31 / 48
死なば諸共
出来るなら
しおりを挟む
ビジネスホテルの白い壁紙を中心にした無味乾燥な装飾類は、利用者の性質をよく理解し、眠りを妨げない最大限の努力が払われている。金井は、免許証などの身分証となる物を長財布から取り出して、シングルベッドの上に広げた。
「神田正徳。あの変体の規模からすると、相当数の人間を食らったはずだ」
アルファ隊としての見地から、神田の素性を探れば、短期調査の幹となる問題に突き当たる。
「この町で頻繁に起きている行方不明者のすべてをコイツのせいだと断言できないな」
山岸が腕を組んで意見を落とすと、金井もまた思案の兆しに爪を噛んだ。
「仲間割れ、なのか?」
眼前で起きていた藍原たちと神田の対立から推測を立てるものの、確信は得られない。
「もし集団から爪弾きにされた結果なのだとしたら……」
のめり込むように前傾姿勢になる山岸を見た金井は、嘲笑じみた息を軽く吐く。
「にしても、まさか吸血鬼の集団に受血者が混じっているとはね」
山岸は苦い顔をする。それもそうだろう。バーテンダーや亀井を取り押さえて、詰問するつもりでいたのに、たった一人の受血者によって瓦解したのだ。恥を感じずしてどうする。
「厄介だよなぁ。吸血鬼だけならまだしも、嗅ぎ分けられない受血者に混じられると、死角から迫られ放題だ」
これから起き得る戦闘を見越したアルファ隊の欠点について、二人は頭を抱えた。
「他の奴らと合流するか」
諦観の籠った息の吐き方をする山岸に対して、金井が刹那に言葉を返す。
「待て待て。この吸血鬼集団の規模感が分からないかぎり、早まった対応は避けたい」
金井をここまで及び腰にさせる背景に、「アルファ・マンティス作戦」が見え隠れる。現代史に未来永劫、席を置くであろう死者の数は、作戦の可否を多角的に捉えようと思案した先にいつも鎮座し、「二度と繰り返してはならない」と結ぶのだ。当事者ですらそうなのだから、自分たちがきっかけとなり、新たな惨事を起こすのは憚られた。
「穏便に済むと思うの?」
山岸は先の戦いを通して、もはや死傷者が出ることは避けられないと考えていた。神田という一体の吸血鬼の死体が出た時点で、この一件はタダでは済まないと、金井もわかっている。だからこそ、安易な決定を下す真似は避けたい。それが現実逃避のようなものであっても、最後の最後まで考えることを放棄したくない。
「できるなら、したい」
それは祈りにも似た願いだ。
「神田正徳。あの変体の規模からすると、相当数の人間を食らったはずだ」
アルファ隊としての見地から、神田の素性を探れば、短期調査の幹となる問題に突き当たる。
「この町で頻繁に起きている行方不明者のすべてをコイツのせいだと断言できないな」
山岸が腕を組んで意見を落とすと、金井もまた思案の兆しに爪を噛んだ。
「仲間割れ、なのか?」
眼前で起きていた藍原たちと神田の対立から推測を立てるものの、確信は得られない。
「もし集団から爪弾きにされた結果なのだとしたら……」
のめり込むように前傾姿勢になる山岸を見た金井は、嘲笑じみた息を軽く吐く。
「にしても、まさか吸血鬼の集団に受血者が混じっているとはね」
山岸は苦い顔をする。それもそうだろう。バーテンダーや亀井を取り押さえて、詰問するつもりでいたのに、たった一人の受血者によって瓦解したのだ。恥を感じずしてどうする。
「厄介だよなぁ。吸血鬼だけならまだしも、嗅ぎ分けられない受血者に混じられると、死角から迫られ放題だ」
これから起き得る戦闘を見越したアルファ隊の欠点について、二人は頭を抱えた。
「他の奴らと合流するか」
諦観の籠った息の吐き方をする山岸に対して、金井が刹那に言葉を返す。
「待て待て。この吸血鬼集団の規模感が分からないかぎり、早まった対応は避けたい」
金井をここまで及び腰にさせる背景に、「アルファ・マンティス作戦」が見え隠れる。現代史に未来永劫、席を置くであろう死者の数は、作戦の可否を多角的に捉えようと思案した先にいつも鎮座し、「二度と繰り返してはならない」と結ぶのだ。当事者ですらそうなのだから、自分たちがきっかけとなり、新たな惨事を起こすのは憚られた。
「穏便に済むと思うの?」
山岸は先の戦いを通して、もはや死傷者が出ることは避けられないと考えていた。神田という一体の吸血鬼の死体が出た時点で、この一件はタダでは済まないと、金井もわかっている。だからこそ、安易な決定を下す真似は避けたい。それが現実逃避のようなものであっても、最後の最後まで考えることを放棄したくない。
「できるなら、したい」
それは祈りにも似た願いだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
冀望島
クランキー
ホラー
この世の楽園とされるものの、良い噂と悪い噂が混在する正体不明の島「冀望島(きぼうじま)」。
そんな奇異な存在に興味を持った新人記者が、冀望島の正体を探るために潜入取材を試みるが・・・。
復讐の偶像
武州人也
ホラー
小学五年生の頃からいじめを受け続けていた中学一年生の秋野翼は、要求された金を持って来られなかったことでいじめっ子に命を奪われてしまい、短い生涯を閉じた。
その三か月後、いじめに関わった生徒が鷲と人間を融合させたような怪人に襲われ、凄惨な暴力の果てに命を落としたのであった。それは、これから始める復讐の序章に過ぎなかった。
血と暴力の吹き荒れる、復讐劇+スプラッターホラー作品
死を呼ぶ通過儀礼
蓮實長治
ホラー
単なる新人巡査へのちょっとした実地訓練の筈が……。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
ハンニバルの3分クッキング
アサシン工房
ホラー
アメリカの住宅街で住人たちが惨殺され、金品を奪われる事件が相次いでいた。
犯人は2人組のストリートギャングの少年少女だ。
事件の犯人を始末するために出向いた軍人、ハンニバル・クルーガー中将は少年少女を容赦なく殺害。
そして、少年少女の死体を持ち帰り、軍事基地の中で人肉料理を披露するのであった!
本作のハンニバルは同作者の作品「ワイルド・ソルジャー」の時よりも20歳以上歳食ってるおじさんです。
そして悪人には容赦無いカニバリズムおじさんです。
日本隔離(ジャパン・オブ・デッド)
のんよる
ホラー
日本で原因不明のウィルス感染が起こり、日本が隔離された世界での生活を書き綴った物語りである。
感染してしまった人を気を違えた人と呼び、気を違えた人達から身を守って行く様を色んな人の視点から展開されるSFホラーでありヒューマンストーリーである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
キャラ情報
親父…松野 将大 38歳(隔離当初)
優しいパパであり明子さんを愛している。
明子さん…明子さん 35歳(隔離当初)
女性の魅力をフルに活用。親父を愛している?
長男…歴 16歳(隔離当初)
ちょっとパパっ子過ぎる。大人しい系男子。
次男…塁 15歳(隔離当初)
落ち着きのない遊び盛り。元気いい系。
ゆり子さん31歳(隔離当初)
親父の元彼女。今でも?
加藤さん 32歳(隔離当初)
井川の彼女。頭の回転の早い出来る女性。
井川 38歳(隔離当初)
加藤さんの彼氏。力の強い大きな男性。
ママ 40歳(隔離当初)
鬼ママ。すぐ怒る。親父の元妻。
田中君 38歳(隔離当初)
親父の親友。臆病者。人に嫌われやすい。
優香さん 29歳(隔離当初)
田中君の妻?まだ彼女は謎に包まれている。
重屋 39歳(出会った当初)
何処からか逃げて来たグループの一員、ちゃんと戦える
朱里ちゃん 17歳(出会った当初)
重屋と共に逃げて来たグループの一員、塁と同じ歳
木林 30歳(再会時)
かつて松野に助けらた若い男、松野に忠誠を誓っている
田山君 35歳(再会時)
松野、加藤さんと元同僚、気を違えた人を治す研究をしている。
田村さん 31歳(再会時)
田山君同様、松野を頼っている。
村田さん 30歳(再会時)
田山、田村同様、松野を大好きな元気いっぱいな女性。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる