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番外編
勘違い妻と遥かなる未来
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※注:本編完結後の番外編です。ネタバレ等含みますので出来ましたら本編をお読みになった後ご覧ください。
(今回は糖度低めなお話です。甘々な番外編は現在レジーナブックスサイト様にて公開中)
あらすじ:『彼』がイゼルマールを去ってから数か月の後。レオノーラは昨夜のヴォルクとの会話について美麗メイドエレニーに話して聞かせていたが―――?
◇◆◇
「誰が口にしたのでしょうね。暁の魔女の髪が、赤いなどと」
そう哀し気に呟いたのは、私付のメイドでもある美麗な女性―――エレニー=フォルクロスだった。
ヴォルク様が騎士の務めに出られている普段通りの午後。
雲間から陽の光が差し込むバルコニーで、私は花屋アイリスの子供達からの手紙に目を通しながら、昨夜話したヴォルク様との会話を彼女に聞いてもらっていた。
けれどその話の途中、常ならば口を挟む事など無いエレニーが発したのが、今の言葉というわけである。
髪と同じく美しい紫紺の色をした彼女の瞳が、手にしたティーポットにじっと注がれていた。
端正な目鼻立ちに、使用人とは思えぬ程の優美さを湛えた神秘的な彼女の面差しは、メイドというよりも月の女神や妖精など、人ならざるものに近いとすら思わせる。
宵の闇を落とし込んだような深い紫と紺の髪は動き良いように結い上げられているが、それがより一層艶めいた色香を際立たせていた。
「エレニー…?」
そんな美しいメイドの不可思議な呟きに、思わず問いかけを口にすると、彼女は手にしていたティーポットから私へと視線を映し、ふっと静かに微笑んだ。
「何でもございません。失礼致しました」
そう言ってから彼女はいつもと同じ定位置に下がり、表情も普段通り無表情に近いものに戻していた。
レグナガルド家に来た当時よりも断然多くの表情を見せてくれるようになった彼女だけれど、無に近い表情になってしまうのは、ヴォルク様と同じく本人の性格故らしい。
……思えば、エレニーとヴォルク様ってすごく良く似てるのよね。
二人ともあまり感情が顔に出づらいというか。
エレニー首謀の『当て馬事件』の際、彼女が若い見た目に反して年齢が結構……いやかなり年上だった事には本当に驚かされた。
しかもヴォルク様を坊ちゃまと言っていたことから、彼女がレグナガルド家に長く勤めているという事もその時に知ったのだ。なんでも、ヴォルク様が誕生する以前から、エレニーはこの屋敷でメイド頭として働いているらしい。
ヴォルク様のお父様であるヴァルフェン=レグナガルド男爵が雇い入れたというのは、エレニーと同じく長く屋敷に仕えてくれている執事ロータスからの話だった。
長年勤めているだけあって、母親代わりでもあったというエレニーとヴォルク様が似ていたとしても何ら不思議ではないのかもしれない。
と、そんな事を考えてから、エレニーが珍しく反応を見せた時の話題について思い起こした。
表情からは読み取りにくいけれど、彼女が言葉を零した暁の魔女の話は、昨夜ヴォルク様との会話でハージェス様のことが出たのが発端だった。
◆◇◆
「あいつの母親は、エルファトラムでは名の知れた踊り子だったらしい」
猫の目に似た三日月の光で、寝台の敷布が仄白く輝く。
日々の鍛錬で鍛えられた腕が、私の首元を優しく支えてくれていて、横目に見えるヴォルク様の晒された肩や肌の至る所には、古傷と思しき小さな傷痕がいくつもあった。
それは、彼が今思い浮かべている懐かしい人にもあったものなのだろうと、蒼い瞳を見て思う。
「踊り子……東王国の」
「そうだ」
暖かな腕と心を持つ彼の心中を思いながら、言われた言葉を繰り返すと、ヴォルク様が虚空を見つめながら頷いてくれた。
赤髪の騎士が西王国イゼルマールを去ってから数か月。
事件直後は慌ただしかった王都も今は落ち着きを取り戻し、ヴォルク様も別の士隊ではあったものの、捕縛者の二度の逃亡を許した事について士隊全体で将軍師等も含めた協議が行われ、やっと一段落ついたのが最近の事だった。
「炎の様に鮮やかな赤髪の、とても美しい人だったと…ハージェスが言っていた。かつては明星の巫女とまで称されたそうだ。しかし『暁の炎』の一件以降、イゼルマールでは赤い髪をした女性は毛嫌いされる傾向になってしまった」
語りながら、ヴォルク様が私の方に振り向き右手で優しく頬を撫でてくれる。
気遣いの心が垣間見える仕草に心が温かくなるのを感じながら、私は暁の炎というイゼルマール国民に多くの悲しみを与えた病を思い返した。
暁の炎は、数年前にイゼルマール全領を襲った流行り病のことである。
初めは咳や発熱など、風邪と同じような症状から始まり、それが次第に酷い血咳となり血を吐き倒れ衰弱していく。最終的には身体の至る所に炎に似た発疹が浮かび上がり、燃える様な熱を出して息絶える事から暁の炎と言われるようになった。
私の母であるレティシア=ローゼルも、この頃感染した多くの人々と同じくこの病を患いあえなく命を落としている。
感染者と非感染者にどの様な違いがあったのかは、未だ定かにはなっていない。
しかし、暁の炎の一件は私の実家ローゼル家だけでなく、イゼルマール国民にとって忘れ得ぬ悲劇の歴史となってしまった。
「東国の魔女一族はその昔、能力を他国に利用される事を恐れた先々のエルファトラム王によって虐殺の憂き目にあったと聞いていたが…あの暁の炎がイゼルマールに広まった時、どこからか東の魔女が病を引き起こしたのだという噂が真しやかに流れてしまった。しかもその魔女の髪が燃える様に赤かったと言われていた事から、ハージェスもあいつの母親も理不尽な差別を受ける事になってしまったらしい」
「ヴォルク様は、ハージェス様からその話を?」
「ああ……と言っても、あいつはあの通り表にそういう背景を出す奴じゃなかったから、半分は俺が自分で調べたんだが」
そう言ってから、ヴォルク様が長い睫毛を伏せる。
本来なら人の内情を暴く様な真似をしない彼がそこまでの事をしたのは、親しかった友へ何か出来る事は無いかと模索していたからなんだろう。
私の知らない過去のヴォルク様を思いながら、今傍にある鍛えられた彼の胸元にそっと掌を添えると、腕枕をしてくれているのとは反対側の手できゅっと指先を握られ微笑まれた。
「……まだ騎士学校に居た頃だったか。一度母親を連れてうちの屋敷に来いとあいつに言った事があった。しかしあいつはそれを断ったんだ。友人に重荷は背負わせられぬと言って」
語られた話を聞いて、私の脳裏に鮮やかな赤色の髪を揺らしながら笑うハージェス様の姿が浮かぶ。
「本当に優しいのは、優しすぎるのはあいつの方だったんだ。誰よりも清冽な精神を持つが故に、他人に頼る事を知らず過ごしてきたんだろう。そんなあいつだったから、俺は強行してでもハージェスとあいつの母親を連れ出そうと考えたが……所詮は若造の浅い思いつきでしかなかったのだろう。実行する前に、プロシュベール公に止められてしまった」
「エリシエル様のお父様に?」
「そうだ。トレント家は『選抜』以外にも色々きな臭い話があるからな…今回のプロシュベール公率いる貴族位審判会で戒告処分のみとなってしまったのも、あの家に後ろ盾する高位貴族の圧力がかかったからだろう。ハージェスの様な生い立ちの者を生み出したとはいえ、それ自体はトレント家内部での話でもあるし、襲撃事件についても奴の独断という事で言い逃れ出来てしまったからな」
ヴォルク様の言葉に、胸中に苦い気持ちが蘇る。
トレント家当主による凄惨とも言える『選抜』については、ハージェス様が去った後王国士隊と貴族位審判会によっての調査がなされた。
しかし、既にその当時の話を知る者が「存在しなかった」事により、処分の対象となったのはハージェス様がリヒテンバルド侯爵に加担した事についてのみとなったのだ。
その決定を聞いた時の腹立たしさは、正直今思い出してもやるせない。
戒告処分だけとなってしまったとは言え、暫くは大きな動きは取れないだろうとヴォルク様が話してくれた通り、トレント家は現在も不気味な程静寂を保っている。
恐らく遠くない未来に、何事かあるだろうと皆思ってはいるが、今のところその気配は無い。
ヴォルク様率いる蒼の士隊と諜報任務にある宵の士隊が影ながら監視してくれており、エリシエル様やユリウス様を含め私達と関係のある貴族やエレニー達使用人らまでもが、トレント家に目を光らせているのも要因となっているのだろう。
「確かに憎むべきはトレント家やデミカスではあるが…あの当時の差別的な扱いが無ければ、ハージェスの母親もあいつも、今のような結末にはならなかったのかもしれない。奴の半生を知りながら、それでも出会えた事が嬉しいと思う俺は、薄情なのかもしれないがな」
ヴォルク様は、昔を懐かしむような遠い目をしてそう言った。
友が経験した哀しみを思い、生きてくれている事への嬉しさを思い、そして何より出会えた事への感謝が、その複雑な光の中に滲んでいた。
◆◇◆
「ハージェス様のお母様の時代に……あの噂が無ければ、二人はもっと違う人生を歩んでいられたのかしら……」
エレニーが先程零した言葉に、昨夜のヴォルク様の表情を思い出して、私は悲しい仮定でしかない疑問を口にした。
美麗なメイドが入れてくれた檸檬茶の綺麗な琥珀色が、視線の下で揺らめいている。
『誰が口にしたのでしょうね。暁の魔女の髪が、赤いなどと』
あの病を引き起こしたとされる東の国の魔女。
もしその話が真実だったとしても、ハージェス様や彼のお母様が理不尽な扱いを受ける理由にはならない。
憎しみを無関係の人間に派生させなければならない程の悲しみがあったとしても、憎悪として変化したものが行き着く先は、虚しさでしかない筈だ。
そんな、髪の色味一つで人生が変わってしまうなど―――
そう考えた処で、ふと違和感に気が付いた。
かの魔女の名は『暁の魔女』。そう、『暁』なのだ。もしもその暁と言うのが、髪色を元にしたものだったとしたら――――そうだとしたら、おかしくは、ないだろうか?
暁とは確か、明け方の空―――宵の空が立ち上る朝日に白み始める頃を差すはず。
なのになぜ、暁の魔女の髪が赤いなどと言う噂が流れたのだろう。
「ねえ、エレニー」
「何でしょう」
「暁の色って……赤、では無いわよね……?」
私の問いかけに、エレニーが紫紺の瞳を一瞬ふっと見開いて、それから優しい光を灯す。午後の陽光が、彼女の髪に白い光の筋を差し、不思議な色合いを醸し出していた。
「レオノーラ様。聡明でお優しい貴女が、坊ちゃまの花嫁となって下さった事、私は真実に嬉しく思っております」
「え―――?」
問いかけに、返答では無く賛辞で返されて、一瞬言葉に詰まる。
美しいメイドは、光の中温かい慈愛ある微笑みを浮かべながら私を見つめていた。
そんな彼女の姿に一瞬見惚れた瞬間、突然がちゃりと部屋奥にある扉が開いた音が鳴り響く。
「レオノーラ!」
愛しい人の弾んだ声が響いて、思わずそちらへ顔を向けると、影となった部屋の中から蒼穹の差し色が入った騎士隊服が姿を見せた。
あれ、ヴォルク様?今はまだお昼なのに、帰ってこられたのかしら?
そう嬉しく思ったのも束の間、蒼い瞳をきらきら輝かせたヴォルク様が、凛々しい騎士服姿で今の副隊長であるクライス様を伴い私の元へと来てくれた。
それを見る限り、どうやらまだ任務中であるらしい。慌てて椅子から立ち上がりつつ軽く礼を取ると、クライス様がびしっと敬礼でもって返してくれ、そしてすぐエレニーに視線が釘付けとなっていた。
「坊ちゃま、いくら妻の部屋と言っても、断りなく共を引き連れ入ってくるのは如何なものかと思いますが」
急ぎ足でやってきたヴォルク様に対し、エレニーが厳しい声音で釘を刺す。
私自身は正直全く気にならないが、ヴォルク様の母親代わりでもある彼女としては、窘めるべき事柄だったのだろう。
エレニーにざっくりやられたヴォルク様は、瞬間うっと後ろに引いたが、気を取り直したように私へ向き直り、凛々しい眉を少しだけ下げた。
「悪かったレオノーラ。しかし、君に至急知らせたい事があって」
「知らせたい事?」
「ああ」
嬉しそうに蒼い瞳を緩ませたヴォルク様が、私の耳元まで顔を寄せその『知らせ』を教えてくれる。
こうまで心の高揚を表情に表したヴォルク様なんて珍しいな、と思いつつ彼の声に耳を傾けると、私は告げられた内容に思わず瞳を瞬かせることになった。
ハージェス様がイゼルマールを去って数か月。
行方は依然として知れなかったが、最近王都へ来ていた北の国ホルベルクの商人が、彼に似た人物が北王国の辺境地の村に滞在していたと噂していたらしい。
自分は元騎士だったと名乗り、その村にいた一人の少女を助けたのだとか。
鮮やかな赤い髪に焦げ茶色の瞳が印象的な、爽やかな青年だったらしい。恐らくあいつで間違いないだろう、とヴォルク様は穏やかな瞳でそう告げた。
「良かった……良かったです。本当に」
「ああ、そうだな……」
ヴォルク様が、心底嬉しいといった風に柔らかく微笑む。
それを見ながら、私も、エレニーも、クライス様も皆がみんな、安堵の笑みを浮かべていた。
「坊ちゃま、嬉しいのは判りましたが、そろそろ風も出てきましたし、レオノーラ様をお部屋に入れて差し上げたいのですが」
私達二人の高揚が落ち着くのを待っていたエレニーが、そう声をかけ促してくれる。
まだ日は高い位置にあるが、確かに彼女の言う通り少し風が出てきていた。
「あ、ああ、すまん。レオノーラ大丈夫か?身体は冷えていないか?君に風邪などひかれては……」
「大丈夫です。私結構頑丈ですから」
心配して慌てて手を引いてくれるヴォルク様に寄り添いながら、急いで知らせを持ってきてくれた事に感謝を込めて微笑むと、後ろから付き従ってくれていたエレニーが注意の言葉を付け足した。
「駄目ですよ。ただでさえレオノーラ様はここのところ食が細くなっておなりなんですから、気を付けていただきませんと」
「そういえば、今朝の朝食も残していたな」
「え、ええまあ…なんというか最近あんまり食べられなくて…って、あれ……」
ふいに胸に違和感を感じて足を止める。
眩暈では無く、胃の腑から沸き上がる様な少しのやけつきを感じて、思わず顔を顰めた。けれどそれはじっとしていると静かに収まり、後には普段と同じ感覚が戻っていった。
「どうされました?」
エレニーが私の前に周り、顔を覗き込みながら心配げな目を向けてくれる。
「…ちょっと気分が悪くて……どうしてかしら。今朝も朝食を食べようとしたら今みたいになんだか気持ち悪くなって……」
そういえば、今日の朝も先程と同じ様に胸やけがしていた。
料理長のコラッドの得意料理でもあるファンネル鶏の香草焼きがなぜか食べられず、それはもう悔しい思いをしたのだ。
でも……何でだろう。昨日そんなにどか食いした覚えはない……いや、夕食後ヴォルク様からまたお土産ってお菓子を頂いて、焼き菓子を一つ食べたけど……でもそれすらも、いつもならお代わりお願いします、と言えるくらい余裕な筈が、一個食べただけでもう無理となってしまって不思議だったし。
それになんだか、最近妙に酸っぱいものが欲しくなって、今日のお茶もエレニーに檸檬茶をお願いした位だったし。
はて?と考え込んでいる私の前で、エレニーがふむ、と顎に手を当てて考え込むそぶりを見せた後、一度長い睫毛を伏せ再びゆっくり開きながら微笑んだ。
「可能性としては高いと思っておりましたが……やはり間違いないようですね」
「え?」
エレニーの返答の意味が判らず、つい声が漏れてしまった。
どういう事だろうと考えていると、エレニーは極上の微笑みを湛えたまま、ヴォルク様に向かって「坊ちゃま、おめでとうございます」と祝福の言葉を口にする。
お、おめでとうございますって……と、いうことは。
その言葉に、自分の中でもやっと合点がいって、自然に手が下腹に伸びる。
まだ変化のない腹部にそっと触れながら、そういえばここ最近月のものも来ていなかったと思い出す。
いや、女としてどうなのかと言われればそうなのだけど、少し遅れている程度に思っていたのもあったのだ。
だけどまさか、そうだったとは。考えてみれば、思い当たる事はいくつもあった気がする。
「レオノーラっ!」
私の隣で一瞬固まっていたらしいヴォルク様が、突然ばっと向き直り、まさに感激一杯夢一杯な様子で蒼い瞳に歓喜の色を浮かべながら両手を広げ抱き締めようと―――して、くれたのだけど。
その寸前に、どがあっ!という鈍い音が彼の横腹を襲ったかと思えば、ものの見事にその場に崩れ落ちてしまわれた。
「っぐ…っ」
あ。
エレニーが、ヴォルク様に拳を入れた。
「懐妊した妻を、突然抱き上げようとするなど、何戯けた事をしようとなさってるんですか坊ちゃま。感激するのは結構ですが、レオノーラ様のお身体の事を考えて差し上げて下さいな」
エレニーが、キツ目の瞳を一層鋭くしながらびしりと言い放つ。
普段はティーポットを優雅に傾ける筈の彼女の白い手は、今や固い拳に形作られていて、一撃で屋敷の旦那様を沈黙させるという壮絶な光景を繰り広げていた。
……ヴォルク様、騎士様なんですけど。
しかも最近騎士隊長から騎士将軍に昇進された程の御方なんですが。
しかもクライス様何「エレニーさん格好良い…」とか言ってるんですか。いいんですか騎士様がそれで。目が変形してますよ。主に桃色のハート型に。
妙に空気っぽいなと思っていたらずっとエレニーに見惚れていたんですか、もしかして。
「す、すまん…」
エレニーに窘められて、(復活した)ヴォルク様が壊れ物を扱うみたいに恐る恐る私を抱き寄せてくれる。
正直な所、私自身はちょっと気分が悪い程度で、実感というのはあまり無いというのが本音ではある。
だけど、この愛しい人の子をこの身に宿す事が出来たのなら、それはとても嬉しいと思える。
愛しの騎士隊長様に愛されて……私は今を生き、そして未来を、命を愛していく。
この嬉しい事実が発覚して暫くの後。
かの『赤髪の騎士』から内々に、無事を知らせる便りが届く事を――――私達はまだ、知らない。
(今回は糖度低めなお話です。甘々な番外編は現在レジーナブックスサイト様にて公開中)
あらすじ:『彼』がイゼルマールを去ってから数か月の後。レオノーラは昨夜のヴォルクとの会話について美麗メイドエレニーに話して聞かせていたが―――?
◇◆◇
「誰が口にしたのでしょうね。暁の魔女の髪が、赤いなどと」
そう哀し気に呟いたのは、私付のメイドでもある美麗な女性―――エレニー=フォルクロスだった。
ヴォルク様が騎士の務めに出られている普段通りの午後。
雲間から陽の光が差し込むバルコニーで、私は花屋アイリスの子供達からの手紙に目を通しながら、昨夜話したヴォルク様との会話を彼女に聞いてもらっていた。
けれどその話の途中、常ならば口を挟む事など無いエレニーが発したのが、今の言葉というわけである。
髪と同じく美しい紫紺の色をした彼女の瞳が、手にしたティーポットにじっと注がれていた。
端正な目鼻立ちに、使用人とは思えぬ程の優美さを湛えた神秘的な彼女の面差しは、メイドというよりも月の女神や妖精など、人ならざるものに近いとすら思わせる。
宵の闇を落とし込んだような深い紫と紺の髪は動き良いように結い上げられているが、それがより一層艶めいた色香を際立たせていた。
「エレニー…?」
そんな美しいメイドの不可思議な呟きに、思わず問いかけを口にすると、彼女は手にしていたティーポットから私へと視線を映し、ふっと静かに微笑んだ。
「何でもございません。失礼致しました」
そう言ってから彼女はいつもと同じ定位置に下がり、表情も普段通り無表情に近いものに戻していた。
レグナガルド家に来た当時よりも断然多くの表情を見せてくれるようになった彼女だけれど、無に近い表情になってしまうのは、ヴォルク様と同じく本人の性格故らしい。
……思えば、エレニーとヴォルク様ってすごく良く似てるのよね。
二人ともあまり感情が顔に出づらいというか。
エレニー首謀の『当て馬事件』の際、彼女が若い見た目に反して年齢が結構……いやかなり年上だった事には本当に驚かされた。
しかもヴォルク様を坊ちゃまと言っていたことから、彼女がレグナガルド家に長く勤めているという事もその時に知ったのだ。なんでも、ヴォルク様が誕生する以前から、エレニーはこの屋敷でメイド頭として働いているらしい。
ヴォルク様のお父様であるヴァルフェン=レグナガルド男爵が雇い入れたというのは、エレニーと同じく長く屋敷に仕えてくれている執事ロータスからの話だった。
長年勤めているだけあって、母親代わりでもあったというエレニーとヴォルク様が似ていたとしても何ら不思議ではないのかもしれない。
と、そんな事を考えてから、エレニーが珍しく反応を見せた時の話題について思い起こした。
表情からは読み取りにくいけれど、彼女が言葉を零した暁の魔女の話は、昨夜ヴォルク様との会話でハージェス様のことが出たのが発端だった。
◆◇◆
「あいつの母親は、エルファトラムでは名の知れた踊り子だったらしい」
猫の目に似た三日月の光で、寝台の敷布が仄白く輝く。
日々の鍛錬で鍛えられた腕が、私の首元を優しく支えてくれていて、横目に見えるヴォルク様の晒された肩や肌の至る所には、古傷と思しき小さな傷痕がいくつもあった。
それは、彼が今思い浮かべている懐かしい人にもあったものなのだろうと、蒼い瞳を見て思う。
「踊り子……東王国の」
「そうだ」
暖かな腕と心を持つ彼の心中を思いながら、言われた言葉を繰り返すと、ヴォルク様が虚空を見つめながら頷いてくれた。
赤髪の騎士が西王国イゼルマールを去ってから数か月。
事件直後は慌ただしかった王都も今は落ち着きを取り戻し、ヴォルク様も別の士隊ではあったものの、捕縛者の二度の逃亡を許した事について士隊全体で将軍師等も含めた協議が行われ、やっと一段落ついたのが最近の事だった。
「炎の様に鮮やかな赤髪の、とても美しい人だったと…ハージェスが言っていた。かつては明星の巫女とまで称されたそうだ。しかし『暁の炎』の一件以降、イゼルマールでは赤い髪をした女性は毛嫌いされる傾向になってしまった」
語りながら、ヴォルク様が私の方に振り向き右手で優しく頬を撫でてくれる。
気遣いの心が垣間見える仕草に心が温かくなるのを感じながら、私は暁の炎というイゼルマール国民に多くの悲しみを与えた病を思い返した。
暁の炎は、数年前にイゼルマール全領を襲った流行り病のことである。
初めは咳や発熱など、風邪と同じような症状から始まり、それが次第に酷い血咳となり血を吐き倒れ衰弱していく。最終的には身体の至る所に炎に似た発疹が浮かび上がり、燃える様な熱を出して息絶える事から暁の炎と言われるようになった。
私の母であるレティシア=ローゼルも、この頃感染した多くの人々と同じくこの病を患いあえなく命を落としている。
感染者と非感染者にどの様な違いがあったのかは、未だ定かにはなっていない。
しかし、暁の炎の一件は私の実家ローゼル家だけでなく、イゼルマール国民にとって忘れ得ぬ悲劇の歴史となってしまった。
「東国の魔女一族はその昔、能力を他国に利用される事を恐れた先々のエルファトラム王によって虐殺の憂き目にあったと聞いていたが…あの暁の炎がイゼルマールに広まった時、どこからか東の魔女が病を引き起こしたのだという噂が真しやかに流れてしまった。しかもその魔女の髪が燃える様に赤かったと言われていた事から、ハージェスもあいつの母親も理不尽な差別を受ける事になってしまったらしい」
「ヴォルク様は、ハージェス様からその話を?」
「ああ……と言っても、あいつはあの通り表にそういう背景を出す奴じゃなかったから、半分は俺が自分で調べたんだが」
そう言ってから、ヴォルク様が長い睫毛を伏せる。
本来なら人の内情を暴く様な真似をしない彼がそこまでの事をしたのは、親しかった友へ何か出来る事は無いかと模索していたからなんだろう。
私の知らない過去のヴォルク様を思いながら、今傍にある鍛えられた彼の胸元にそっと掌を添えると、腕枕をしてくれているのとは反対側の手できゅっと指先を握られ微笑まれた。
「……まだ騎士学校に居た頃だったか。一度母親を連れてうちの屋敷に来いとあいつに言った事があった。しかしあいつはそれを断ったんだ。友人に重荷は背負わせられぬと言って」
語られた話を聞いて、私の脳裏に鮮やかな赤色の髪を揺らしながら笑うハージェス様の姿が浮かぶ。
「本当に優しいのは、優しすぎるのはあいつの方だったんだ。誰よりも清冽な精神を持つが故に、他人に頼る事を知らず過ごしてきたんだろう。そんなあいつだったから、俺は強行してでもハージェスとあいつの母親を連れ出そうと考えたが……所詮は若造の浅い思いつきでしかなかったのだろう。実行する前に、プロシュベール公に止められてしまった」
「エリシエル様のお父様に?」
「そうだ。トレント家は『選抜』以外にも色々きな臭い話があるからな…今回のプロシュベール公率いる貴族位審判会で戒告処分のみとなってしまったのも、あの家に後ろ盾する高位貴族の圧力がかかったからだろう。ハージェスの様な生い立ちの者を生み出したとはいえ、それ自体はトレント家内部での話でもあるし、襲撃事件についても奴の独断という事で言い逃れ出来てしまったからな」
ヴォルク様の言葉に、胸中に苦い気持ちが蘇る。
トレント家当主による凄惨とも言える『選抜』については、ハージェス様が去った後王国士隊と貴族位審判会によっての調査がなされた。
しかし、既にその当時の話を知る者が「存在しなかった」事により、処分の対象となったのはハージェス様がリヒテンバルド侯爵に加担した事についてのみとなったのだ。
その決定を聞いた時の腹立たしさは、正直今思い出してもやるせない。
戒告処分だけとなってしまったとは言え、暫くは大きな動きは取れないだろうとヴォルク様が話してくれた通り、トレント家は現在も不気味な程静寂を保っている。
恐らく遠くない未来に、何事かあるだろうと皆思ってはいるが、今のところその気配は無い。
ヴォルク様率いる蒼の士隊と諜報任務にある宵の士隊が影ながら監視してくれており、エリシエル様やユリウス様を含め私達と関係のある貴族やエレニー達使用人らまでもが、トレント家に目を光らせているのも要因となっているのだろう。
「確かに憎むべきはトレント家やデミカスではあるが…あの当時の差別的な扱いが無ければ、ハージェスの母親もあいつも、今のような結末にはならなかったのかもしれない。奴の半生を知りながら、それでも出会えた事が嬉しいと思う俺は、薄情なのかもしれないがな」
ヴォルク様は、昔を懐かしむような遠い目をしてそう言った。
友が経験した哀しみを思い、生きてくれている事への嬉しさを思い、そして何より出会えた事への感謝が、その複雑な光の中に滲んでいた。
◆◇◆
「ハージェス様のお母様の時代に……あの噂が無ければ、二人はもっと違う人生を歩んでいられたのかしら……」
エレニーが先程零した言葉に、昨夜のヴォルク様の表情を思い出して、私は悲しい仮定でしかない疑問を口にした。
美麗なメイドが入れてくれた檸檬茶の綺麗な琥珀色が、視線の下で揺らめいている。
『誰が口にしたのでしょうね。暁の魔女の髪が、赤いなどと』
あの病を引き起こしたとされる東の国の魔女。
もしその話が真実だったとしても、ハージェス様や彼のお母様が理不尽な扱いを受ける理由にはならない。
憎しみを無関係の人間に派生させなければならない程の悲しみがあったとしても、憎悪として変化したものが行き着く先は、虚しさでしかない筈だ。
そんな、髪の色味一つで人生が変わってしまうなど―――
そう考えた処で、ふと違和感に気が付いた。
かの魔女の名は『暁の魔女』。そう、『暁』なのだ。もしもその暁と言うのが、髪色を元にしたものだったとしたら――――そうだとしたら、おかしくは、ないだろうか?
暁とは確か、明け方の空―――宵の空が立ち上る朝日に白み始める頃を差すはず。
なのになぜ、暁の魔女の髪が赤いなどと言う噂が流れたのだろう。
「ねえ、エレニー」
「何でしょう」
「暁の色って……赤、では無いわよね……?」
私の問いかけに、エレニーが紫紺の瞳を一瞬ふっと見開いて、それから優しい光を灯す。午後の陽光が、彼女の髪に白い光の筋を差し、不思議な色合いを醸し出していた。
「レオノーラ様。聡明でお優しい貴女が、坊ちゃまの花嫁となって下さった事、私は真実に嬉しく思っております」
「え―――?」
問いかけに、返答では無く賛辞で返されて、一瞬言葉に詰まる。
美しいメイドは、光の中温かい慈愛ある微笑みを浮かべながら私を見つめていた。
そんな彼女の姿に一瞬見惚れた瞬間、突然がちゃりと部屋奥にある扉が開いた音が鳴り響く。
「レオノーラ!」
愛しい人の弾んだ声が響いて、思わずそちらへ顔を向けると、影となった部屋の中から蒼穹の差し色が入った騎士隊服が姿を見せた。
あれ、ヴォルク様?今はまだお昼なのに、帰ってこられたのかしら?
そう嬉しく思ったのも束の間、蒼い瞳をきらきら輝かせたヴォルク様が、凛々しい騎士服姿で今の副隊長であるクライス様を伴い私の元へと来てくれた。
それを見る限り、どうやらまだ任務中であるらしい。慌てて椅子から立ち上がりつつ軽く礼を取ると、クライス様がびしっと敬礼でもって返してくれ、そしてすぐエレニーに視線が釘付けとなっていた。
「坊ちゃま、いくら妻の部屋と言っても、断りなく共を引き連れ入ってくるのは如何なものかと思いますが」
急ぎ足でやってきたヴォルク様に対し、エレニーが厳しい声音で釘を刺す。
私自身は正直全く気にならないが、ヴォルク様の母親代わりでもある彼女としては、窘めるべき事柄だったのだろう。
エレニーにざっくりやられたヴォルク様は、瞬間うっと後ろに引いたが、気を取り直したように私へ向き直り、凛々しい眉を少しだけ下げた。
「悪かったレオノーラ。しかし、君に至急知らせたい事があって」
「知らせたい事?」
「ああ」
嬉しそうに蒼い瞳を緩ませたヴォルク様が、私の耳元まで顔を寄せその『知らせ』を教えてくれる。
こうまで心の高揚を表情に表したヴォルク様なんて珍しいな、と思いつつ彼の声に耳を傾けると、私は告げられた内容に思わず瞳を瞬かせることになった。
ハージェス様がイゼルマールを去って数か月。
行方は依然として知れなかったが、最近王都へ来ていた北の国ホルベルクの商人が、彼に似た人物が北王国の辺境地の村に滞在していたと噂していたらしい。
自分は元騎士だったと名乗り、その村にいた一人の少女を助けたのだとか。
鮮やかな赤い髪に焦げ茶色の瞳が印象的な、爽やかな青年だったらしい。恐らくあいつで間違いないだろう、とヴォルク様は穏やかな瞳でそう告げた。
「良かった……良かったです。本当に」
「ああ、そうだな……」
ヴォルク様が、心底嬉しいといった風に柔らかく微笑む。
それを見ながら、私も、エレニーも、クライス様も皆がみんな、安堵の笑みを浮かべていた。
「坊ちゃま、嬉しいのは判りましたが、そろそろ風も出てきましたし、レオノーラ様をお部屋に入れて差し上げたいのですが」
私達二人の高揚が落ち着くのを待っていたエレニーが、そう声をかけ促してくれる。
まだ日は高い位置にあるが、確かに彼女の言う通り少し風が出てきていた。
「あ、ああ、すまん。レオノーラ大丈夫か?身体は冷えていないか?君に風邪などひかれては……」
「大丈夫です。私結構頑丈ですから」
心配して慌てて手を引いてくれるヴォルク様に寄り添いながら、急いで知らせを持ってきてくれた事に感謝を込めて微笑むと、後ろから付き従ってくれていたエレニーが注意の言葉を付け足した。
「駄目ですよ。ただでさえレオノーラ様はここのところ食が細くなっておなりなんですから、気を付けていただきませんと」
「そういえば、今朝の朝食も残していたな」
「え、ええまあ…なんというか最近あんまり食べられなくて…って、あれ……」
ふいに胸に違和感を感じて足を止める。
眩暈では無く、胃の腑から沸き上がる様な少しのやけつきを感じて、思わず顔を顰めた。けれどそれはじっとしていると静かに収まり、後には普段と同じ感覚が戻っていった。
「どうされました?」
エレニーが私の前に周り、顔を覗き込みながら心配げな目を向けてくれる。
「…ちょっと気分が悪くて……どうしてかしら。今朝も朝食を食べようとしたら今みたいになんだか気持ち悪くなって……」
そういえば、今日の朝も先程と同じ様に胸やけがしていた。
料理長のコラッドの得意料理でもあるファンネル鶏の香草焼きがなぜか食べられず、それはもう悔しい思いをしたのだ。
でも……何でだろう。昨日そんなにどか食いした覚えはない……いや、夕食後ヴォルク様からまたお土産ってお菓子を頂いて、焼き菓子を一つ食べたけど……でもそれすらも、いつもならお代わりお願いします、と言えるくらい余裕な筈が、一個食べただけでもう無理となってしまって不思議だったし。
それになんだか、最近妙に酸っぱいものが欲しくなって、今日のお茶もエレニーに檸檬茶をお願いした位だったし。
はて?と考え込んでいる私の前で、エレニーがふむ、と顎に手を当てて考え込むそぶりを見せた後、一度長い睫毛を伏せ再びゆっくり開きながら微笑んだ。
「可能性としては高いと思っておりましたが……やはり間違いないようですね」
「え?」
エレニーの返答の意味が判らず、つい声が漏れてしまった。
どういう事だろうと考えていると、エレニーは極上の微笑みを湛えたまま、ヴォルク様に向かって「坊ちゃま、おめでとうございます」と祝福の言葉を口にする。
お、おめでとうございますって……と、いうことは。
その言葉に、自分の中でもやっと合点がいって、自然に手が下腹に伸びる。
まだ変化のない腹部にそっと触れながら、そういえばここ最近月のものも来ていなかったと思い出す。
いや、女としてどうなのかと言われればそうなのだけど、少し遅れている程度に思っていたのもあったのだ。
だけどまさか、そうだったとは。考えてみれば、思い当たる事はいくつもあった気がする。
「レオノーラっ!」
私の隣で一瞬固まっていたらしいヴォルク様が、突然ばっと向き直り、まさに感激一杯夢一杯な様子で蒼い瞳に歓喜の色を浮かべながら両手を広げ抱き締めようと―――して、くれたのだけど。
その寸前に、どがあっ!という鈍い音が彼の横腹を襲ったかと思えば、ものの見事にその場に崩れ落ちてしまわれた。
「っぐ…っ」
あ。
エレニーが、ヴォルク様に拳を入れた。
「懐妊した妻を、突然抱き上げようとするなど、何戯けた事をしようとなさってるんですか坊ちゃま。感激するのは結構ですが、レオノーラ様のお身体の事を考えて差し上げて下さいな」
エレニーが、キツ目の瞳を一層鋭くしながらびしりと言い放つ。
普段はティーポットを優雅に傾ける筈の彼女の白い手は、今や固い拳に形作られていて、一撃で屋敷の旦那様を沈黙させるという壮絶な光景を繰り広げていた。
……ヴォルク様、騎士様なんですけど。
しかも最近騎士隊長から騎士将軍に昇進された程の御方なんですが。
しかもクライス様何「エレニーさん格好良い…」とか言ってるんですか。いいんですか騎士様がそれで。目が変形してますよ。主に桃色のハート型に。
妙に空気っぽいなと思っていたらずっとエレニーに見惚れていたんですか、もしかして。
「す、すまん…」
エレニーに窘められて、(復活した)ヴォルク様が壊れ物を扱うみたいに恐る恐る私を抱き寄せてくれる。
正直な所、私自身はちょっと気分が悪い程度で、実感というのはあまり無いというのが本音ではある。
だけど、この愛しい人の子をこの身に宿す事が出来たのなら、それはとても嬉しいと思える。
愛しの騎士隊長様に愛されて……私は今を生き、そして未来を、命を愛していく。
この嬉しい事実が発覚して暫くの後。
かの『赤髪の騎士』から内々に、無事を知らせる便りが届く事を――――私達はまだ、知らない。
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