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番外編
魔女が咲かせた薬花【コミカライズ化記念感謝SS】
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―――大地が草木の緑と空の青に染まる時、幻の花が咲くという。
たった一日だけ蕾をつけるそれは、滅多と人の目に触れる事もないのだと……
「っだとこら!」
「上等だ!やってやらぁっ!」
炎を焼き付けたような夕暮れの街に、突如怒声が響き渡った。
なるべく目立たないようにと、大通りの端を歩いていた足を止め振り返れば、灯りの点き始めた酒場の前で掴み合う男達が見える。
……酔っ払いかしら。
何だ何だと集まり始めた野次馬越しに様子を窺う。
どうやら思った通りらしく、酒で酔った客が店の前で押し問答を繰り広げているようだ。
空気は一触即発、掴みかからんとする勢いに、集まった野次馬の中から「いいぞ、やっちまえ」だの「まあ嫌ね」などの様々な声がした。
平穏な日常の中、時折起るありふれた光景に、内心呆れて溜息を吐く。
幾ら飲みに来てくれても、お店もいい迷惑よね、あれじゃ。
しかしあれはあれで、国が平和な証拠でもあるのだ。かつて失った、故郷とは違って。
私は深めに被ったフードを指先で整えながら、その場から立ち去ろうと足を踏み出した。
けれど、人々のどよめきに、再び立ち止まる。
「あ~あ、勿体ない酔い方してんなぁ。それじゃ酒が泣くぜ?」
チャリチャリ、と。
声の主が動く度に金属の打ち合う音が鳴り響く。
街人が立ち並んだ壁の向こう、囲いになった中心に、一人の男が歩いてきていた。
白地に蒼の差し色が入った騎士服を夕暮れに染めた男は、斜めに流した銀髪を揺らしながら軽い足取りで男達の間に分け入っていく。
まるで飲み友達に声をかけるような気安い仕草に、怒気を纏っていた男達も拍子抜けしたみたいにぽかんとしていた。
ついでに言えば、彼の服装も気を削いだ原因の一つなのだろう。
「……んだよ。士隊のあんちゃんかよ。俺らは別に……」
「まあまあ、通りがかったら、たまたま見かけただけだって。まだ手は出してないんだ。咎めはしないさ。揉めた理由に、興味はあるがな」
国と街の警備を司る騎士を前に、男達は少し萎縮したような面持ちで、ぶつぶつと文句がちに喧嘩の原因を語っていた。
それを笑顔で頷きながら聞いている騎士の横顔は、穏やかだがどこか有無を言わせない圧があった。
気付く人は少ないが、表情には出ていなくとも、他者を従わせることのできる気迫を身に纏っている。確固たる経験故の威圧感が、彼にはあった。
荒事になりそうだったのが収まりを見せたことで、人だかりも一人、また一人と離れていく。
私はその様子を遠目にじっと見つめてから、帰宅後の予定について変更を加えていた。
正しくは、『彼』に煎れてあげる薬草茶についてのレシピ変更なのだが。
今のうちに……離れた方が良いわよね。
まさか出くわすとは思わなかったが、これならばれずに済むかも知れない、とそっとその場から足を動かす。
実はこっそり屋敷を出てきた手前、こちらから声をかけるなんて事は出来なかったのだ。
ある意味、あの男達に感謝である。
私はほっと胸を撫で下ろしながら、けれど確実にその場から逃げださんと早足で歩き出した。
しかし、人生そう上手くはいかないらしい。
「お・ね・え・さ・ん! 一人?」
「っな……」
目の前に、見知らぬ男が立ちはだかる。
茶色く長い髪を無造作に束ね、薄笑いを浮かべたいかにも軽薄そうな、無駄にひらひらした華美な衣装の男だった。フリルシャツに虹色の腰巻きはどこの吟遊詩人か舞台役者か、と言いたくなるような出で立ちだ。
人は見た目で判断するべきではないと思っても、これでは流石に無理がある。
「急いでるの。どいて」
フードを被ったまま、なるべく低めの声で言う。
けれど男は少し屈んで顔を覗き込んできた。
「あー、やっぱり! 綺麗な子だろうなって思ったんだ! 当たりだなぁ!」
……人の話を聞け。
囃し立てるように言う男に一瞬苛ついたが、こういう輩は無視するに限る。
そう判断して、素知らぬふりでさっと横を通り過ぎようとした。
が、ぐんと腕が引っ張られる感覚がして、その場でたたらを踏んでしまう。
「ちょっと……!」
右腕に掛けていた籠を掴まれたのだと気付いた時には、男の顔が間近にあった。
「ね、これからどっかいかない? 君、使用人なんでしょう? 良ければ俺の所で雇ってあげるからさ」
舐めるような視線で人の身体を上から下まで見た男の顔がいやらしく歪む。どうやら、やたら飾り立てた衣装はどこぞの貴族の息子か何からしい。
自分の言葉は聞いて当たり前だと言わんばかりに、男は強引に籠ごと私を引っ張り寄せようとした。
「馬鹿言わないで」
正直、張り倒してやろうかと思ったが、いかんせん今の私の格好は使用人服である。
屋敷のお遣いにでも見えたら良いと思ってこの格好で来たが、逆に『こういう立場』の人間の目を引いてしまったらしい。
まあ、使用人服を着ている上フードを被っているので、悪目立ちしたのかもしれないが。
だって仕方ないのだ。一応、お忍びでの外出なのだから。
「少し位いいじゃないか。どうせ戻ったところで、面倒な仕事を言いつけられるだけだろう?」
男は私を使用人だと思っているせいか、上から目線で誘いをかけてくる。
見た目がそうなので仕方ないのだが、嫌がっている相手に無理強いするあたり、よくいる貴族のぼんぼんなのだろう。
面倒くさいな、と思いつつ、溜息交じりに男をすっと見据えた。
途端、男が掴んでいた手が緩む。
「……お生憎様。私はね、『旦那様』以外の男に興味は無いのよ」
冷たく言い放ってからさっと男から距離を取り駆け出そうとした。
近くに彼がいる以上、面倒事にかかわりたくは無い。というか、下手をするとここに居ることがばれてしまう。それだけは絶対に避けたい。
「っ待て! この使用人風情がっ!!」
背に、男の声がかかった。
勿論無視してそのまま行ってしまうつもりだったが、聞こえた『名前』に、ピキリ、と身体が固まった。
「ヴァルフェン将軍っ!」
焦ったような驚いたような、若い男性の声がした。
と、思ったら、次の瞬間悲鳴が聞こえた。
「ひいっ!?」
「……なあ、うちの者に何の用だ。若造」
ばっと振り返ると、銀色の剣を構えた騎士が蒼く鋭い眼光で、先ほどの軽薄な男に詰め寄っているのが見えた。
結構距離があった筈なのに、いつの間にか直ぐ傍に居て絶句する。駆ける音すらさせないなど、最早人間業では無いだろう。
やっぱり、ばれた……。
背中に、たらりと嫌な汗を掻いた気がした。
「どこの家の者に、手を出そうとしてるのかって、聞いてるんだが?」
「う、あ」
銀色の刃が、冷たく硬質な光を放つ。
銀髪の騎士、ヴァルフェンは先ほどの穏やかな表情とは打って変わって、凍てつくような静かな怒気を漂わせ、男の首元に剣を突きつけている。男は既に腰が抜けているのか、地面にへたり込んでいた。
たぶん彼の気迫にあてられたせいだろう。戦の場数を踏んでいる人間の気とは、そういうものだ。
しかし幾ら何でも、やり過ぎである。
「ちょっと絡まれただけ。大袈裟よ」
「それで十分だと思うが」
内心溜息を吐きつつ、観念して助け船を出せば、彼は気配を緩め剣を収めながら、私に視線を寄越した。
なんていうか、最初から気付いてたって顔ね。それ。
蒼い瞳が、なぜ一人で出歩いているのか、と物語っている。
元より丸腰の相手に手を掛けるような人間では無い。ただ、妻に手を出そうとする輩をそのまま見逃すようなお優しい男でもないだけで。
「将軍……! 急に飛び出して一体どうし……あ、エレニーさ、じゃない、エレニー嬢。街においでだったんですか」
「ご無沙汰しておりますロストランザ様。旦那様がいつもお世話になっております」
「い、いえ……!」
後から掛けてきた青年騎士、アルフォンス=ロストランザ様に一礼していると、地面にへたり込んでいた男が「将軍っ!?」と声を上げていた。どうやらレグナガルド家の事を知っているらしい。
確かに爵位は低いが、何千という騎士の所属する士隊組織でも数少ない地位についているため、当然と言えば当然か。
「アル、俺は彼女を連れて一度屋敷に戻る。お前は先に行っててくれ」
「っは!」
「し、将軍だって? もしかして……レグナガルド家っ?」
呆然としている男を残し、ヴァルフェンは部下にそれだけ告げて、私の腕を引きその場を後にした。
◆◆◆
「―――で、何でまた、一人で街になんていたんだ?」
「ちょっと買いたい物があったのよ」
暫し歩いてから投げられた問いに、平然を装いつつ答えた。すると、ヴァルフェンは特に気にした風でもなく、ふうん、と一言告げる。
少し位は怒られると思っていたので、正直拍子抜けした。
そして、急に口端をくっと上げて、何か面白い事でもあったみたいに喉奥で笑いだす。
「ちょっと、何よ」
「べつに。ただ、あれは効いたなと思ってな」
「何が」
「俺以外の男に興味は無いってやつ。いやあ、大した殺し文句だと思ってさ」
「っな……!」
聞いてたのね!
揶揄う言い方に面食らったのと、聞かれていたのかという驚きとで、言葉に詰まる。そんな私を見て、ヴァルフェンの笑みがより深くなった。
いつから見ていたのかと思っていたけど、やっぱり最初から見ていたらしい。
喧嘩の仲裁をしていた筈なのに、どこまで目が良いのか。こちらは無断で一人外出していることを咎められるとばかり思っていたのに、歯がゆいったら無かった。
「この位の意地悪は許されるだろう? なあ、レグナガルド夫人」
「ちょっとっ、誰かに聞かれたらどうするのよ!」
嬉しそうに、楽しげに言う騎士に文句を付けると、彼は大きな笑い声を上げ、蒼く澄んだ視線をこちらに流した。爽やかな色味には不似合いな艶を含んだ光に、思わずたじろぐ。
「妻を妻だと呼んで、何がいけないんだ? 本当は宣伝して歩きたいくらいなんだからな」
「馬鹿……」
呆れながら、銀髪の騎士を半目で睨めば、こちらの態度など気にしていないように彼の表情が破顔していた。どうやら、先ほどの私の台詞が余程嬉しかったらしい。
……まあ、おかげで怒られずに済んだんだけど。
「それはさておき、だ」
「へ?」
「護衛もつけずに一人で出歩くのは感心しないな。表向きは使用人でも、あんたは俺の嫁さんなんだから」
「それ、やっぱり言う?」
「そりゃな」
忘れて欲しかった話題を蒸し返した愛しい騎士は、澄んだ瞳に妖しい気配を孕ませて、懐かしい呼び方で私を呼んだ。
それから街の建物の一角に繋いであった士隊の鞍を着けた黒馬に私を乗せ、自分も素早い動作で乗り上げる。
後ろから私の身体を抱え込んでから、ぱしっと、軽やかな仕草で手綱を打ち鳴らすと、艶のある黒馬を走り出させた。
「っわ」
「はは、少し飛ばすぞっ!」
「ちょっと―――っ」
こちらが戸惑うのにも構わず、ヴァルフェンは楽しげに笑いながら俊足の黒馬で街道を駆けていく。
背に変わらない温もりを感じながら、私は流れゆく景色に出会った当時にも見た景色を重ねていた。
彼に「あんた」と懐かしい呼び方をされたせいだろう。
あれから、多くの事があった。
けれど恐らく、根っこの方は変わっていないのだ。
まるで、異なる役割を持つ毒草や薬草が、ただ植物として生命であるというのと同じくらいには。
出会いは最悪だったのに、相変わらず私を助け、そして走り出す愛しい夫の胸の中、私は目当ての物を入れた籠を、両腕に抱えていた。
◆◆◆
赤い景色、緑の景色、青い景色。
様々な色が流れた後、深い水底に地上の光が差し込む気配がした。
光は揺らめきながら奥底に届き、ゆっくりと意識を浮上させていく。瞼を開ければ、既に白く染まっている朝の景色が、窓越しに見えた。
「……もう、無茶するにもほどがあるんだから」
ぽつりと、小さく文句を漏らす。
隣で眠る大きな塊はどうやら熟睡しているらしく、声に反応する様子は無い。
―――あれから。
ヴァルフェンは私を屋敷に連れ戻した後、自分は一旦仕事に戻り、夜に再び帰宅した。
(勿論、その前に色々際どい事をされてしまったのだが)で、その後どうなったかと言うと……まあ今の惨状を見れば、察しも出来ようという有様である。
おかげで身体がだるい。
全身の倦怠感が凄まじい。
それでも最初から最後まで優しいのは、いつも変わらないのだけど。
肌に幾つもついた印を眺めながら、頬に灯った熱を逃がすみたいに息をつく。
喜々として妻に『お仕置き』をした夫は、逞しい胸板を惜しげもなく晒しながら安らかな寝息を立てている。
散々翻弄されたのもあって、普段は愛しく思う寝顔すら今はちょっと腹が立つが。
確かに、普段から一人では外出しないようにと念を押されていたのに、こっそり抜け出したのはまずかったと思う。
だけど、ちゃんと使用人の格好で偽装していたし、ある程度は自衛も出来るのだから何もここまで『お仕置き』までしなくとも良かったと思うのだ。
まあ……そのお仕置きが、嫌では無かった自分にも問題はあるかもしれないが。
だけどどうしても、昨日手に入れたい物があったのだ。
正直に言えば薬花の一種なのだが、自家栽培は難しく、この時期のしかもたった数日しか手に入れられないとあっては、いてもたってもいられなかった。
その上、今回の自分の目的では無いけれど、薬効にはあまり人に知られたくないものもある。
だから余計に、一人で出かけたかったのだ。
横になったまま彼を見ると、銀色の髪と同じ色をした睫があった。
伏せられた瞼の奥には、空と緑を混ぜた蒼が眠っている。
私はそっと、指先で彼の頬を撫でた。
目覚める前に垣間見た、懐かしい景色に思いを馳せながら。
彼と出会った時と、その前の事……全てを失った日の事を、思いながら。
触れた温もりの幸せを、噛み締めながら。
「……今は、貴方がいるわ」
そして、もう一つ。
小さく愛しい命も増えた。過去に失ったものは大きかったが、今自分が手にできているものも同じく大きくかげないのないものだ。
全てくれたのは、彼だった。
短く呟いた後、彼の頬に触れていた手を離す。
すると―――
「~~~っ!」
なぜか夫の口元から、妙な唸り声が聞こえた。
「ヴァルフェン……? って、あ」
彼は唐突にばっと起き上がると、どうしてか顔を背けたまま、すぐそばにあった自らの剣を取った。
そして、下衣のみという姿のまま、足早に外に出て行こうとする。
「ちょっと、どうしたの。まだ怒ってるの?」
仏頂面で夫婦の寝室から立ち去ろうとしている夫に声をかければ、彼は眉根をぐぐっと寄せた顔で、私に振り返り、引き結んでいた唇を開いた。
「~~~っ違う、ただでさえ朝はマズイってのに、あんたがあんな可愛いことをするからだろう……!」
「かわ……?」
言われた言葉の意味が分からず、首を傾げる。
すると、ヴァルフェンは頭をがしがしと掻きながら、ああ、もう、だとかなんとかまた唸っていた。
一体何なの。起き抜けに。
様子を窺っていると、彼は一度大きな溜息をついてずんずんこちらにやってきたかと思えば、口元をへの字にしたまま、顔をずいっと寄せてきた。
至近距離で感じる妙な迫力に、つい後ろに引いてしまう。
「……今日は一緒に出かけるんだろ……昨日みたいに動けなくなったら、困るだろ」
しかも、そんな事を言ってくる。けれども、イマイチ飲み込めない。
はて、と言葉の意味を思考して。
ゆっくり、脳内で咀嚼する。
動けな……? って。
「あ」
「やっとわかったか。相変わらず俺の妻はニブいな。そこが可愛いんだが」
「そ、そんなのわかるわけないじゃな……っ」
「とにかく、そういうわけだ。発散してくるから、気にせず準備しといてくれ」
勿論、気にしないなんてこと出来るはずも無く、私は朝日眩しい寝台で、真っ白な敷布の上手足をばたばたさせた。
「―――私が昨日出かけていた理由は、これよ」
「これは……」
支度を済ませ、外出をする直前で、私は夫に手製の薬草茶を手渡した。
透明硝子のカップに、ふんわりと広がる一輪の花を見て、夫の蒼い瞳が驚きに見開かれる。
それに微笑みながら、私は夫と同じ色を持つ蒼い花の茶を一口含み、ゆっくり喉に送り込んだ。
優しく、温かく包み込むような味わいと、華やかな香りは、一番飲ませたかった人にとてもよく似ている気がした。
「これをね、貴方に飲んでほしかったの。昨日突然市に出るってきいて、いてもたってもいられなくて、つい買いに出てしまったのよ。貴方の色を持つこの花を、見て欲しくて」
この花の名はペルシカリア。
たった一日だけ蕾をつける、世にも稀なる花である。
薬効が高く、滋養強壮にも効果があるこれは、お茶として使用するとこうして蒼い花を湯の中で開かせるのだ。
けれどこの花は、イゼルマールでは滅多と手に入らない、幻の花とされている。
栽培できる地域が僅かなのだ。
非常に稀少で、かけがえのない蒼。
それは、私にとっての彼と、とてもよく似ている気がした。
「魔女が咲かせた花……か」
「何?」
「いや……既にこの心には、枯れることのない花が咲き続けているなと思ってな。無論、咲かせたのは愛しい妻だが」
カップからこちらに視線を移した蒼い瞳の中に、私はもう一つの花を見た。
あの出会いの時に得た、私にとってかけがえの無い幻の花は、優しく包み込むような、華やかな愛の色を浮かべていて。
花弁の上の湖面には、重なり合う私達の影が映り込んでいた。
―――ちなみに、この後外出ができたかどうかは―――揺らめく花だけが知っている。
終
たった一日だけ蕾をつけるそれは、滅多と人の目に触れる事もないのだと……
「っだとこら!」
「上等だ!やってやらぁっ!」
炎を焼き付けたような夕暮れの街に、突如怒声が響き渡った。
なるべく目立たないようにと、大通りの端を歩いていた足を止め振り返れば、灯りの点き始めた酒場の前で掴み合う男達が見える。
……酔っ払いかしら。
何だ何だと集まり始めた野次馬越しに様子を窺う。
どうやら思った通りらしく、酒で酔った客が店の前で押し問答を繰り広げているようだ。
空気は一触即発、掴みかからんとする勢いに、集まった野次馬の中から「いいぞ、やっちまえ」だの「まあ嫌ね」などの様々な声がした。
平穏な日常の中、時折起るありふれた光景に、内心呆れて溜息を吐く。
幾ら飲みに来てくれても、お店もいい迷惑よね、あれじゃ。
しかしあれはあれで、国が平和な証拠でもあるのだ。かつて失った、故郷とは違って。
私は深めに被ったフードを指先で整えながら、その場から立ち去ろうと足を踏み出した。
けれど、人々のどよめきに、再び立ち止まる。
「あ~あ、勿体ない酔い方してんなぁ。それじゃ酒が泣くぜ?」
チャリチャリ、と。
声の主が動く度に金属の打ち合う音が鳴り響く。
街人が立ち並んだ壁の向こう、囲いになった中心に、一人の男が歩いてきていた。
白地に蒼の差し色が入った騎士服を夕暮れに染めた男は、斜めに流した銀髪を揺らしながら軽い足取りで男達の間に分け入っていく。
まるで飲み友達に声をかけるような気安い仕草に、怒気を纏っていた男達も拍子抜けしたみたいにぽかんとしていた。
ついでに言えば、彼の服装も気を削いだ原因の一つなのだろう。
「……んだよ。士隊のあんちゃんかよ。俺らは別に……」
「まあまあ、通りがかったら、たまたま見かけただけだって。まだ手は出してないんだ。咎めはしないさ。揉めた理由に、興味はあるがな」
国と街の警備を司る騎士を前に、男達は少し萎縮したような面持ちで、ぶつぶつと文句がちに喧嘩の原因を語っていた。
それを笑顔で頷きながら聞いている騎士の横顔は、穏やかだがどこか有無を言わせない圧があった。
気付く人は少ないが、表情には出ていなくとも、他者を従わせることのできる気迫を身に纏っている。確固たる経験故の威圧感が、彼にはあった。
荒事になりそうだったのが収まりを見せたことで、人だかりも一人、また一人と離れていく。
私はその様子を遠目にじっと見つめてから、帰宅後の予定について変更を加えていた。
正しくは、『彼』に煎れてあげる薬草茶についてのレシピ変更なのだが。
今のうちに……離れた方が良いわよね。
まさか出くわすとは思わなかったが、これならばれずに済むかも知れない、とそっとその場から足を動かす。
実はこっそり屋敷を出てきた手前、こちらから声をかけるなんて事は出来なかったのだ。
ある意味、あの男達に感謝である。
私はほっと胸を撫で下ろしながら、けれど確実にその場から逃げださんと早足で歩き出した。
しかし、人生そう上手くはいかないらしい。
「お・ね・え・さ・ん! 一人?」
「っな……」
目の前に、見知らぬ男が立ちはだかる。
茶色く長い髪を無造作に束ね、薄笑いを浮かべたいかにも軽薄そうな、無駄にひらひらした華美な衣装の男だった。フリルシャツに虹色の腰巻きはどこの吟遊詩人か舞台役者か、と言いたくなるような出で立ちだ。
人は見た目で判断するべきではないと思っても、これでは流石に無理がある。
「急いでるの。どいて」
フードを被ったまま、なるべく低めの声で言う。
けれど男は少し屈んで顔を覗き込んできた。
「あー、やっぱり! 綺麗な子だろうなって思ったんだ! 当たりだなぁ!」
……人の話を聞け。
囃し立てるように言う男に一瞬苛ついたが、こういう輩は無視するに限る。
そう判断して、素知らぬふりでさっと横を通り過ぎようとした。
が、ぐんと腕が引っ張られる感覚がして、その場でたたらを踏んでしまう。
「ちょっと……!」
右腕に掛けていた籠を掴まれたのだと気付いた時には、男の顔が間近にあった。
「ね、これからどっかいかない? 君、使用人なんでしょう? 良ければ俺の所で雇ってあげるからさ」
舐めるような視線で人の身体を上から下まで見た男の顔がいやらしく歪む。どうやら、やたら飾り立てた衣装はどこぞの貴族の息子か何からしい。
自分の言葉は聞いて当たり前だと言わんばかりに、男は強引に籠ごと私を引っ張り寄せようとした。
「馬鹿言わないで」
正直、張り倒してやろうかと思ったが、いかんせん今の私の格好は使用人服である。
屋敷のお遣いにでも見えたら良いと思ってこの格好で来たが、逆に『こういう立場』の人間の目を引いてしまったらしい。
まあ、使用人服を着ている上フードを被っているので、悪目立ちしたのかもしれないが。
だって仕方ないのだ。一応、お忍びでの外出なのだから。
「少し位いいじゃないか。どうせ戻ったところで、面倒な仕事を言いつけられるだけだろう?」
男は私を使用人だと思っているせいか、上から目線で誘いをかけてくる。
見た目がそうなので仕方ないのだが、嫌がっている相手に無理強いするあたり、よくいる貴族のぼんぼんなのだろう。
面倒くさいな、と思いつつ、溜息交じりに男をすっと見据えた。
途端、男が掴んでいた手が緩む。
「……お生憎様。私はね、『旦那様』以外の男に興味は無いのよ」
冷たく言い放ってからさっと男から距離を取り駆け出そうとした。
近くに彼がいる以上、面倒事にかかわりたくは無い。というか、下手をするとここに居ることがばれてしまう。それだけは絶対に避けたい。
「っ待て! この使用人風情がっ!!」
背に、男の声がかかった。
勿論無視してそのまま行ってしまうつもりだったが、聞こえた『名前』に、ピキリ、と身体が固まった。
「ヴァルフェン将軍っ!」
焦ったような驚いたような、若い男性の声がした。
と、思ったら、次の瞬間悲鳴が聞こえた。
「ひいっ!?」
「……なあ、うちの者に何の用だ。若造」
ばっと振り返ると、銀色の剣を構えた騎士が蒼く鋭い眼光で、先ほどの軽薄な男に詰め寄っているのが見えた。
結構距離があった筈なのに、いつの間にか直ぐ傍に居て絶句する。駆ける音すらさせないなど、最早人間業では無いだろう。
やっぱり、ばれた……。
背中に、たらりと嫌な汗を掻いた気がした。
「どこの家の者に、手を出そうとしてるのかって、聞いてるんだが?」
「う、あ」
銀色の刃が、冷たく硬質な光を放つ。
銀髪の騎士、ヴァルフェンは先ほどの穏やかな表情とは打って変わって、凍てつくような静かな怒気を漂わせ、男の首元に剣を突きつけている。男は既に腰が抜けているのか、地面にへたり込んでいた。
たぶん彼の気迫にあてられたせいだろう。戦の場数を踏んでいる人間の気とは、そういうものだ。
しかし幾ら何でも、やり過ぎである。
「ちょっと絡まれただけ。大袈裟よ」
「それで十分だと思うが」
内心溜息を吐きつつ、観念して助け船を出せば、彼は気配を緩め剣を収めながら、私に視線を寄越した。
なんていうか、最初から気付いてたって顔ね。それ。
蒼い瞳が、なぜ一人で出歩いているのか、と物語っている。
元より丸腰の相手に手を掛けるような人間では無い。ただ、妻に手を出そうとする輩をそのまま見逃すようなお優しい男でもないだけで。
「将軍……! 急に飛び出して一体どうし……あ、エレニーさ、じゃない、エレニー嬢。街においでだったんですか」
「ご無沙汰しておりますロストランザ様。旦那様がいつもお世話になっております」
「い、いえ……!」
後から掛けてきた青年騎士、アルフォンス=ロストランザ様に一礼していると、地面にへたり込んでいた男が「将軍っ!?」と声を上げていた。どうやらレグナガルド家の事を知っているらしい。
確かに爵位は低いが、何千という騎士の所属する士隊組織でも数少ない地位についているため、当然と言えば当然か。
「アル、俺は彼女を連れて一度屋敷に戻る。お前は先に行っててくれ」
「っは!」
「し、将軍だって? もしかして……レグナガルド家っ?」
呆然としている男を残し、ヴァルフェンは部下にそれだけ告げて、私の腕を引きその場を後にした。
◆◆◆
「―――で、何でまた、一人で街になんていたんだ?」
「ちょっと買いたい物があったのよ」
暫し歩いてから投げられた問いに、平然を装いつつ答えた。すると、ヴァルフェンは特に気にした風でもなく、ふうん、と一言告げる。
少し位は怒られると思っていたので、正直拍子抜けした。
そして、急に口端をくっと上げて、何か面白い事でもあったみたいに喉奥で笑いだす。
「ちょっと、何よ」
「べつに。ただ、あれは効いたなと思ってな」
「何が」
「俺以外の男に興味は無いってやつ。いやあ、大した殺し文句だと思ってさ」
「っな……!」
聞いてたのね!
揶揄う言い方に面食らったのと、聞かれていたのかという驚きとで、言葉に詰まる。そんな私を見て、ヴァルフェンの笑みがより深くなった。
いつから見ていたのかと思っていたけど、やっぱり最初から見ていたらしい。
喧嘩の仲裁をしていた筈なのに、どこまで目が良いのか。こちらは無断で一人外出していることを咎められるとばかり思っていたのに、歯がゆいったら無かった。
「この位の意地悪は許されるだろう? なあ、レグナガルド夫人」
「ちょっとっ、誰かに聞かれたらどうするのよ!」
嬉しそうに、楽しげに言う騎士に文句を付けると、彼は大きな笑い声を上げ、蒼く澄んだ視線をこちらに流した。爽やかな色味には不似合いな艶を含んだ光に、思わずたじろぐ。
「妻を妻だと呼んで、何がいけないんだ? 本当は宣伝して歩きたいくらいなんだからな」
「馬鹿……」
呆れながら、銀髪の騎士を半目で睨めば、こちらの態度など気にしていないように彼の表情が破顔していた。どうやら、先ほどの私の台詞が余程嬉しかったらしい。
……まあ、おかげで怒られずに済んだんだけど。
「それはさておき、だ」
「へ?」
「護衛もつけずに一人で出歩くのは感心しないな。表向きは使用人でも、あんたは俺の嫁さんなんだから」
「それ、やっぱり言う?」
「そりゃな」
忘れて欲しかった話題を蒸し返した愛しい騎士は、澄んだ瞳に妖しい気配を孕ませて、懐かしい呼び方で私を呼んだ。
それから街の建物の一角に繋いであった士隊の鞍を着けた黒馬に私を乗せ、自分も素早い動作で乗り上げる。
後ろから私の身体を抱え込んでから、ぱしっと、軽やかな仕草で手綱を打ち鳴らすと、艶のある黒馬を走り出させた。
「っわ」
「はは、少し飛ばすぞっ!」
「ちょっと―――っ」
こちらが戸惑うのにも構わず、ヴァルフェンは楽しげに笑いながら俊足の黒馬で街道を駆けていく。
背に変わらない温もりを感じながら、私は流れゆく景色に出会った当時にも見た景色を重ねていた。
彼に「あんた」と懐かしい呼び方をされたせいだろう。
あれから、多くの事があった。
けれど恐らく、根っこの方は変わっていないのだ。
まるで、異なる役割を持つ毒草や薬草が、ただ植物として生命であるというのと同じくらいには。
出会いは最悪だったのに、相変わらず私を助け、そして走り出す愛しい夫の胸の中、私は目当ての物を入れた籠を、両腕に抱えていた。
◆◆◆
赤い景色、緑の景色、青い景色。
様々な色が流れた後、深い水底に地上の光が差し込む気配がした。
光は揺らめきながら奥底に届き、ゆっくりと意識を浮上させていく。瞼を開ければ、既に白く染まっている朝の景色が、窓越しに見えた。
「……もう、無茶するにもほどがあるんだから」
ぽつりと、小さく文句を漏らす。
隣で眠る大きな塊はどうやら熟睡しているらしく、声に反応する様子は無い。
―――あれから。
ヴァルフェンは私を屋敷に連れ戻した後、自分は一旦仕事に戻り、夜に再び帰宅した。
(勿論、その前に色々際どい事をされてしまったのだが)で、その後どうなったかと言うと……まあ今の惨状を見れば、察しも出来ようという有様である。
おかげで身体がだるい。
全身の倦怠感が凄まじい。
それでも最初から最後まで優しいのは、いつも変わらないのだけど。
肌に幾つもついた印を眺めながら、頬に灯った熱を逃がすみたいに息をつく。
喜々として妻に『お仕置き』をした夫は、逞しい胸板を惜しげもなく晒しながら安らかな寝息を立てている。
散々翻弄されたのもあって、普段は愛しく思う寝顔すら今はちょっと腹が立つが。
確かに、普段から一人では外出しないようにと念を押されていたのに、こっそり抜け出したのはまずかったと思う。
だけど、ちゃんと使用人の格好で偽装していたし、ある程度は自衛も出来るのだから何もここまで『お仕置き』までしなくとも良かったと思うのだ。
まあ……そのお仕置きが、嫌では無かった自分にも問題はあるかもしれないが。
だけどどうしても、昨日手に入れたい物があったのだ。
正直に言えば薬花の一種なのだが、自家栽培は難しく、この時期のしかもたった数日しか手に入れられないとあっては、いてもたってもいられなかった。
その上、今回の自分の目的では無いけれど、薬効にはあまり人に知られたくないものもある。
だから余計に、一人で出かけたかったのだ。
横になったまま彼を見ると、銀色の髪と同じ色をした睫があった。
伏せられた瞼の奥には、空と緑を混ぜた蒼が眠っている。
私はそっと、指先で彼の頬を撫でた。
目覚める前に垣間見た、懐かしい景色に思いを馳せながら。
彼と出会った時と、その前の事……全てを失った日の事を、思いながら。
触れた温もりの幸せを、噛み締めながら。
「……今は、貴方がいるわ」
そして、もう一つ。
小さく愛しい命も増えた。過去に失ったものは大きかったが、今自分が手にできているものも同じく大きくかげないのないものだ。
全てくれたのは、彼だった。
短く呟いた後、彼の頬に触れていた手を離す。
すると―――
「~~~っ!」
なぜか夫の口元から、妙な唸り声が聞こえた。
「ヴァルフェン……? って、あ」
彼は唐突にばっと起き上がると、どうしてか顔を背けたまま、すぐそばにあった自らの剣を取った。
そして、下衣のみという姿のまま、足早に外に出て行こうとする。
「ちょっと、どうしたの。まだ怒ってるの?」
仏頂面で夫婦の寝室から立ち去ろうとしている夫に声をかければ、彼は眉根をぐぐっと寄せた顔で、私に振り返り、引き結んでいた唇を開いた。
「~~~っ違う、ただでさえ朝はマズイってのに、あんたがあんな可愛いことをするからだろう……!」
「かわ……?」
言われた言葉の意味が分からず、首を傾げる。
すると、ヴァルフェンは頭をがしがしと掻きながら、ああ、もう、だとかなんとかまた唸っていた。
一体何なの。起き抜けに。
様子を窺っていると、彼は一度大きな溜息をついてずんずんこちらにやってきたかと思えば、口元をへの字にしたまま、顔をずいっと寄せてきた。
至近距離で感じる妙な迫力に、つい後ろに引いてしまう。
「……今日は一緒に出かけるんだろ……昨日みたいに動けなくなったら、困るだろ」
しかも、そんな事を言ってくる。けれども、イマイチ飲み込めない。
はて、と言葉の意味を思考して。
ゆっくり、脳内で咀嚼する。
動けな……? って。
「あ」
「やっとわかったか。相変わらず俺の妻はニブいな。そこが可愛いんだが」
「そ、そんなのわかるわけないじゃな……っ」
「とにかく、そういうわけだ。発散してくるから、気にせず準備しといてくれ」
勿論、気にしないなんてこと出来るはずも無く、私は朝日眩しい寝台で、真っ白な敷布の上手足をばたばたさせた。
「―――私が昨日出かけていた理由は、これよ」
「これは……」
支度を済ませ、外出をする直前で、私は夫に手製の薬草茶を手渡した。
透明硝子のカップに、ふんわりと広がる一輪の花を見て、夫の蒼い瞳が驚きに見開かれる。
それに微笑みながら、私は夫と同じ色を持つ蒼い花の茶を一口含み、ゆっくり喉に送り込んだ。
優しく、温かく包み込むような味わいと、華やかな香りは、一番飲ませたかった人にとてもよく似ている気がした。
「これをね、貴方に飲んでほしかったの。昨日突然市に出るってきいて、いてもたってもいられなくて、つい買いに出てしまったのよ。貴方の色を持つこの花を、見て欲しくて」
この花の名はペルシカリア。
たった一日だけ蕾をつける、世にも稀なる花である。
薬効が高く、滋養強壮にも効果があるこれは、お茶として使用するとこうして蒼い花を湯の中で開かせるのだ。
けれどこの花は、イゼルマールでは滅多と手に入らない、幻の花とされている。
栽培できる地域が僅かなのだ。
非常に稀少で、かけがえのない蒼。
それは、私にとっての彼と、とてもよく似ている気がした。
「魔女が咲かせた花……か」
「何?」
「いや……既にこの心には、枯れることのない花が咲き続けているなと思ってな。無論、咲かせたのは愛しい妻だが」
カップからこちらに視線を移した蒼い瞳の中に、私はもう一つの花を見た。
あの出会いの時に得た、私にとってかけがえの無い幻の花は、優しく包み込むような、華やかな愛の色を浮かべていて。
花弁の上の湖面には、重なり合う私達の影が映り込んでいた。
―――ちなみに、この後外出ができたかどうかは―――揺らめく花だけが知っている。
終
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