探偵小説の正体とその内訳

駄犬

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第一部

筋金入りの……

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「新幹線は便利だなぁ」

 窓の外を流れる景色の速さに感心する“支配人”の様子にワタシも嘘偽りなく同意する。なるべく移動に割く時間は短い方が好ましい。沈黙を嫌って興味もない四方山話に花を咲かすのは、苦痛以外に例えようがなく、口を無駄に動かしたという事実だげが残る。それは毛ほども意味がないし、新幹線が地元に敷かれたことはワタシにとって、喜ばざるを得ない。貝塚氏には最大限の敬意を払おうではないか。

「当時はお祭り騒ぎだった」

 地元民の関心は当然の如く、情報を取り扱うメディアがこぞって取り扱い、長年に渡り計画されていた新駅の誘致について、専門家やコメンテーターがそれぞれの見地から、良い点と悪い点を交互に上げていき、最後はこう締めくくった。

「地元に住む住民の方々の声を決して蔑ろにせず、建設的なやり取りが行われることを祈るばかりです」

 青年団や地域活動に積極的に参加する市民の意見、並びに地元企業との折衝によって計画は押し進められており、台本書きで構成されたテレビメディアの仮初の憂慮など聞くに値しない。今こうしてワタシ達が利用しているのが答えなのだ。町から町へと瞬く間に通過を繰り返す景色の変化を前に口寂しさなど覚える隙間はない。窓側の座席に腰掛けるワタシは、とくに思い入れのないチェーン店の車屋や、トラック運転手がこぞって休憩場所に選ぶ田舎のコンビニエンスストアなど、あまり実りがないものの、目移りさせながら時間を潰す。やがて、とある駅に停車することをアナウンスする車内放送が繰り返し行われ出すと、“支配人”が廃棄する空の弁当と飲みかけのペットボトルをリュックの中に片付け始めた。ワタシもそれに合わせて、新幹線から降車する心構えと準備に足並みを揃える。

「次で降りるよ」

 “支配人”の一言を待たずして、既にその腹積りはあったが、形式上ワタシはこう返した。

「早いですね」

 一体何に機嫌を伺っているのか時折、分からなくなる。上下を設けて自ら進んで巧言令色に耽る様子は、マゾヒストの一群に足を突っ込んでいると言われても仕方ない。それほど、ワタシはこの関係にドップリと頭まで浸かっていて、自由に身動きを取っている感覚がないのだ。“支配人”が腰を上げ、座席から離れるのに合わせてワタシも一拍遅れで動作を追いかけた。身体を伸ばすほどの緊縛した硬直は感じていなかったが、“支配人”が不意に行った欠伸のついでに、ワタシはとくに意味もなく首を大きく回した。

「行こうか」

 降車に合わせて、ワタシは一つ言及しておかなければならない。“支配人”の特徴の一つである「間食」についてだ。朝昼晩といった人間の食事サイクルは“支配人”にとって守るべき慣例にはあたらず、常に自分の空腹具合を物差しに食事をとる。
 
「あっ、牛丼食べない?」
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