何故に彼等はこうなったか

駄犬

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庭師の仕事

ゆうじん

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 依頼主が感じ取った悪い予感とは、疾しい思いからくる自意識の発露である。そんな人間が持つ猜疑心をだまくらかすのは骨が折れた。ただ、見目なき存在を畏怖するという意味では、普段の依頼主とそう大差はない。

 私は今一度、深く息を吸い込む。膨らんだ胸に背筋が反れて、顔が上向く。月明かりに形作られる黒々とした雲間に夜空としての慈しむべき光景があった。

「綺麗だなぁー」

「それは良かった」

 口から吹きこぼれた独り言を、会話として成立させる背後の声に、襟首を掴まれたかのように身体が固まった。そして振り向きざま、まるで飼い犬が足元に擦り寄ってきたかのように、私の脇腹へピタリと収まる影が一人。扇動的な頭によって支配された身体の窮屈さは、見慣れぬ脳天ばかり私の目に映す。肩を押して離れさせると、脇腹から飛び出す包丁の柄が急転直下に血の気を奪った。痛みは分からない。自分の身体とは思えないほど瞬く間に冷えていき、枝が折れるかのように膝が地面に落ちた。

「ハナっから可笑しいとおもってたんだ」

 人と接する際に振る舞う自己流の礼節が、怪しさとして映ったのならば、私の失策だ。

「ほかの奴らがお前を有難がっていると思うと寒気がする」

 私は身体を抱いて地面に転がった。先程まで冷たいと感じていた脇腹が、煮えたぎるような熱さを伴い始めた。産気づく浅い呼吸によって充分な空気が頭に行き渡らず、目玉は反転寸前だ。

「ビッチ野郎」

 ビッチなのか、野郎なのか。はっきりしてほしいところだったが、そこで悪罵は終わり、私は路上に置き去りにされた。

 刺入経路に臓器がなかったことや夜遊びに興じる少女たちの迅速な救護の甲斐あって、医師の元へ運ばれると感染症の疑いもなく切創の縫合手術を施された。私はたしかに運がいい。

「バチが当たったな」

 私には一人だけ、友人と思しき人物がいる。当院内で数少ない、通り魔の被害者として病床を埋める私を見舞いに来ているとはいえ、半ば見下したような態度を取る人間を友人と呼ぶには憚るが、便宜上、友人としておこう。

「貴方達が到底救えない人間を救ってるんだ。もし、私に罰をくださったんなら、それは神さまじゃなくて、悪魔に違いない」

「馬鹿いうなよ。あぶく銭を稼ぐお前と対等なわけないだろ」

「そっちだって只の箱に金を投げ込んでもらってるだろうが」

 胸ぐらを掴み合いながら啖呵を切るかのような熱量で私たちはいがみ合った。

「お前と言い争うのは馬鹿馬鹿しくなるな」

 どちらが先にこの罵りを始めたのかは、読者諸君にはお分かりだろう。

「で、どれくらいで退院できるんだ」

 けろりと態度を翻す友人には難儀する。此方はまだ、口汚く蔑称などを交えてやり合うつもりでいたものの、手のひらを返されてしまったならば仕方ない。

「三週間後ぐらいには」

「そうか。じゃあそのときになったら連絡する」

 水面下で話が勝手に進んでいる。上着の裾を掴み、私は訊く。

「どういうこと?」

「やってもらいたいことがあるんだよ。罰を濯ぐには丁度いいかなってさ」

 悪態はどうでもいい。私に何をさせようとしているのか、明白にさせなければ、気持ちよく退院することもできない。

「一体何をさせたいの」

「世間でいうところの、心霊スポットに行って慈善活動をしてもらう」

「はぁ?!」

 私は彼の部下でもないし、ひいては活動の決定権を託すような深い関係でもない。一体どういう道理で私に話しているのだ。

「人が集まることで起こる事故やいさかいに近隣住民は頭を悩ましていてね」

「私が直接頼まれたわけでもないのに、どうして関わる必要がある」

「なんつーか。俺よりお前の方がその、なんだろうな」

 自分にとって体のいい言葉を選んでいる様子がありありと伝わってくる。私なら彼が遠回しにしていることを一言で表せられる。

「優秀だから、でしよ?」
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