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外伝 大和撫子は泥中の蓮に抱かれる。【コミカライズ版発売記念】

尋問、身元引受人。

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「……で、お嬢さん? 君はどうやって、ここに忍び込んだのかな?」

「わかりません」

「へえ……」

 なにやら金髪に眼鏡をかけたインテリ美青年に楽しげに返されました。
 青年の眼鏡が陽光にきらりと光っています。
 目が痛くなるくらいの美形ですが視線は逸らしません。逸らしたら負けです。

 現在、私は尋問されている真っ最中なので……!

 なぜかお風呂からカラフル男子に囲まれる事態になり、パニックで気絶し知らない場所で起きた後。

 私はまたまた先程とは全く違う場所におりました。

 簡単に言えば広めのダンスホール……な感じでしょうか。
 床は白い大理石で、紺色に月と星の柄が入った壁紙は横一面に、その上には等間隔に並ぶ縦長の格子窓がずらーっと続いていて、真っ黒なビロードのカーテンが個々の窓にハの字に掛かってます。居るだけで背筋が伸びる感じです。

 さておき、説明をしてくれた曰く、ココは『宵の士隊宿舎』だそうで。
 宵の士隊というのはこの国、西の王国イゼルマールにある騎士組織の事らしいです。

 いや、騎士って時点でもう……ファンタジーですよね本当。

 一瞬中世のフランスかどっかにでもタイムスリップしちゃったのかと思ったものの、にしては国の名前も全く聞き覚えが無いし、何よりも頭! 頭がカラフル過ぎる!

 というわけで、『彼』に言われた「ここは―――君が生きていた世界ではない。つまり、別の世界だ」な台詞を信じることにしたわけであります。

 なんだかもの凄く事後報告になっておりますが!
 だって彼に言われたんだもの!
 『君はこれから尋問を受けることになる。下手な事は言わないように。悪いようにはしない』って!

 普段なら信じられるか! な話ではあれど、何しろこれは現実。
 下手を打って成敗されました、なんて事にもなりかねないわけで。
 私は仕方なく、知らぬ間にネグリジェ着せられていた事に文句を垂れつつ了承したのでした。
 で、ただいま尋問の真っ最中です。左右にやっぱりカラフルカラーの男性達が並んでいます。皆さん騎士だそうですが、総じて雰囲気ちょっと暗いというか、妙にぞわつく感じなのはどうしてでしょう。一先ず見ない振りをしておきます。
 今度は服着てるからちょっと強気です! もう気絶しないもんね!

「ロータス、報告を」

「はい」

 金髪美形の声に一人の青年がレインボー列の中から一歩踏み出した。
 青や緑、金や銀色の中でも目立つ彼の色は黒。長い前髪で片目が隠れているが、見えている左目も黒である。私と、同じ色だ。

 名はロータス=カイザ。
 私に最初に説明をしてくれた『彼』である。

「……不審な所はありません。仕込み武器等も皆無です。毒体検査も陰性でした」

「そうか」

「全くの一般人と変わりありません。例の件とは無関係かと」

「お前が断言するのは珍しいな」

「……いえ」

 ロータス、と目覚めた時に名乗ってくれた人を見ながら私は……ん? と内心で首を傾げた。
 今の説明に足りないところを発見したからだ。

 先程彼は私にこの世界が異世界であると説明してくれた。だというのに、上司らしき人にそれを言うつもりはないのだろうか。

 もしかして―――守ってくれてる?
 私が、異世界人だと知られないように。
 まさか、ね?

「ふむ……」

 金髪の青年が眼鏡越しに湖色の瞳をすうっと細める。

 ロータスはその視線をじっと受け止めていた。

 暫し、場に沈黙が下りる。

 けれど数秒の後に、金髪の青年が微笑を浮かべたことで視線の会話は中断となった。

「……たとえ丸腰の人間であれ、この宵の士隊の本部に突然現れた事については看過し難いね。ならば、暫しの監視役が必要だと僕は思うのだけど?」

 金髪の青年の提案に、ロータスは隠れていない方の左目をふっと伏せ、その場で膝を折った。

「―――俺が、任を賜ります」

「だね。それじゃあ頼むよ。

「御意」

 口上を述べ頭を垂れたロータスに、金髪の青年は透明な硝子の眼鏡を陽に煌めかせながら満足げに頷いた。

 こうして私は身元引受人となった彼―――ロータスの元で暮らすことになったのである。
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