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第4話
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「お願いだから一緒に居て!」
その縋るような態度に少し驚いて尋ねた。
「何かあったのかい?話をする位はいいけど・・・その前に服を着なさい」
そう言って、リビングとダイニングの間の引き戸を閉めた。
赤い樹脂製の椅子に腰を下ろし話を整理してみた。
別れた妻が再婚した先の娘からすると・・・
ちょっと待てよ・・・二人の間に子供は居なかったが、もし居たならば
彼女とは兄妹だったかもしれない・・・その前に彼女と・・・
その・・・そういった関係になったとして、結婚なんて場合は、別れた
妻が母親?
いかんいかん。絶対にあってはいけないことだ。
アホすぎる。
それにしても何を考えてるんだ?ああ、自分が情けない・・・
「おまたせ」パジャマのような部屋着を着た香が引き戸を開け入ってきた。
「神田さん、色々ご迷惑かけました。あんなに酔っ払うなんて初めてで・・・
あの、何か飲みます? ビールとか・・・・」
すっかり酔いが醒めたのだろうか少し青い顔で気まずそうにテーブルの
前に座った。
「そうだな、じゃあコーヒーか何かもらえるかな?君も暖かいものを
飲んだほうがいいと思うよ」
髪の毛はドライヤーで整えたのだろう。
ストレートの髪を後ろで留めてあった。
香はインスタントコーヒーのパックを2つ用意し、ポットからお湯を
注いでいた。
手つきは上品で無駄が無い。仕事柄そういった訓練は受けているのだろうか?
目の前に静かに出されたティーカップはウエッジウッドだった。
「ごめんなさいね、コーヒーカップが無いの。お砂糖とミルクは?」
「いやいいんだ、何も入れない。ありがとう。ところで香ちゃんいくつなの?
女性に年齢を聞くのは野暮かもしれないけど・・・」
ティーカップに砂糖を入れる仕草がなかなか優雅だ。
1杯・・・2杯・・・3杯・・・4杯?
いったい何杯入れる気だ?
病気かコイツ?と、突っ込みたくなったが、ここは冷静を装って静かに
コーヒーを飲んだ。
「26です。あっ、でも来月誕生日だからもうすぐ27歳になります。
神田さんはおいくつなんですか?」
素で見る彼女の顔はもう少し若いのではないか、と思うほど張りが合った。
バスルームから運んだ際もそう感じていた。
それを思い出したとたん香を直視する事ができず、シンクの方に
目をやりながら答えた。
「43歳。君のお父さんに近いんじゃないかな?」
正直実際そんな気がした。別れた妻は2歳年下である。
離婚して暫くして再婚したなら7~8年前か?だとすれば香が大学時代であろう。
父親は44~45という事もありうる。
「父は53歳ですが今年亡くなりました。肝臓癌でした」
「そうなんだ・・・知らずに変な事言ってしまって・・・ゴメンね」
53歳か、そうすると裕子のヤツ、随分年上と再婚したんだ。
正直アイツの趣味は最後まで解らなかったが・・・
携帯の画面は確かアイドル歌手だった。
それでいて音大出身のピアノ教師である。
まあ今となっては懐かしい思い出なのだが・・・
「わたし、あまりお父さんとは一緒に居なかったの。海外転勤が多かった
みたいで小さい頃からほとんど母と二人で暮らしていたから。
でもわたしが高校生の頃、母が倒れて父がやっと戻してもらえたんです、本社に。
でもすぐ母は亡くなったの」
その後彼女は父親と一緒に住んでいたが、何年も生活を共にしていなかったせいか
息苦しい家庭だったらしい。
それで大学を地方都市にして一人暮らしを始めた。
卒業も近い頃、父から再婚の話を聞いたがそれほど反発はなかったと言う。
ただ、ほとんど実家には戻らずすぐにアパートを借りて一人暮らしを始めた。
そして一昨年中古のこのマンションを買って住みだしたらしい。
「中古でも結構大変だったでしょ?頑張ったんだね」
「違うの、実はほとんど父が出してくれたの。わたしが出したのは食器や
家具類の一部だけ。一度父を招待したかったんだけど・・・
入院生活が長くて・・・そのまま死んじゃったから・・・」
見る見る目が充血していくのがわかった。
「そうか・・・好きだったんだねお父さんの事」
彼女はコクッと頷きタオルで顔を隠した。
いい子じゃないか。いまどき珍しい素直な子だ。
商社時代も社内のOLや接待で使うクラブの女の子を見てきたが皆したたかである。
男なんかよりよっぽど社会に順応している、と感心とも呆れるとも思える
感情を抱いていた。
「ちょっと落ち着いてきたかな?このまま朝までというのはマズイでしょ?
そろそろ帰ってもいいかな?」
そういうと香は急に怒った顔で答えた。
「神田さんわたしの事そんなに嫌いなんですか?わたしが迷惑かけたから?」
「そんなことないよ。香ちゃん一人暮らしだし、こんなオッサンが朝まで部屋に
居たりしちゃマズイでしょ? ほら、近所の人とか友達とか・・・ね?」
そう言ってる途中彼女が急に笑いだした。あっけに取られて見てると
「うそ。怒ってないし、神田さんが私のことを嫌いだなんて思ってない。
帰るなんて言うから・・・居て欲しいの」
そういうとスッと立ち上がってこちらに近づいてきた。
そして私の頭を包み込むように抱きしめてきた。
顔が彼女の丁度胸のふくらみの辺りに、私の腕は自然に彼女の腰に廻していた。
「自制心・・・」
ただ頭の中で念じるように呟いていた。
その縋るような態度に少し驚いて尋ねた。
「何かあったのかい?話をする位はいいけど・・・その前に服を着なさい」
そう言って、リビングとダイニングの間の引き戸を閉めた。
赤い樹脂製の椅子に腰を下ろし話を整理してみた。
別れた妻が再婚した先の娘からすると・・・
ちょっと待てよ・・・二人の間に子供は居なかったが、もし居たならば
彼女とは兄妹だったかもしれない・・・その前に彼女と・・・
その・・・そういった関係になったとして、結婚なんて場合は、別れた
妻が母親?
いかんいかん。絶対にあってはいけないことだ。
アホすぎる。
それにしても何を考えてるんだ?ああ、自分が情けない・・・
「おまたせ」パジャマのような部屋着を着た香が引き戸を開け入ってきた。
「神田さん、色々ご迷惑かけました。あんなに酔っ払うなんて初めてで・・・
あの、何か飲みます? ビールとか・・・・」
すっかり酔いが醒めたのだろうか少し青い顔で気まずそうにテーブルの
前に座った。
「そうだな、じゃあコーヒーか何かもらえるかな?君も暖かいものを
飲んだほうがいいと思うよ」
髪の毛はドライヤーで整えたのだろう。
ストレートの髪を後ろで留めてあった。
香はインスタントコーヒーのパックを2つ用意し、ポットからお湯を
注いでいた。
手つきは上品で無駄が無い。仕事柄そういった訓練は受けているのだろうか?
目の前に静かに出されたティーカップはウエッジウッドだった。
「ごめんなさいね、コーヒーカップが無いの。お砂糖とミルクは?」
「いやいいんだ、何も入れない。ありがとう。ところで香ちゃんいくつなの?
女性に年齢を聞くのは野暮かもしれないけど・・・」
ティーカップに砂糖を入れる仕草がなかなか優雅だ。
1杯・・・2杯・・・3杯・・・4杯?
いったい何杯入れる気だ?
病気かコイツ?と、突っ込みたくなったが、ここは冷静を装って静かに
コーヒーを飲んだ。
「26です。あっ、でも来月誕生日だからもうすぐ27歳になります。
神田さんはおいくつなんですか?」
素で見る彼女の顔はもう少し若いのではないか、と思うほど張りが合った。
バスルームから運んだ際もそう感じていた。
それを思い出したとたん香を直視する事ができず、シンクの方に
目をやりながら答えた。
「43歳。君のお父さんに近いんじゃないかな?」
正直実際そんな気がした。別れた妻は2歳年下である。
離婚して暫くして再婚したなら7~8年前か?だとすれば香が大学時代であろう。
父親は44~45という事もありうる。
「父は53歳ですが今年亡くなりました。肝臓癌でした」
「そうなんだ・・・知らずに変な事言ってしまって・・・ゴメンね」
53歳か、そうすると裕子のヤツ、随分年上と再婚したんだ。
正直アイツの趣味は最後まで解らなかったが・・・
携帯の画面は確かアイドル歌手だった。
それでいて音大出身のピアノ教師である。
まあ今となっては懐かしい思い出なのだが・・・
「わたし、あまりお父さんとは一緒に居なかったの。海外転勤が多かった
みたいで小さい頃からほとんど母と二人で暮らしていたから。
でもわたしが高校生の頃、母が倒れて父がやっと戻してもらえたんです、本社に。
でもすぐ母は亡くなったの」
その後彼女は父親と一緒に住んでいたが、何年も生活を共にしていなかったせいか
息苦しい家庭だったらしい。
それで大学を地方都市にして一人暮らしを始めた。
卒業も近い頃、父から再婚の話を聞いたがそれほど反発はなかったと言う。
ただ、ほとんど実家には戻らずすぐにアパートを借りて一人暮らしを始めた。
そして一昨年中古のこのマンションを買って住みだしたらしい。
「中古でも結構大変だったでしょ?頑張ったんだね」
「違うの、実はほとんど父が出してくれたの。わたしが出したのは食器や
家具類の一部だけ。一度父を招待したかったんだけど・・・
入院生活が長くて・・・そのまま死んじゃったから・・・」
見る見る目が充血していくのがわかった。
「そうか・・・好きだったんだねお父さんの事」
彼女はコクッと頷きタオルで顔を隠した。
いい子じゃないか。いまどき珍しい素直な子だ。
商社時代も社内のOLや接待で使うクラブの女の子を見てきたが皆したたかである。
男なんかよりよっぽど社会に順応している、と感心とも呆れるとも思える
感情を抱いていた。
「ちょっと落ち着いてきたかな?このまま朝までというのはマズイでしょ?
そろそろ帰ってもいいかな?」
そういうと香は急に怒った顔で答えた。
「神田さんわたしの事そんなに嫌いなんですか?わたしが迷惑かけたから?」
「そんなことないよ。香ちゃん一人暮らしだし、こんなオッサンが朝まで部屋に
居たりしちゃマズイでしょ? ほら、近所の人とか友達とか・・・ね?」
そう言ってる途中彼女が急に笑いだした。あっけに取られて見てると
「うそ。怒ってないし、神田さんが私のことを嫌いだなんて思ってない。
帰るなんて言うから・・・居て欲しいの」
そういうとスッと立ち上がってこちらに近づいてきた。
そして私の頭を包み込むように抱きしめてきた。
顔が彼女の丁度胸のふくらみの辺りに、私の腕は自然に彼女の腰に廻していた。
「自制心・・・」
ただ頭の中で念じるように呟いていた。
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