上 下
31 / 132
File_2

ギルマスの変なおじさん

しおりを挟む
俺達が王に謁見を申し込むと、会議室に通された。今回は執務室を兼ねた部屋で、以前の部屋とはまた違うところだったが、一先ず全員が席に着いた。
王様と大臣ちゃん、それから現在の騎士団の副団長に新しく就いた若いお兄さんも出席している。

「リヒテンシュタイン様、お久しぶりです」

「ドレラル、大変な時に出席してくれてありがとう。皆の様子はどう?」

「次の遠征隊は特に鍛錬に身が入っております。団長の帰還も間近ですからね」

世間話もそこそこに、先ずは竜胆が本題を切り出した。

「今回集まって頂いたのは、私が元魔王七刃将の一人であるアルカードくんと協力関係を結んだことの報告と、彼からの魔王軍の詳しい情報の共有が目的だ」

「魔王七刃将だと?!正気ですか勇者リンドウ!敵軍の……ッ」

「大臣、落ち着け。先ずは話を聴こうか」

案の定取り乱す大臣ちゃんを一言で黙らせると、王様は聞く姿勢を見せた。怪しい箇所があればすかさず突っ込む気はあるだろうが、話を聞く気があるだけでだいぶ違うよなぁ。

「彼は暴食のアルカードの通り名を、憤怒のオルドラを通して返還する宣言をするとともに、我々へ協力を申し出てきた。妹さんの平穏な生活を揺るぎないものとする為には、人間側へ立つ方が賢明だと判断してのことだ更に、私の【対魔族兵器】の開発に全面協力すると約束を交わしてくれた。彼の持つ情報は敵主戦力の鮮明な情報と本拠地の所在、軍の規模等が挙げられている」

「そういうとこなんで、一つ頼んだぜ。王様」

「事情は理解した。しかしリンドウくん、彼がスパイだった場合はどう責任を取るつもりだね?」

「問題無いよ。彼が裏切ったと判断した場合は彼と妹さんに仕込んだ爆弾を即刻起爆させる。手術はもう完了しているからね」

まぁこれはハッタリだけど、竜胆ならやりかねない感じの対策ではある。本当に必要ならば仕込むつもりだろうけど。
一同が引き気味に話を聞いて、その後にアルカードから全ての情報開示が行われた。

「全大陸に七刃将が率いる魔族とその協力を買って出た種族の集団が各地に控えてる。数は一個師団に匹敵するだろうな。
魔王軍の目的である、魔王復活による世界征服まではまだ先だが、七刃将には特別な役目もある」

「特別な役目、とは?」

「あらゆる知的生命体の感情だ。七刃将に宛てられた負の感情は、魔王の封印を解く鍵なんだ。先代勇者の施した封印は対象の意思と感情を閉じ込めるものだからな」

「なるほど。これは調査が完了次第、各国へ共有せねばなるまい。感謝する」

だから単に軍を率いて攻め入るだけの侵略はあんまりしてこないってことか。
七種の大量の感情を集めるとなれば、やり方も、アプローチも複雑であったり回りくどくならざるを得ない。

「時間的猶予はさほど多くはないだろうが、私も兵器の開発は急ぐとしよう。他に質問があれば今聞こうじゃないか」

「大臣、ドレラル、何かあるか?」

「いえ、私は」

王様が確認をすると、大臣だけが新たに話題を振る。もういいよ疲れたしwwwwww

「リンドウ殿、その兵器とやらはどのようなものを想定しているのか聞かせてもらいたい」

「一言で言うなら大量殺戮兵器。そこのモ……カルラくんに組み込んで運用する予定だ」

「ちょっと待って聞いてないwww」

「兵器は君以外居ないだろうそれに、この世界の魔法技術を駆使すれば軍を動かすまでもなく単騎で敵軍を潰して回れる代物をも開発出来るだろう」

最後にとんでもねぇ事言われて呆然としてたら何か会議終わってたんだが、とりあえず次はギルドマスターに会いに行く事になった。

その流れで竜胆とアルカード、リリィちゃんは先に別荘へ。イヴっち、カノンさん、タカトと共にギルマスの元へ赴く事になった。

勇者召喚でなく異世界に来たというその人物と接触するのは、なんだか緊張する。
クロウルジョーラ討伐完了の受理が済み、これでめでたく借金からは開放されたところで、ギルドマスターの部屋へ通された。

「マスター、ちょっと変わったオッサンだけど悪い奴じゃねぇから、元の世界の話はしてくれると思うぜ」

「私も会うの初めてなのよね。ちょっと緊張してきたかも」

「変なおじさん?」

「イヴっち、それ本人に言っちゃ駄目だぞ」

タカトがノックをすると、扉が開かれた。どうやら秘書官みたいな役割の人がいるらしい。

「アドヴァンスのタカト・サカキ様、並びに勇者パーティーの皆様、どうぞお入りください」

眼鏡に黒髪二つ結びのスーツ姿の女性は、如何にもデキる女的な聡明さを滲ませるクールビューティーといった感じ。ヒールで踏まれたいでござるなぁwww

「お前達が勇者か。よく来たな」

部屋の先には大きな机と上質なソファ。そこへ腰掛ける人物は、マフィアっぽい雰囲気漂う四十代前半くらいの、何かに似てるんだけどなんだっけwwwあの、缶コーヒーのBOSSのオッサンかなwwww

「おっすwwwオラ勇者wwwwギルマス強そうwwwwwワクワクすっぞwwwwww」

ただ座ってるだけで覇王色の覇気漏れてんじゃね?ってくらいの威厳と雰囲気を肌で感じながら、地球人テストとして悟空さの真似で軽いジャブを打ってみた。
すると、

「ホッホッホッ、初めてですよ、ここまで私をイライラさせたお馬鹿さんは」

ノリノリで返してきやがったコイツwwwwww無表情で何言ってんだこのオッサンwwwwwwwwwwww

「その返し……やっぱりアンタも元は地球から来たって事か」

「ふん、まぁな。俺の名は【バビロニア・フォルクスワーゲン】だ、よろしくな」

「名前wwwwww何人だよwwwwww」

この人の表情の変化があんま無いのは仕様なのかもしれない。その後も話を聞くと、彼は転生でこの世界に移ってきたらしい。ちなみに、42年前に新たな生を受けたので、年齢も当然42歳とのこと。

「まぁ、俺の身の上話なんてのはどうでもいい。それより勇者、お前達もアドヴァンスにならないか」

「え?私達、まだそんなに実績が」

「ならせてくれんなら喜んでなるけどwww」

「あどばんす、なりたい」

「そうだろ。なったら特別な待遇を受けられる代わりに、色々と便利に使わせてもらうが、マイナスにはならん。どうする?」

「どうする?カルラ」

「色々便利にってのが引っかかるなぁ。メリット次第ではお断りの可能性もありますけどもwww」

「なんだ、勇者のくせに疑り深い奴だな。アドヴァンスのメリットって言うとアレだよ、もうなんていうの?チャンネーとシースー、パイオツカイデー、酒池肉林ってやつだ」

「宜しくお願い申し上げますおっぱい」

「ちょっとカルラ、意味わかってる?」

「ていうかそんな特典聞いたことねぇぞ」

「カルラはおっぱいに釣られた」

登録してないイヴはともかく、俺とカノンさんはアドヴァンス昇格の話を承諾した。

「話は決まったな。秘書っち、これよろしく」

「畏まりました。
バビロニア様、こちらの処理が忙しいので、残りの仕事はよろしくおねがいします」

秘書のお姉さんは俺とカノンさんの書類を更新するため、ここぞとばかりに仕事をギルマスのオッサンに押し付けているように見えた。

「え、アドヴァンスの書類そんな大変じゃないでしょ秘書っち、ちょ、おい」

「オッサン全然尊敬されてなくて草」

「まぁたまにはサボらせてやらんとな。それより、お前たちに早速依頼だ」

バビロニアのオッサンはやれやれと溜め息を吐くと、タバコに火を着けて話題を切り替えた。
その表情はやっぱり感情があまり読み取れない感じだったが、何となく雰囲気で真剣な話だと理解した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で

ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。 入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。 ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが! だからターザンごっこすんなぁーーー!! こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。 寿命を迎える前に何とかせにゃならん! 果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?! そんな私の奮闘記です。 しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・ おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・ ・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!

俺だけ✨宝箱✨で殴るダンジョン生活

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
俺、“飯狗頼忠(めしく よりただ)”は世間一般で【大ハズレ】と呼ばれるスキル【+1】を持つ男だ。 幸運こそ100と高いが、代わりに全てのステータスが1と、何をするにもダメダメで、ダンジョンとの相性はすこぶる悪かった。 しかし世の中には天から二物も三物ももらう存在がいる。 それが幼馴染の“漆戸慎(うるしどしん)”だ。 成績優秀、スポーツ万能、そして“ダンジョンタレント”としてクラスカースト上位に君臨する俺にとって目の上のたんこぶ。 そんな幼馴染からの誘いで俺は“宝箱を開ける係”兼“荷物持ち”として誘われ、同調圧力に屈して渋々承認する事に。 他にも【ハズレ】スキルを持つ女子3人を引き連れ、俺たちは最寄りのランクEダンジョンに。 そこで目の当たりにしたのは慎による俺TUEEEEE無双。 寄生上等の養殖で女子達は一足早くレベルアップ。 しかし俺の筋力は1でカスダメも与えられず…… パーティは俺を置いてズンズンと前に進んでしまった。 そんな俺に訪れた更なる不運。 レベルが上がって得意になった女子が踏んだトラップによる幼馴染とのパーティ断絶だった。 一切悪びれずにレベル1で荷物持ちの俺に盾になれと言った女子と折り合いがつくはずもなく、俺たちは別行動をとる事に…… 一撃もらっただけで死ぬ場所で、ビクビクしながらの行軍は悪夢のようだった。そんな中響き渡る悲鳴、先程喧嘩別れした女子がモンスターに襲われていたのだ。 俺は彼女を囮に背後からモンスターに襲いかかる! 戦闘は泥沼だったがそれでも勝利を収めた。 手にしたのはレベルアップの余韻と新たなスキル。そしてアイアンボックスと呼ばれる鉄等級の宝箱を手に入れて、俺は内心興奮を抑えきれなかった。 宝箱。それはアイテムとの出会いの場所。モンスタードロップと違い装備やアイテムが低い確率で出てくるが、同時に入手アイテムのグレードが上がるたびに設置されるトラップが凶悪になる事で有名である。 極限まで追い詰められた俺は、ここで天才的な閃きを見せた。 もしかしてこのトラップ、モンスターにも向けられるんじゃね? やってみたら案の定効果を発揮し、そして嬉しい事に俺のスキルがさらに追加効果を発揮する。 女子を囮にしながらの快進撃。 ステータスが貧弱すぎるが故に自分一人じゃ何もできない俺は、宝箱から出したアイテムで女子を買収し、囮役を引き受けてもらった。 そして迎えたボス戦で、俺たちは再び苦戦を強いられる。 何度削っても回復する無尽蔵のライフ、しかし激戦を制したのは俺たちで、命からがら抜け出したダンジョンの先で待っていたのは……複数の記者のフラッシュだった。 クラスメイトとの別れ、そして耳を疑う顛末。 俺ができるのは宝箱を開けることくらい。 けどその中に、全てを解決できる『鍵』が隠されていた。

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

処理中です...