Distant eyes

とまとぷりん

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第7話

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カーテンの隙間からさす光に起こされた時、香は横にいなかった。
あのまま眠ってしまったのだろう。タオルケットが掛けてあった。
本棚の時計を見ると7時40分だ。
記憶の最後は3時半頃だったから4時間は眠っていた事になる。
やれやれ・・・こういう時どこでも寝れる特技は困ったものだ。
ダイニングの方から香の作る朝食のいい匂いがする。
昨夜はそんなに食べていなかったせいか急に空腹を憶えた。
「あれ?神田さん起きてたんだ。朝ごはんもう出来てるよ・・・
ちょっと待ってはいこれ、タオルと歯ブラシ」
そういって使い捨ての歯ブラシを渡してくれた。
「ありがとう。世話掛けるね」
顔を洗いながら鏡の自分の顔を見た。
結構オッサンである。
何故彼女があのような行動に出たのか?
ひょっとすると父親の影を追っていたのか?
しかし、それにしては唇を重ねてきたのは妙だ。
いったいどういう心理状態なんだろう?
それともアルコールのせいか・・・
「どうぞ、座って。お口合うかどうか」
テーブルの上には朝食らしい朝食が用意がされていた。
ベーコンとソーセージを焼いたものにスクランブルエッグ、野菜サラダに
トーストといずれも真っ白な食器に綺麗に盛り付けられていた。
「今コーヒー入れますから・・・」
ウエッジウッドに注がれたコーヒーの香ばしさが心地よい。
「なんか新婚の食卓みたいでしょ? どうぞ召し上がって」
トーストにバターを塗りながら、確かに新婚の頃こんな感じだったのを
思い出した。
「神田さん今日は帰っちゃう?」
香が少し甘えるように言った。
「君は連休だったんだよね?じゃあ一日付き合うか。どこに行きたい?」
そういうと香の顔がさらに明るくなり楽しそうにガッツポーズをきめた。
仕草の可愛らしさは26歳には見えない。
「じゃあUSJがいい!」
「USJって・・遊園地?」
まさか遊園地とは思わなかった。
もう何十年もそれらしき施設には行っていないし、その必要も無かった。
「行った事無いんだ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにもディズニーランドにも」
そう言うと香はびっくりしたような顔をしていた。
遊園地なんて大学の頃デートで大阪万博の跡地にあったエキスポランドに
行ったのが最後だ。
「じゃあ決定ね。うれしいなー、何年ぶりかしら?3年・・5年だ。
その時付き合ってたのはー・・・あれ?やきもち焼かないの?」
そう言うと子供のような目でこちらを見た。
「え? どうしてボクが香ちゃんの昔の彼氏に嫉妬しなきゃならないんだい?
ところで、この格好じゃ何だから家で着替えてから行ってもいいかな?
それでそのままボクの車で行けばいいよ。」
顔は洗ったがシャワーもしていないのでどうもスッキリしない。
家からUSJなら約2時間だ。昼過ぎには到着するだろう。
「ホント?神田さんの車で行けるんだ。じゃあ急いで用意しなくちゃ」
朝食を終え、香が着替えをする間後片付けをしていた。
一人暮らしが長いせいか家事全般は苦にならなのだが、香は最初嫌がっていた。
しかし時間の事を言うと、渋々自分の用意をすることを承諾した。
香の家からタクシーで自宅のマンションに戻ったのは9時過ぎだった。
自分の部屋に女性を入れるのは初めてである。
商社を辞めたときの退職金と、それまでの貯金で思い切って購入したマンションは
バブルも終わっていたので2000万程の買い物であった。
「神田さん綺麗にしてるんですねー」
香が色んなところを見ながら言った。
別に見られてまずいものは何も無かったし、一人暮らしをするようになって
いつ倒れたりしてもいいよう、出かける時には部屋を片付ける習慣があった。
「シャワーしてくるから冷蔵庫から好きなもの飲んで待ってて。
テレビのリモコンはそこだから」
そう言ってバスルームに入った。


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