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番外編
神の子 2
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「お父さん、お母さん、早く早く!」
人がたくさん行き交う市場に少年が走っていく。さらさらの赤い髪を風になびかせる、五歳ほどの年齢の彼は人にぶつからないようにするすると道を走っていった。
目はキラキラした金色。
そこから太陽のような光の軌跡が見えるような、誰もの目を引く美しい少年だ。
あどけなさと年相応のみなぎる力が溢れているようで、見慣れない少年が店の前を通り過ぎるたびに、店主も客も全員視線を奪われる。
「転ばないようにね」
そのあとをふわふわの白い髪の女性と赤髪の男が追っていく。
その母親らしい美しい彼女に目を止めた数人が、どこかで見たことがあるような……と首を傾げた。
「おいしーい」
お小遣いで買った、じゃがいもを蒸して塩をふったものをはふはふと食べる少年が、自分の肩を見る。
「食べる?」
ーーキュッ
そこには大きなダンゴムシの精霊が乗っていた。
もっもっと二人で仲良く階段に座ってじゃがいもを食べていると、そこにひとりの老人が通りかかった。
「おや、……君、巫子見習いかい」
「巫子?」
「その子は精霊だろう」
老人が肩を指す。きょとんとした顔の少年はダンゴムシと顔を見合わせた。
「友だちだよ、生まれた時から一緒なんだ」
ーーキュー
ダンゴムシが同意するようにうなずく。
「そうかそうか」
その微笑ましいようすに老人は目を細めた。
「……昔、君と同じ精霊の愛し子がいてなぁ、大聖女として我々を救ってくださったんだ。私も子どもの頃に会ったことがあるんだが、懐かしい」
ーーキュッキュッ
嬉しそうに精霊が飛び上がる。
「いいものを見せてもらったよ、ありがとう」
「あ、おじいさん」
去りかけていた彼を少年が呼び止める。
「転ばないように気をつけて」
思わず見惚れるような唇が弧を描いて、金の目が輝く。
すべてを見透かすようなその眼にどこかぞっとして、足早に老人は歩き出した。
「ーーあぶねぇぞ!」
そこで通りに急いだ様子の馬車が走ってきた。
すんでで避けたがバランスを崩す。そこでふわりと風が吹いて倒れかけた彼の身体を目に見えない何かが支えた。
はっとして振り返ると、肩にダンゴムシの精霊を乗せた少年は座ったまま膝に頬杖をついて老人を見ていた。
「こんなところにいたの?」
そこで両親らしい二人が少年の前に立つ。
麗しい男女なのはわかるが、なぜか顔がよく見えない。
「ダンゴムシくんを困らせてない?」
ーーキュー
「もちろん! 一緒に買い食いしたよ。ね」
「また勝手に食べて」
「まぁまぁ、せっかく来たのだから色々楽しみましょ」
赤い髪の父親が取りなす。
あ、と思う間もなく手を繋いだ家族の姿が雑踏に消える。
どうしてだか立ち去り難く、老人はその場に立ち尽くしてじっと家族が消えた方向を見つめ続けた。
人がたくさん行き交う市場に少年が走っていく。さらさらの赤い髪を風になびかせる、五歳ほどの年齢の彼は人にぶつからないようにするすると道を走っていった。
目はキラキラした金色。
そこから太陽のような光の軌跡が見えるような、誰もの目を引く美しい少年だ。
あどけなさと年相応のみなぎる力が溢れているようで、見慣れない少年が店の前を通り過ぎるたびに、店主も客も全員視線を奪われる。
「転ばないようにね」
そのあとをふわふわの白い髪の女性と赤髪の男が追っていく。
その母親らしい美しい彼女に目を止めた数人が、どこかで見たことがあるような……と首を傾げた。
「おいしーい」
お小遣いで買った、じゃがいもを蒸して塩をふったものをはふはふと食べる少年が、自分の肩を見る。
「食べる?」
ーーキュッ
そこには大きなダンゴムシの精霊が乗っていた。
もっもっと二人で仲良く階段に座ってじゃがいもを食べていると、そこにひとりの老人が通りかかった。
「おや、……君、巫子見習いかい」
「巫子?」
「その子は精霊だろう」
老人が肩を指す。きょとんとした顔の少年はダンゴムシと顔を見合わせた。
「友だちだよ、生まれた時から一緒なんだ」
ーーキュー
ダンゴムシが同意するようにうなずく。
「そうかそうか」
その微笑ましいようすに老人は目を細めた。
「……昔、君と同じ精霊の愛し子がいてなぁ、大聖女として我々を救ってくださったんだ。私も子どもの頃に会ったことがあるんだが、懐かしい」
ーーキュッキュッ
嬉しそうに精霊が飛び上がる。
「いいものを見せてもらったよ、ありがとう」
「あ、おじいさん」
去りかけていた彼を少年が呼び止める。
「転ばないように気をつけて」
思わず見惚れるような唇が弧を描いて、金の目が輝く。
すべてを見透かすようなその眼にどこかぞっとして、足早に老人は歩き出した。
「ーーあぶねぇぞ!」
そこで通りに急いだ様子の馬車が走ってきた。
すんでで避けたがバランスを崩す。そこでふわりと風が吹いて倒れかけた彼の身体を目に見えない何かが支えた。
はっとして振り返ると、肩にダンゴムシの精霊を乗せた少年は座ったまま膝に頬杖をついて老人を見ていた。
「こんなところにいたの?」
そこで両親らしい二人が少年の前に立つ。
麗しい男女なのはわかるが、なぜか顔がよく見えない。
「ダンゴムシくんを困らせてない?」
ーーキュー
「もちろん! 一緒に買い食いしたよ。ね」
「また勝手に食べて」
「まぁまぁ、せっかく来たのだから色々楽しみましょ」
赤い髪の父親が取りなす。
あ、と思う間もなく手を繋いだ家族の姿が雑踏に消える。
どうしてだか立ち去り難く、老人はその場に立ち尽くしてじっと家族が消えた方向を見つめ続けた。
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