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戦いが終わったら一年くらい休みたいよね

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俺と戦った【魔王七刃将】の一人である【憤怒のオルドラ】は、他国の軍が交戦したという記録があるらしい。

その情報と俺の実戦情報を照らし合わせるのだという。

「……ふむ、見た目と能力からしても、相違ないようですな」

「特別な魔法か何か知らんけどすっげぇ硬くなんのよね。全身というよりは部分的だったけど」

「七刃将ってことは、他にも6人いるってことよね?」

カノンさんがそう言うと、王様が顎髭をゆっくりと扱きながら口を開いた。

「過去に遭遇した国の話では、【怠惰のベイル】【色欲のリリスミリィ】等の個体が報告に上がっている。何れも桁違いの戦闘能力で軍は壊滅状態まで追い込まれたと聞いている」

色欲の人がシャルと同じ名前なのにそれを知る俺達は一斉に本人へ視線を移した。

「リリスミリィ……」

「シャルは違うからね~」

「ならばそのファミリーネームの共通する別個体ということだろうが、君とは浅からぬ関係がありそうだね」

「まぁ、そうだね。でも何年も会えてないし魔王ナントカショーに入ってたのなんて初耳だよぉ」

竜胆に問い詰められて苦笑いのような困った笑みを浮かべると、シャルは沈んだ表情へ変わった。訳ありなのかスパイなのか、完全には信じきれない。
どういう関係なのだろうか。

「カルラくんの使い魔とやらならば当面は大丈夫だろうが、一応用心はしておきたまえ」

「お前、本人の前なんだから言い方をもうちょっとオブラートに包むとかしろよ。ちんぽと同じで剥き出しは良くない」

そんなこんなでその後も今回の事件についての情報の整理も一段落した頃、会話に全く入らずすっかりお休みモードのイヴっちが目を覚ました。

「ん……お話、終わった?」

「終わったわよ、イヴちゃん」

「おー……おつかれさま?」

寝ぼけ眼でそんなことを言うと、彼女の腹が盛大に鳴った。
それを見て、王様が柔らかく微笑んだ。

「イヴくん、お待たせして済まなかったね。皆も良ければ夕食を摂っていってくれ、こんな広間でも良ければだが」

「机と椅子がありゃなんでもいいっすよwww俺も腹減ったしwww」

大臣ちゃんは俺の態度に終始顰め面だったが、緊急の執務もあるらしい王様と共に広間を後にした。

「では副団長、私もまだ作業がありますので!」

騎士団の指揮を執っていた青年も、カノンさんに一礼して退室して暫くすると、サービングカートを押してメイドさん達が料理を運んできてくれた。

「厨房は無事だったみたいね」

「狙いは私達勇者だったのだから、破壊する優先順位は低かったのだろう」

「ごはんごはんっ」

次々と並ぶ見事な品の数々に、イヴがテンション上げまくっておられる。可愛い。

「すっごぉ♡王様って普段からこんな美味しそうなの食べてるの?」

「逆に魔王軍サイドは何食べてんだよwww」

「動物も食べるけどあとは魔物とか?焼いたり生だったりだよ」

「共食いと違うんかそれwww」

シャルにとっての食事はあくまで嗜好品であり、向こうの食事には特に注目していなかったのだそう。

「でもちゃんと作ればこんなに美味しいのも食べれるんだよねぇ。シャルも覚えようかなぁ♪」

「イヴ、味見する」

「あ、じゃあ帰りに食材が手に入ったら私が教えるわよ」

「盛り上がっているところ申し訳ないが、食費は極力抑えてくれたまえ。私の研究に必要な物が優先だ」

女性陣がキャッキャッしてる様子を眺めて心が安らいでいた所に、アホ焼きそばマッドサイエンティストが余計な水を差した。
思わず俺は立ち上がる。

「お前なぁ、研究と女子の手料理どっちが大事かくらいわかるだろ?!」

「あぁ、だから食費は残りコレだけにしてもらおう」

「違う違うwwwそうじゃwwwそうじゃなァいwww」

なんと小さな金貨を5枚だけだという。
カノンさんの説明によれば、この世界の通貨は金銀銅で各2種類の硬貨を流通させており、ボケナス竜胆が寄越した金貨だけで六人分(ターニャさんの分も含む)賄おうとすると、持って2ヶ月といったところらしい。

「これは流石に無理よ!」

「リンドウくんのけち~!」

カノンさんとシャルの非難に全く動じず、竜胆は料理を嚥下してから淡々と反論した。

「仕方がないだろう。この支援金は元々私が準備期間で対魔族用兵器を研究開発するための資金だ」

「なぁ竜胆さんや、ちなみにこれ日本円にするといくらなんwww」

「そうだね、今日の買い物を通して考察するならばこの金貨だと凡そ一万円といったところか。そしてこの一回り大きな金貨は十万円。

ちなみに銅貨の小は十円、大が百
銀貨の小は千、大が五千……といったところか」

だから色んな店でやたら値段聞いてたのかこいつwwwwww
それより、この金貨とか銀貨は元の世界に持って帰ったらいい値段付きそうだな等と思いつつ、カノンさんが難しい顔をして口を開いた。

「まぁ、生活費全てを陛下からの支援金で過ごすっていうのも、何か間違ってるかも……
となると、やっぱりギルドにも入っておいた方が良いわね」

「ぎるど?美味しいもの?」

「多分違うwwwテンプレなやつ来ましたわwww」

「てんぷら!」

ファンタジーではもはやお馴染みなあのギルドに、俺もついに入る事になるのか。小遣い稼ぎも出来るだろうし、楽しみになってきた。

「じゃあ早速明日、ギルドへ向かいましょ。イヴちゃんは年齢的に入れないかもしれないから、カルラの登録だけだけど」

「カノンはギルド入ってるんだ~。シャルも入れるかな?」

「まぁ騎士団の仕事してるから殆ど顔出せてないけど、一応ね。使い魔が入るなんて聞いたこと無いけど、どうかしらね」

「イヴ、仲間はずれ?」

「まぁイヴっちの分も俺が働くから安心しな。ニートしてたかったけど生活費がないのは困るしな」

そんな感じで半年間の過ごし方を固めた俺達は王様に挨拶して、城をあとにした。

すっかり日も落ちているものの、魔力式街頭で照らされた王都は復興作業で大忙しで、明日の食材を手に入れる道すがら瓦礫の撤去を軽く手伝ったりした。

「そういえば、レナちゃん大丈夫だったかな。無事に家に帰れてるといいけど」

「君がイヴと手伝っていた花屋の少女の事かな?それならあそこに居るようだが」

竜胆の指差した方へ目をやると、一軒の民家の前で花壇で項垂れているようだった。

「レナちゃん、無事だったみたいだな。何してんだ?」

「勇者様!……あれ?なんかお姉さんが増えてる」

「シャルでーす、よろしくね♡」

少し元気が無いようだが、俺達の顔を見ると少し笑顔を見せてくれた。どうやら花の手入れをしているらしい。

「今、無事だったお花を移し替えて明日の準備をしてるんです。荷車は無いから持てる分だけだけど」

「あれが残骸のようだね」

「あー、これなら直せるかも。ちょっと待ってて」

商売道具を壊されても明日も花を売ろうとするその姿に、思わず手を貸したくなった俺は、壊れた荷車を応急処置程度だが直してやった。

車輪が無事だったのもあって、砕けた荷台を補修すれば何とか使えそうだったし。

「一応押して歩けると思うけど、どうだ?」

「すごいです!ありがとうございます!」

「良いとこあるじゃない、カルラ」

「さすがシャルのご主人様♡やっぱり優しいなぁ」

「カルラ、えらい」

「やらない善よりやる偽善か、なるほどね」

「竜胆は黙ってろwww」

さっきより少しは元気が出たように見えるレナちゃんの笑顔だけで拙者はもうwww偽善バンザイでござるよwwww

王都の惨劇は、俺の心境を大きく変える出来事だった。
この街に住む人達の生活を脅かす魔族はやっぱり許せないし、早く平和を取り戻して、レナちゃんのような思いをする人が少しでも減れば良いと、そう思った。
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