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番外編

    巫子の日常 3

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 結局、建設的な意見は出なかった。
 ひとまず十八歳までは『そういう』イベントは起こらないはず……なので、焦らず放っておいても、という話をニナとして昼食を兼ねた試食会はお開きとなった。

 ニナはまだ見習いの身でありながらすでに依頼も入って忙しくしている。一方のペコラも肥料作りのお手伝いや、飲み水を綺麗にしたりとぽつぽつ仕事が入って来ていた。
 今日の感触だと、人々の食事方面でもまだできることがありそうだ。

(キノコの安定供給とか……味噌や醤油も料理に使えたらいいよね……)

「……」
 そんなことを考えながら、ペコラは神殿の図書室で借りた本を抱えつつ隣をうかがった。
 横を歩くのはもちろん深紅色の髪の騎士。

 ペコラの依頼その全てにリベリオは当然の顔をしてついてくる。彼女の専属護衛騎士だから当然といえば当然……なのだが、いつも思う。
 邪神はヒマなのだろうか。

「それ、なんの本です?」
「プ、プライベートなので、秘密です」
 リベリオに聞かれて、題名が見えないよう布で覆った本を抱きしめた。

 
 ――愛し子は、黙って愛されていればいいんです。


(うぅ……)
 先ほどの言葉が蘇って慌てて首を振る。つい茶化してしまったが、推しからのささやきの一撃は相当な威力があった。

 邪神に愛される、とはどういうことなのかまだよくわからない。

 ペコラ自身は世界の滅亡などこれっぽっちも望んでいないので、改めて何故自分がここまでリベリオに構われているのか分からなかった。

(まぁ、ゲームのキャラと言えばそれまでだけど……いや! そんな考えはよくない!)

 前世で遊んだゲームとはいえ、今は紛れもなく現実だ。頬をぺちぺちと叩いて気合を入れ直す。

 その数秒後――――あるミラクルが起きた。






「リベリオ、さん」
 ペコラは胸に本を抱えつつ身を縮こまらせた。
「な、なんでこんなことに」
「……俺もよく……」
 リベリオとペコラ、二人で狭い用具入れの中に閉じ込められて密着していた。

 事の起こりは数分前のこと。
 廊下に落ちていた箒に気づかず蹴つまずいたペコラをとっさに抱えたリベリオとともに、偶然開いていた空っぽの新品用具入れの中に入り、不幸にも扉と鍵が閉まったのだ。

 こんなミラクルがあっていいのか。

(私の馬鹿ぁぁぁぁ!)
 一人入るのがやっとな空間に二人。わずかな隙間しかないので身動ぎも難しい。
 特に長身のリベリオは窮屈そうに身を屈めてペコラの顔の横に肘をつけていた。

「……開かないですね」
「邪神の力でも⁉︎」
「今は人間型なので。邪神だからってなんでもできると思うのは人間のエゴでは」
「……すみません」

 なぜか諭された。
 リベリオが後ろに手を伸ばしてノブを回すが変化はない。どうやら扉が閉まった衝撃で鍵が壊れたらしい。

 閉じ込められた。

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