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スキアの本性
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「クックックッ……貴方が僕の相手ですか」
塔に設置してある転移陣に乗って送られた階には、当然の如く敵が待ち構えていました。
まぁ、想定内の事態ですが。
長いテーブルに乱雑に置かれた料理の脂っこい匂いに、露骨に顔を顰めた。茹で卵の一つでもあれば許したものを……不愉快な。
「おう、随分とナヨそうなのが来たな!ギルドってのは余程人手不足ってか?!ハハハッ!!」
この頭の悪そうな巨漢の魔族は、体長程の巨大な剣を肩に担いで笑う。汚らしい肌色と弛んだ巨躯、魔族の中でもオークと呼ばれる種類の、その上位個体だろう。
「ええ、そのようで。僕が出なければならないということは、そうなんでしょうね」
言いながら、魔装具【骸】を手に取った。鍔の頭蓋骨が、嗤うように口を開いて軋んだ音を立てる。
「そんな黒い棒っきれでやろうたぁ、随分ナメてくれるじゃねぇか」
「ククッ!これは、湾刀ですよ。極東島ではカタナ、というらしいですが。勉強不足ですね」
「んなことぁ、どうでも良いんだよッ!!」
噂に違わぬ知能の低さに思わず失笑してしまったのが気に障ったのか、いきなり巨大な剣を振り下ろしてきた。
──ドガァァアッ!!
周りのテーブルごと巻き込んだ一振りを軌道上から少し退いて難なく回避すると、当たり散らすように横薙ぎの一撃が迫っていた。
「ククク……食欲自慢のオークが食べ物を粗末にするなんて、感心しませんねぇ」
「黙れコラァ!!」
次の攻撃も、その次も、見切るまでもない。ただ、強烈な暴風を伴って奮われる攻撃の数々は回避したはずの僕の服を少し切っていく程度のものだ。脅威ではないが、鬱陶しい。
「やれやれ。まずはその面倒な攻撃を止めて頂くとしましょうか」
「はぁ?!止めるわけねぇだろ!!」
──ゴォオッ!!
天井に届くほど振り上げられた大剣が、凄まじい速度で頭を目掛けて急降下してくる。特に構える必要もない、力任せの一撃を骸で弾き飛ばした。
「やれやれ。貴方、足止めの役にも立てていませんねぇ?まぁ、ただのオークでは仕方ないですが。ククク……」
甲高い音を立ててあらぬ方向へ飛ばされた大剣が壁面へ突き刺さるのを、オークは間抜けな顔で呆然と僕を見つめている。
「なっ、なんだとぉ?!オレはオーク部隊の……ッ」
「まぁせっかくですし、冥土の土産に良いものを見せてあげましょうか。久しぶりに斬り甲斐のある肉が目の前にありますから……クックックッ!」
「な、何を言ってやがる……?!」
狼狽えるオークを無視し、普段は出すことの出来ない、僕の本当の姿を解放する。それを顕にしていくにつれ、相手は後退りを始めた。
「末端の使い捨てに見せるには少し勿体無い気もしますが、まぁいいでしょう……」
側頭部から捻れた角が生え、背中からは蝙蝠を思わせる黒い翼。全身に走る黒い魔法紋が僕の体に行き渡る。
「さぁ、まずは左手の指からですよ」
「お、お前まさか……?!ぎゃぁぁああああッ!!!!」
音もなく切り落とされたオークの指が、ボトボトと床に落ちる。次は手首、腕。
巨躯に見合う太い骨を刃が断つ時の感触が、たまらなく心地よい。
「クックックッ!貴方は魔王軍に必要ない。弱すぎる」
そう言って、もう片方の手に取り掛かろうとすると、出鱈目に殴りかかってきた。
「う、うぉぉおおお!!」
「活きが良いですねぇ。ですが……ッ」
その腕もさっきと同じように切り落とした。吹き出した血が降り掛かるのも、何だか懐かしい。ここ数年はずっと我慢していた影響だろうか。
「は、はぁっ!もう、勘弁してください!ゆ、許して……」
「ククッ!ええ、良いですよ。ちゃんと、死んで頂けるようにしますから」
自らの血で滑って尻餅をついて懇願する汚い肉の表情は、絶望に染まる。恍惚とした気分が僕を満たした。本当は人間にやりたかったけれど、今はこれで我慢するとしましょう。
「ぎゃぁぁぁぁああああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!助け、た、助けてください!!!!」
「おやおや、別にこれは拷問などではありませんよ」
爪先、足首、脛、膝を、今度はゆっくりと鋸で断つように落とした。両足が終わる頃には、オークの悲鳴も枯れ果てて、無反応になってしまった。気絶してしまったのだろうか。
「ククク……さぁ、起きてください。やっと死ねます」
肋骨の間に刺し込んだ切っ先を捻ると、反応が戻る。
「あ゛……あが……あり、が……と」
「おやすみなさい」
今から命を取られるというのに、オークは虚ろな目で安堵のような、満足気な表情を浮かべたのだった。
ゾクリ、と肌が粟立つ。醜いコイツでも、そこそこの愉悦は味わえるんですね。
──スパァッ!!
僕の一閃で頭から両断されたオークは、そのまま物言わぬ肉塊へと成り果てた。
「よき終末を」
返り血を拭うと、再び力を封じ込めた。時が来るまで、今度は本当に封印しよう。
次に解放する時こそ、僕の悲願を叶える為に。それまでは、これっきりにしなければ。
「クックックッ……クッハッハッハッ!!」
ただ今は、この高揚した気分に身を任せよう。歪んだ口元から溢れる笑いは、暫く収まりそうもない。
僕は必ず【貴女】と再会する。
「クックックッ……貴方が僕の相手ですか」
塔に設置してある転移陣に乗って送られた階には、当然の如く敵が待ち構えていました。
まぁ、想定内の事態ですが。
長いテーブルに乱雑に置かれた料理の脂っこい匂いに、露骨に顔を顰めた。茹で卵の一つでもあれば許したものを……不愉快な。
「おう、随分とナヨそうなのが来たな!ギルドってのは余程人手不足ってか?!ハハハッ!!」
この頭の悪そうな巨漢の魔族は、体長程の巨大な剣を肩に担いで笑う。汚らしい肌色と弛んだ巨躯、魔族の中でもオークと呼ばれる種類の、その上位個体だろう。
「ええ、そのようで。僕が出なければならないということは、そうなんでしょうね」
言いながら、魔装具【骸】を手に取った。鍔の頭蓋骨が、嗤うように口を開いて軋んだ音を立てる。
「そんな黒い棒っきれでやろうたぁ、随分ナメてくれるじゃねぇか」
「ククッ!これは、湾刀ですよ。極東島ではカタナ、というらしいですが。勉強不足ですね」
「んなことぁ、どうでも良いんだよッ!!」
噂に違わぬ知能の低さに思わず失笑してしまったのが気に障ったのか、いきなり巨大な剣を振り下ろしてきた。
──ドガァァアッ!!
周りのテーブルごと巻き込んだ一振りを軌道上から少し退いて難なく回避すると、当たり散らすように横薙ぎの一撃が迫っていた。
「ククク……食欲自慢のオークが食べ物を粗末にするなんて、感心しませんねぇ」
「黙れコラァ!!」
次の攻撃も、その次も、見切るまでもない。ただ、強烈な暴風を伴って奮われる攻撃の数々は回避したはずの僕の服を少し切っていく程度のものだ。脅威ではないが、鬱陶しい。
「やれやれ。まずはその面倒な攻撃を止めて頂くとしましょうか」
「はぁ?!止めるわけねぇだろ!!」
──ゴォオッ!!
天井に届くほど振り上げられた大剣が、凄まじい速度で頭を目掛けて急降下してくる。特に構える必要もない、力任せの一撃を骸で弾き飛ばした。
「やれやれ。貴方、足止めの役にも立てていませんねぇ?まぁ、ただのオークでは仕方ないですが。ククク……」
甲高い音を立ててあらぬ方向へ飛ばされた大剣が壁面へ突き刺さるのを、オークは間抜けな顔で呆然と僕を見つめている。
「なっ、なんだとぉ?!オレはオーク部隊の……ッ」
「まぁせっかくですし、冥土の土産に良いものを見せてあげましょうか。久しぶりに斬り甲斐のある肉が目の前にありますから……クックックッ!」
「な、何を言ってやがる……?!」
狼狽えるオークを無視し、普段は出すことの出来ない、僕の本当の姿を解放する。それを顕にしていくにつれ、相手は後退りを始めた。
「末端の使い捨てに見せるには少し勿体無い気もしますが、まぁいいでしょう……」
側頭部から捻れた角が生え、背中からは蝙蝠を思わせる黒い翼。全身に走る黒い魔法紋が僕の体に行き渡る。
「さぁ、まずは左手の指からですよ」
「お、お前まさか……?!ぎゃぁぁああああッ!!!!」
音もなく切り落とされたオークの指が、ボトボトと床に落ちる。次は手首、腕。
巨躯に見合う太い骨を刃が断つ時の感触が、たまらなく心地よい。
「クックックッ!貴方は魔王軍に必要ない。弱すぎる」
そう言って、もう片方の手に取り掛かろうとすると、出鱈目に殴りかかってきた。
「う、うぉぉおおお!!」
「活きが良いですねぇ。ですが……ッ」
その腕もさっきと同じように切り落とした。吹き出した血が降り掛かるのも、何だか懐かしい。ここ数年はずっと我慢していた影響だろうか。
「は、はぁっ!もう、勘弁してください!ゆ、許して……」
「ククッ!ええ、良いですよ。ちゃんと、死んで頂けるようにしますから」
自らの血で滑って尻餅をついて懇願する汚い肉の表情は、絶望に染まる。恍惚とした気分が僕を満たした。本当は人間にやりたかったけれど、今はこれで我慢するとしましょう。
「ぎゃぁぁぁぁああああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!助け、た、助けてください!!!!」
「おやおや、別にこれは拷問などではありませんよ」
爪先、足首、脛、膝を、今度はゆっくりと鋸で断つように落とした。両足が終わる頃には、オークの悲鳴も枯れ果てて、無反応になってしまった。気絶してしまったのだろうか。
「ククク……さぁ、起きてください。やっと死ねます」
肋骨の間に刺し込んだ切っ先を捻ると、反応が戻る。
「あ゛……あが……あり、が……と」
「おやすみなさい」
今から命を取られるというのに、オークは虚ろな目で安堵のような、満足気な表情を浮かべたのだった。
ゾクリ、と肌が粟立つ。醜いコイツでも、そこそこの愉悦は味わえるんですね。
──スパァッ!!
僕の一閃で頭から両断されたオークは、そのまま物言わぬ肉塊へと成り果てた。
「よき終末を」
返り血を拭うと、再び力を封じ込めた。時が来るまで、今度は本当に封印しよう。
次に解放する時こそ、僕の悲願を叶える為に。それまでは、これっきりにしなければ。
「クックックッ……クッハッハッハッ!!」
ただ今は、この高揚した気分に身を任せよう。歪んだ口元から溢れる笑いは、暫く収まりそうもない。
僕は必ず【貴女】と再会する。
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