44 / 132
File.3
カノン:ラスト・リフレイン
しおりを挟む
気が付けば、傷だらけの二人の間に割って入っていた。
「やめて!!なんで二人が戦うの?!」
「よぉカノンちゃん。なんもしてねぇのに、もう泣いてんのか?」
「カノン、下がってろ!こいつは……!」
血の混じった唾を吐きながら、ギースは笑う。
だらりと下がった腕を押さえながら、ゲイルさんが怒鳴るように私へ声を上げた。
「やだ、やだよ、なんで?ねぇギース、こんなこともう止めてよ!」
「うるさいなぁ。カノンちゃんなら分かると思ったんだけど……『力さえあれば』そう思ったことあるでしょ?」
「それは……でも……っ」
言葉に詰まった。確かに、私には力が無かったから、両親を守れなかったし自分の身も守れなかった。
奥歯を噛み締めて、俯く。
「ギース、お前は間違ってる……!力を求めて大事なモンまでぶっ壊しちまったら、意味ねぇだろうが!」
「間違ってねぇ!!
力は破壊そのもの。守るための力なんて、そもそもの矛盾だよ。何もかも壊せば、無くしたくないものなんて無ければッ!」
二人の声を聴いて、私は何故か楽しかった事を必死に思い出していた。
こうやって喧嘩したことも、たくさんあったよね。
「ギース!!止まるつもりがねぇなら、俺も本気でやるぞ」
でも最後は仲直りして、次の日は三人で釣りに行って、誰が一番多く釣るか競争して、捕れたての魚は美味しくて。
「ああ、来いッ!!叩き潰してやるッ!!」
私はこんな毎日がずっとずっと続いてほしくて、二人が大好きで。
「やめて、やめてよ……!やめてってば!!」
私は。ただ。家族と幸せに。
「うるせぇえっ!!」
「カノン!!逃げろ!!」
見たこともない怖い顔で、ギースが私に拳を振り上げてきて、そうしたらゲイルさんが、私の前に。
──グシャァアッ!!
「がッ……あ゛ぁ゛」
肉が潰れて、水が弾けるような音がして。
ゲイルさんの背中から、ギースの血まみれの手が飛び出していて。
「いやぁああああああああああああっ!!!!」
「ははっ、はっはっはっはっ!!やったぞ……俺は、師を超えた……強くなったってことだよなぁ?!」
狂気に満ちた高笑いが響き渡る中、ゲイルさんは震える両手で、ギースを強く抱き締めた。さらに深く。腕が背中から飛び出しているのに。
「ギース……お前は、俺の……」
「は……?何、して……」
「俺の自慢の、弟子だった……強く、なって……少し、間違えちまっただけだ……ろ?」
「ふざけるな、離せ!」
「お前は……きっと、やり、直せる……そうしたら、立派な……拳士、になれる。お前の、夢だ」
分からなかった。ゲイルさんは、今体に穴が空いてしまって、痛くて苦しい筈なのに。ギースの心配ばかり。
絞り出すような痛々しい声と共に、私の大好きな、おおきくてゴツゴツした手が、ギースの頭を撫でた。
ゲイルさんは、浅い呼吸で必死に言葉を紡いだ。それを聞いても尚、ギースの残虐に歪んだ顔はそのままだった。
「離せッ!」
「ゲイルさん!!」
突き飛ばされたゲイルさんの体から、ズルリと腕が抜けて、倒れたところを抱き締めた。私は涙でぼやける視界で必死にギースを睨み返す。
「いい眼になったなぁ、カノンちゃん。そうやって俺を憎めばいいよ。そうして強くなったら、俺と殺し合おうね」
「待って!!」
「仇討ち、楽しみにしてるよ」
「ギースッ!!」
恍惚とした表情の中に、僅かに悲しい目をしたギースの顔だけは、何故かはっきりと見えた。
そのまま彼は魔法陣の中へ消えていく。
「あ゛……が、カノ……ン」
「ゲイルさん……っ」
くぐもった声が、私を現実から縛り付けている。
私の腕では収まりきらない大きな体を必死に抱き締めると、頭にポン、と手が置かれる。
「悪いな……一緒にいら……れなくて。もう……独りに、させねぇって、決めて……たんだが」
大好きな。
「やだ、そんなこと、言わないで」
お父さんの手。
「お前は……本、当にいい子に、育った……」
冷たくて、温かくて。
「いかないでよ、独りにしないでよ!」
大好きで、大好きで。
「お前なら……世界一、強い拳士にだって……いいお嫁さんにだって、なれ、る」
この傷では、世界中の誰であっても、ゲイルさんを助けることは不可能だと。
「大事、な……娘……」
言いたいことがあった。
まだまだ、たくさん、これからも、ずっと、話したかった。私がどれだけ貴方とギースに、救われたのか。
「やだ、やだ!いやだよ!」
「ギ……ース、のこと……頼ん、だ。愛してるぞ、カノン……」
もう、返事は来ないだろう。どんどん体が冷たく、力が抜けていっている。
「私も、大好き……お父さん……っ」
それでも私は、一番言いたかった事を伝える事が出来た。微笑んだゲイルさんの穏やかな顔が、ちゃんと受け止めてくれたって思った。
「あああぁぁああああああああああああ……っ!!」
そして私は、また独りになって、泣き明かしたのだった。
「やめて!!なんで二人が戦うの?!」
「よぉカノンちゃん。なんもしてねぇのに、もう泣いてんのか?」
「カノン、下がってろ!こいつは……!」
血の混じった唾を吐きながら、ギースは笑う。
だらりと下がった腕を押さえながら、ゲイルさんが怒鳴るように私へ声を上げた。
「やだ、やだよ、なんで?ねぇギース、こんなこともう止めてよ!」
「うるさいなぁ。カノンちゃんなら分かると思ったんだけど……『力さえあれば』そう思ったことあるでしょ?」
「それは……でも……っ」
言葉に詰まった。確かに、私には力が無かったから、両親を守れなかったし自分の身も守れなかった。
奥歯を噛み締めて、俯く。
「ギース、お前は間違ってる……!力を求めて大事なモンまでぶっ壊しちまったら、意味ねぇだろうが!」
「間違ってねぇ!!
力は破壊そのもの。守るための力なんて、そもそもの矛盾だよ。何もかも壊せば、無くしたくないものなんて無ければッ!」
二人の声を聴いて、私は何故か楽しかった事を必死に思い出していた。
こうやって喧嘩したことも、たくさんあったよね。
「ギース!!止まるつもりがねぇなら、俺も本気でやるぞ」
でも最後は仲直りして、次の日は三人で釣りに行って、誰が一番多く釣るか競争して、捕れたての魚は美味しくて。
「ああ、来いッ!!叩き潰してやるッ!!」
私はこんな毎日がずっとずっと続いてほしくて、二人が大好きで。
「やめて、やめてよ……!やめてってば!!」
私は。ただ。家族と幸せに。
「うるせぇえっ!!」
「カノン!!逃げろ!!」
見たこともない怖い顔で、ギースが私に拳を振り上げてきて、そうしたらゲイルさんが、私の前に。
──グシャァアッ!!
「がッ……あ゛ぁ゛」
肉が潰れて、水が弾けるような音がして。
ゲイルさんの背中から、ギースの血まみれの手が飛び出していて。
「いやぁああああああああああああっ!!!!」
「ははっ、はっはっはっはっ!!やったぞ……俺は、師を超えた……強くなったってことだよなぁ?!」
狂気に満ちた高笑いが響き渡る中、ゲイルさんは震える両手で、ギースを強く抱き締めた。さらに深く。腕が背中から飛び出しているのに。
「ギース……お前は、俺の……」
「は……?何、して……」
「俺の自慢の、弟子だった……強く、なって……少し、間違えちまっただけだ……ろ?」
「ふざけるな、離せ!」
「お前は……きっと、やり、直せる……そうしたら、立派な……拳士、になれる。お前の、夢だ」
分からなかった。ゲイルさんは、今体に穴が空いてしまって、痛くて苦しい筈なのに。ギースの心配ばかり。
絞り出すような痛々しい声と共に、私の大好きな、おおきくてゴツゴツした手が、ギースの頭を撫でた。
ゲイルさんは、浅い呼吸で必死に言葉を紡いだ。それを聞いても尚、ギースの残虐に歪んだ顔はそのままだった。
「離せッ!」
「ゲイルさん!!」
突き飛ばされたゲイルさんの体から、ズルリと腕が抜けて、倒れたところを抱き締めた。私は涙でぼやける視界で必死にギースを睨み返す。
「いい眼になったなぁ、カノンちゃん。そうやって俺を憎めばいいよ。そうして強くなったら、俺と殺し合おうね」
「待って!!」
「仇討ち、楽しみにしてるよ」
「ギースッ!!」
恍惚とした表情の中に、僅かに悲しい目をしたギースの顔だけは、何故かはっきりと見えた。
そのまま彼は魔法陣の中へ消えていく。
「あ゛……が、カノ……ン」
「ゲイルさん……っ」
くぐもった声が、私を現実から縛り付けている。
私の腕では収まりきらない大きな体を必死に抱き締めると、頭にポン、と手が置かれる。
「悪いな……一緒にいら……れなくて。もう……独りに、させねぇって、決めて……たんだが」
大好きな。
「やだ、そんなこと、言わないで」
お父さんの手。
「お前は……本、当にいい子に、育った……」
冷たくて、温かくて。
「いかないでよ、独りにしないでよ!」
大好きで、大好きで。
「お前なら……世界一、強い拳士にだって……いいお嫁さんにだって、なれ、る」
この傷では、世界中の誰であっても、ゲイルさんを助けることは不可能だと。
「大事、な……娘……」
言いたいことがあった。
まだまだ、たくさん、これからも、ずっと、話したかった。私がどれだけ貴方とギースに、救われたのか。
「やだ、やだ!いやだよ!」
「ギ……ース、のこと……頼ん、だ。愛してるぞ、カノン……」
もう、返事は来ないだろう。どんどん体が冷たく、力が抜けていっている。
「私も、大好き……お父さん……っ」
それでも私は、一番言いたかった事を伝える事が出来た。微笑んだゲイルさんの穏やかな顔が、ちゃんと受け止めてくれたって思った。
「あああぁぁああああああああああああ……っ!!」
そして私は、また独りになって、泣き明かしたのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる