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2,トウシさんの家(1)
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それはいかにもな、お化け屋敷だった。
壊れた家が何軒か並んでいる通り。きれいなのあれば、もう壊れる寸前っていうのもあって、一行は並んで右から3番目の家の前で立ち止まった。
「ここ?」
「うん。『トウシサンの家』」
昔住んでいた人の名前だろうか。いざ入口のところにいくと、さすがお化け屋敷と呼ばれるだけはあって、暗くて冷たい、不気味な雰囲気がある。
僕はごくりと息をのんだ。
タツ以外の同級生2人も噂のお化け屋敷を前に多かれ少なかれ不安そうで、そわそわと互いの顔を見合わせている。いや、落ち着かない理由がもうひとつ。
みんなと距離を置いて、まったく平気そうな顔の一杭がいるせいだ。
彼は何故か肩に長い布バッグを背負っていた。自転車で通り過ぎる高校生がたまに背負っているのを見る、バッドの入った鞄。
見ている前で彼はふわ、と欠伸をした後に2階を見た。
視線に釣られて全員が見上げるが……特に何もない。普通の、ガラスの割れた、昼だというのに真っ暗な2階があるだけ。
「よし、行こうぜ」
一番に動いたのはやはりタツだった。空気を読まない、というよりは前来たことの余裕と豪胆さゆえだろう。
小学生にしてはガタイのいい体で、彼はほとんど壊れて使い物にならない鉄柵を押し広げて敷地に入った。庭には植えられた木や植物が無法地帯とばかりに生い茂っていて、特に壁にしがみつく蔦は建物の屋根にまで手を伸ばしていた。
タツは鍵の壊されたドアの取っ手を持って、引く。
ギィィィィィィ――――、とさび付いた音を立てて、扉があいた。
「靴はどうする?」
「脱げないよ、泥だらけで汚い」
「おじゃましまーっす」
いざ始まれば、冒険のよう。僕もほんのちょっとわくわくして、探検隊の後ろについて入ろうとしたところで。
「ねえ」
「うぉはい!」
後ろからいきなり声を掛けられて、僕は飛び上がった。前ばかり見て全くの油断していて、慌てて後ろを振り向くと、そこには僕よりも少し背の低い少年が居た。一杭だ。
「な、なに?」
どきどきする心臓を押さえて僕は聞いた。
「好きな食べ物は」
「……」
「……」
「……」
「言えよ」
「あ、僕のこと?」
「他に何がある」
不機嫌そうに睨まれた。理不尽だ。
でもさっきのはどう考えても疑問文じゃなかったから、その後に何か続くと思ったんだってば。
突発的な質問に、僕はほんの少し考えて答えた。
「……ごぼうを、ベーコンで巻いたやつ」
「ごぼう?」
「うん」
母さんがよく作ってくれたもの。ご飯ができたよと声をかけられてリビングに下りれば、当たり前のようにテーブルに料理が並んでいて、母さんは台所でまだご飯をよそってる途中で。その光景を思い出すと、まだ胸が苦しい。
でもそこで、友達と遊んでくる、と言った時のじいちゃんの嬉しそうな顔が頭を過ぎった。
「ふーん」
壱夏様は特に感想はないようだ。それだけ言って、中に入っていった。
何のための質問だったのか、わずかに困惑する。
「おーい、来いよー」
「あ、うん」
タツに呼ばれて、僕も家の中に足を踏み入れた。
中はひんやりとしていて、割れた窓から部屋の中に陽が入ってきていた。
玄関から入ってすぐに2階に繋がる、朽ち果てかけた階段があって、奧に向かって廊下が延びている。左右には部屋につながるドアが並び、一番奥には染みのついた壁がみえた。
まとまりながら、僕らはまず一番手前の部屋にはいった。
「うわー汚えなぁ」
じゅうたんの敷かれた部屋には紙やゴミやガラスが散乱してて、それで足の踏み場もないくらい。
多分、外から割られたのだと思う。散らばるガラスは、外からの光を反射して鋭く光っていた。
前の住人が置いて行ったのか、小さな箱や置物や、人形が残っていた。その一つ一つに悲鳴をあげながら、けっこう広い屋敷を探検した。
洋室、和室、応接間っぽいところ……調度品に違いはあるけれど、どこも散らかり具合は同じだ。壁に『参上!』なんてスプレーの落書きもあった。
台所はさらにごちゃごちゃしてたから、見ただけで通り過ぎる。
1階を全部見回って、廊下にみんなで出た。
「こんなもんかー」
拍子抜けするほど、ここはなんてことはない普通の廃屋だった。
壊れた家が何軒か並んでいる通り。きれいなのあれば、もう壊れる寸前っていうのもあって、一行は並んで右から3番目の家の前で立ち止まった。
「ここ?」
「うん。『トウシサンの家』」
昔住んでいた人の名前だろうか。いざ入口のところにいくと、さすがお化け屋敷と呼ばれるだけはあって、暗くて冷たい、不気味な雰囲気がある。
僕はごくりと息をのんだ。
タツ以外の同級生2人も噂のお化け屋敷を前に多かれ少なかれ不安そうで、そわそわと互いの顔を見合わせている。いや、落ち着かない理由がもうひとつ。
みんなと距離を置いて、まったく平気そうな顔の一杭がいるせいだ。
彼は何故か肩に長い布バッグを背負っていた。自転車で通り過ぎる高校生がたまに背負っているのを見る、バッドの入った鞄。
見ている前で彼はふわ、と欠伸をした後に2階を見た。
視線に釣られて全員が見上げるが……特に何もない。普通の、ガラスの割れた、昼だというのに真っ暗な2階があるだけ。
「よし、行こうぜ」
一番に動いたのはやはりタツだった。空気を読まない、というよりは前来たことの余裕と豪胆さゆえだろう。
小学生にしてはガタイのいい体で、彼はほとんど壊れて使い物にならない鉄柵を押し広げて敷地に入った。庭には植えられた木や植物が無法地帯とばかりに生い茂っていて、特に壁にしがみつく蔦は建物の屋根にまで手を伸ばしていた。
タツは鍵の壊されたドアの取っ手を持って、引く。
ギィィィィィィ――――、とさび付いた音を立てて、扉があいた。
「靴はどうする?」
「脱げないよ、泥だらけで汚い」
「おじゃましまーっす」
いざ始まれば、冒険のよう。僕もほんのちょっとわくわくして、探検隊の後ろについて入ろうとしたところで。
「ねえ」
「うぉはい!」
後ろからいきなり声を掛けられて、僕は飛び上がった。前ばかり見て全くの油断していて、慌てて後ろを振り向くと、そこには僕よりも少し背の低い少年が居た。一杭だ。
「な、なに?」
どきどきする心臓を押さえて僕は聞いた。
「好きな食べ物は」
「……」
「……」
「……」
「言えよ」
「あ、僕のこと?」
「他に何がある」
不機嫌そうに睨まれた。理不尽だ。
でもさっきのはどう考えても疑問文じゃなかったから、その後に何か続くと思ったんだってば。
突発的な質問に、僕はほんの少し考えて答えた。
「……ごぼうを、ベーコンで巻いたやつ」
「ごぼう?」
「うん」
母さんがよく作ってくれたもの。ご飯ができたよと声をかけられてリビングに下りれば、当たり前のようにテーブルに料理が並んでいて、母さんは台所でまだご飯をよそってる途中で。その光景を思い出すと、まだ胸が苦しい。
でもそこで、友達と遊んでくる、と言った時のじいちゃんの嬉しそうな顔が頭を過ぎった。
「ふーん」
壱夏様は特に感想はないようだ。それだけ言って、中に入っていった。
何のための質問だったのか、わずかに困惑する。
「おーい、来いよー」
「あ、うん」
タツに呼ばれて、僕も家の中に足を踏み入れた。
中はひんやりとしていて、割れた窓から部屋の中に陽が入ってきていた。
玄関から入ってすぐに2階に繋がる、朽ち果てかけた階段があって、奧に向かって廊下が延びている。左右には部屋につながるドアが並び、一番奥には染みのついた壁がみえた。
まとまりながら、僕らはまず一番手前の部屋にはいった。
「うわー汚えなぁ」
じゅうたんの敷かれた部屋には紙やゴミやガラスが散乱してて、それで足の踏み場もないくらい。
多分、外から割られたのだと思う。散らばるガラスは、外からの光を反射して鋭く光っていた。
前の住人が置いて行ったのか、小さな箱や置物や、人形が残っていた。その一つ一つに悲鳴をあげながら、けっこう広い屋敷を探検した。
洋室、和室、応接間っぽいところ……調度品に違いはあるけれど、どこも散らかり具合は同じだ。壁に『参上!』なんてスプレーの落書きもあった。
台所はさらにごちゃごちゃしてたから、見ただけで通り過ぎる。
1階を全部見回って、廊下にみんなで出た。
「こんなもんかー」
拍子抜けするほど、ここはなんてことはない普通の廃屋だった。
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