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最終章

先ずは……

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 自分が犠牲になることを想定していない軽々しい声掛けを合図に、皆は揃って湖に噴水の如く水柱を作った。魔術による肉体の強化は、人間がミニチュアほどに見える生物と相対しても、矮小な力とはならず、「跳躍」は「飛躍」へと変貌を遂げる。一体一体の四肢や胴体を念入りに叩いて時間を掛けるより、頭部への攻撃で一気呵成に方を付けるつもりであった。巨大な体躯にならって反応が著しく鈍く、九名もの人間が顔付近にいくら近付こうが、まるで気にしていない。それは、天敵がいないことへの慢心に他ならず、他の種族がもたらす影響をまるで考慮していない様子だった。ただ一つだけ、触覚のみが周囲の情報を認知しようと齷齪と蠢いていて、鋭敏に敵意を感じ取ったようである。

 打倒を目論む、九名からなる反骨精神の接近を目敏く察知した触手は、首を回すようにして一斉に同じ方向に向き直った。さながら銃口が向けられたような怖気が、レラジェの顔を凍らせる。空中で自由に身動きが取れない以上、鞭の如くしなった触手の動作には注意深くいる必要があった。先刻まで命のやりとりに身を投じていたビーマンは、人間の身体をいとも容易く粉砕する力を一目で看取した。次の瞬間、フラガラッハ剣を横払いする。刃こぼれを知らない切先さながらの鋭い風が、触手の動静に待ったをかける。「破断」と一口で言っても様々あるが、接着すら簡単に思えるような綺麗な切断面にこそ、「破断」という言葉を当てがうべきだろう。その点で言うと、フラガラッハ剣が触手を切り裂く様は、まさに「破断」であった。

「よくやった」

 スミスから皮肉に褒め称えられたビーマンは、唾棄するように息を吐き捨て、予期しない共闘に少しだけ嫌気が差した。

 レラジェは弓を模した緑色に発光する光の束を右手に出現させると、射る動作に合わせて矢も現れた。映画やアニメなどの映像作品の見様見真似で弓矢の扱いを再現すれば、矢の形をした光が直線的な軌道を描いて頭部に突き刺さった。ただし、分厚い外骨格の前では軽症にも至らない些細なことのように思えたが、光の矢は依然として発光を続け、レラジェはニヤリと口角を上げた。光の矢を中心に果実が熟れるようにして、外骨格はジュクジュクと融解を始める。するとそれは、頭部全体に広がりだし、形を保っていられないほどの脆弱さは、吹き付ける風によっていとも容易く瓦解した。

「レラジェの名を冠するだけある」

 カムラが関心したように呟くと、身体を動かす意思の所在をなくした、記念すべき討伐の一体目が前のめりになって湖に倒れる。尋常ならざる体積に水面が大きく膨れ上がり、花を咲かすように空中で弾けて割れた。

「さぁ! 次々いくぞ」
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