞ぐような動作の後、ゆっくりと口を開いた。
「【モノディア・カルヴィエリ】」
響いてきたのは、優雅な高音の歌声。
私は咄嗟に耳を塞いだが、彼女の口から発せられる旋律を聴いてしまったルキくんとイヴちゃんに変化が訪れる。
「メローネ、おね……」
「んぅ……ねむ……」
ばたり、と二人は眠るようにその場に伏してしまう。
「さぁ、これで貴様一人だ。存分にやらせてもらうぞ、ルキくんを誑かすふしだら女よ」
「それは誤解なんだけど……。ていうか勝手に誑かされてんのはアンタでしょ」
メローネにはもう、さっきまでの豊かな表情は無い。ここからは、小細工無しの勝負しかない。
私は気合を入れ直すように、掌に拳を打ち付けた。
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