拝み屋少年(年下)から逃げる手段、知りませんか!

イシクロ

文字の大きさ
上 下
5 / 30

3,トウシさんの家(2)

しおりを挟む
『必要冒険者ランク:B
 カテゴリー:調査
 場所:アルゴリアと思われる
 内容:行方不明者の数が増えている。原因を調査し報告せよ』
 
 依頼書の内容を見ただけでは、何故アルゴリアという名前が出て来ているのかてんで分からない。
 しかし、これはいつものことである。
 というのは、依頼書に書き込むことができる文字数が非常に少ないことが原因だ。
 紙が勿体ないというのも一つの理由だけど、冒険者ギルドは同じ紙を何枚も準備する必要があるのだから仕方ない。
 最低でも依頼ボード、各窓口受付の担当、依頼を受けた冒険者に渡す分が必要なのだ。
 冒険者に渡す分が何枚まで膨らむか分からないし、渡すたびに書き写しているという話をパウルから聞いたことがある。
 
 つまり、何が言いたいのかというと「依頼の内容を説明するために、パウル達が常駐している」ってわけだ。
 そんなわけで、彼へ質問を投げかける。
 
「パウルさん、人さらいって今にはじまった話じゃないですよね?」
「その通りです。衛兵達が治安維持にあたっておりますが……」
「街中での行方不明者が増えているのですか?」
「いえ、郊外に出た者の数が増えています」
「それがアルゴリアと繋がるんですか?」
「はい。再度調査をすることをお勧めいたしますが、ギルドが掴んだ情報によりますと、アルゴリアへ連れ去られた者が増えていると噂されています」

 ふうむ。
 アルゴリアはかつて栄えた街の跡地だ。現在は廃墟になっていて、人が暮らしていくには難しい。
 何しろ、過去に作られた広大な地下にモンスターが住み着いていて危険度が高いんだよね。
 冒険者にとってはお世話になる場所で、彼らが夜を明かす為に地上部分へ簡易的な小屋が準備されていたりする。
 
「んー。野盗がアルゴリアに巣くうとは考え辛いですね」

 冒険者は野盗より屈強だ。それにモンスターもいるわけだし……野盗がわざわざアルゴリア遺跡に居を構えるメリットがない。

「そうですね。ひょっとすると(野盗が)深層にいるのかもしれませんが……冒険者の方々でも進むのが困難な場所に野盗など考えられません」

 ん、待てよ。

「ねーねー。難しいお話はよく分からないぞー」
「あ、すまんすまん」
「アルゴリアってところに行けばいいんでしょー。じゃあ、すぐに向かおうよー」
「ちょっと待ってくれ。今やっと考えが整理できたんだよ」
「えー」
「この調査依頼。相当な危険が伴うかもしれない」
「別にいいよー。バルトロとわたし……ついでにイルゼもいるもん」

 あ……。
 すっかりいつもの冒険者モードで物事を考えていたよ。
 地形を易々と変えてしまうプリシラとイルゼがいて、強いモンスターが出るんじゃないかなんて危険性を懸念する必要なんてどこにもなかった。
 
 でも、一応聞いておくか。
 
「パウルさん。今回で調査に向かう冒険者パーティは何組目ですか?」
「さすがバルトロさん、鋭いですね。あなた方で十組目です」

 冒険者ギルドの職員は聞かれなければ何も語らない。
 聞いても教えてくれないこともあるけどね。

「帰った人達は?」
「五組です。当初どこに原因があるか探って未発見に終わったパーティ。アルゴリアに原因があると突き止めたパーティ。そしてアルゴリアの浅い層だけを探索したパーティです」
「無難にこなした人達と自分達の実力以上に深い階層に入らなかった人たちが戻ったってわけかな」
「はい。冒険者とは自らの実力を正確に把握する能力が求められますから。バルトロさん、あなたはそういう意味で一流と私は思っています」
「ありがとう。聞きたいことはだいたい聞けたよ。行ってくる」
「ご武運を」

 パウルは深々と礼を行う。
 右手をあげて彼に応じ、俺とプリシラは冒険者ギルドを後にするのだった。
 
 ◆◆◆

 冒険者ギルドを出た俺は、冒険者向けの服屋や武器屋を巡りアルゴリアと行方不明者のことについて店主や店に来ていた冒険者達に聞いて回った。
 ダメ元で聞いてみたけど、いくつかの情報を得ることができる。
 最も、プリシラ用の少しお高めのローブを購入したから……情報料としては高くついた。
 でも、彼女が喜んでいたから良しとしようじゃないか。
 
 この後、露天を回って噂話の収集にあたるが、情報が錯綜していて却って混乱してしまう。

「次はどこにいくのー?」

 青と赤のピアスを購入しご機嫌なプリシラが俺の服を引っ張る。
 ピアスは鳥の頭をモチーフとしていて、首元に当たる部分に赤色の綺麗な石が取り付けられていた。
 青色のピアスもデザインが同じで、石の色だけが違う。
 
「そうだなあ。そろそろ酒場に行くか」

 陰ってきた日へ目を細め呟く。それと同時に腹がぐううと鳴った。

 そんなこんなで、いつもの行きつけの酒場でも情報収集を行う。
 経験上、ここでいろいろ聞いて回るのが一番情報が集まるのだ。
 グインはいるかなあと少し期待していたんだけど、残念ながら会うことはできなかった。
 でも、そのうち彼は俺の自宅を訪ねて来てくれるはずだ。
 俺の畑が短期間で完成したことを驚く彼の顔を見る時まで、会うのを楽しみに待っておくとしよう。

 料理を注文し、酒場のマスターに話を聞いてみると予想通りまとまった情報を聞くことができた。
 マスターにすかさずお酒を注文しようとしたプリシラへ「めっ」してリンゴジュースを頼む。
 俺? 俺はもちろんエールを飲むよ?
 だって、一日中歩きまわったんだもの。汗をかいたらエールだろ。
 
「バルトロだけずるーい」
「我慢してくれ。魔族の社会ではどうか分からないけど、ここでは君くらいの年齢だとお酒は出せないんだよ」
「ぶー」

 膨れているプリシラだったけど、料理が到着すると目を輝かせる。
 「おいしそー」と口元から涎が出そうになって、スプーンとフォークを握りしめ俺が料理を取り分けるのを待っていた。
 
「ほら」
「やったー」

 ちょうどその時、リンゴジュースとエールも運ばれてきてプリシラが料理より先にジュースに口をつける。
 
「おいしー」
「そいつはよかった」
「うんー」

 にへえと口元を緩めながら、プリシラがシチューにパンをつけてほうばった。
 
「これもおいしー」
「そうか」
「これもー」
「そうか」
「これもこれもー」
「そうか」

 なんて会話を交わしていたら、あっという間にお腹いっぱいになる。

「よっし、じゃあ。イルゼとの合流場所に行くか」
「うんー」

 イルゼとは宿で落ち合う約束をしていたんだ。
 依頼のことも彼女に伝えないとな。
 
 ◆◆◆
 
「え……ここに泊るの……?」
「いっぱいお部屋がありそうだけど、イルゼはどこにいるのかな」

 あんぐりと口を開けたまま上を見上げる。
 この街にこんな宿があったなんて驚いた。
 建物は六階まであり、赤レンガの洒落た外装にアーチがふんだんに使われた窓。
 窓にはちゃんとガラスがハマっていて高級感をアピールしている。
 一階部分の窓はステンドグラスになっていて、宿の前を通る人の目を楽しませていることだろう。
 
 一言で言うと、この宿は超高級店だ。
 
 こんなところに宿泊するととんでもないお金を取られてしまうぞ。
 払えないことはないだろうけど、生活費が一気に吹き飛ぶ。断固拒否だ。
 
 ある種の決意をもって、宿の扉をくぐる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『忌み地・元霧原村の怪』

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は和也(語り部)となります》

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

リューズ

宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。

限界集落

宮田歩
ホラー
下山中、標識を見誤り遭難しかけた芳雄は小さな集落へたどり着く。そこは平家落人の末裔が暮らす隠れ里だと知る。その後芳雄に待ち受ける壮絶な運命とは——。

岡●県にある●●村の●●に関する話

ちょこち。
ホラー
岡●県の、とある村について少しでも情報や、知ってる事がある方が居れば、何卒、教えて頂けると幸いです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

歩きスマホ

宮田歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

処理中です...