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最終章
唐変木
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「君の捉え方だと、全てを失ってから価値を知ることになって、後学などと言っていられない事態を招く」
やや語気を強めて発するバエルの眼差しは睥睨一歩手前の嫌悪感に満ち満ちて、紙を切るのも容易い鋭さがあった。それでも、イルマリンが脅しに対して屈するような小心者ではない。強く出られれば、それ相応の反発を体現するだけの気の強さがあった。
「体験するのも悪くない」
一触即発の雰囲気が夜風に乗って巻き上げられ、アイとカムラが臨戦態勢に入った。その瞬間、スミスが努めて冷静な語気を操って言う。
「落ち着け。この人数で争えば大事だぞ」
カムラとビーマンを相手取り、死闘に相応しい喧騒を街に響き渡らせていたとは思えない、きわめて即物的な態度をとるスミスは、「魔術師」の役目を思い出してこの場を制しようと言葉をあやなしたようだ。
「どの口が言ってるんだ」
ビーマンはすかさず、スミスの身の振る舞いに苦言を発したのち、顔を合わせることすら煙たく思い、そっぽを向いた。
「……駒が集まったと見ているんでしょう?」
目先の血の気を棚に上げ、レラジェは今一度バエルによって作り出された今し方の状況を咀嚼しようと、一語一句を聞き逃すまいと耳をそばだてる。
「君はやっぱり、いいね」
配下の一人としてベレトの城に潜伏させていたトラビスを箸にも棒にも掛からない、有象無象のように切り捨てたやり方を目にしているレラジェは、バエルから満面の笑みを向けられた途端、背筋に寒気が掠め通り、気の置けない関係を築こうと接近してくるたびに、どのようにして裏切られるかを想像した。次は、唾を飛ばして悪態をついても何ら不思議ではない無愛想に表情を作るイルマリンに、バエルは赤児をあやすように微笑みかける。
「人類の生存が僕らの手に掛かっていると思えば、価値のあるものとして感じてくるだろう?」
陶酔気味を言い回しに終始するバエルの様子を冷眼視するイルマリンに、レラジェも陰ながら同調した。だが、そんな心模様を履き違えたバエルは、以下の通りに解釈する。
「そんな心配しなくても大丈夫。僕らなら、きっとやり遂げられる」
作戦が頓挫することを心配していると判断したバエルは、無闇に精神論を振りかざし、ひたすらイルマリンを励ました。溝があると言わざるを得ないこの光景に必要なのは、同等の実力持つ者の登場であった。しかし、「バエル」という名を冠する人間に対しては、土台無理な要求に違いない。
「……」
イルマリンはこれ以上の言い合いに意義を見出せず、如何ともし難い表情をぶら下げつつ、閉口した。それでも警戒は怠らず、バエルへの目配せを遵守し、間合いを保つことで如何なる手段にも応じる構えであった。しかし、それを横目に見ていたレラジェは、鼻で息を吐いたのち、徒労な心構えになると事前に肩を落とす。気落ちした雰囲気を察知するバエルは、全くもって朴念仁極まることを言い放つ。
「僕は君達を信じている」
やや語気を強めて発するバエルの眼差しは睥睨一歩手前の嫌悪感に満ち満ちて、紙を切るのも容易い鋭さがあった。それでも、イルマリンが脅しに対して屈するような小心者ではない。強く出られれば、それ相応の反発を体現するだけの気の強さがあった。
「体験するのも悪くない」
一触即発の雰囲気が夜風に乗って巻き上げられ、アイとカムラが臨戦態勢に入った。その瞬間、スミスが努めて冷静な語気を操って言う。
「落ち着け。この人数で争えば大事だぞ」
カムラとビーマンを相手取り、死闘に相応しい喧騒を街に響き渡らせていたとは思えない、きわめて即物的な態度をとるスミスは、「魔術師」の役目を思い出してこの場を制しようと言葉をあやなしたようだ。
「どの口が言ってるんだ」
ビーマンはすかさず、スミスの身の振る舞いに苦言を発したのち、顔を合わせることすら煙たく思い、そっぽを向いた。
「……駒が集まったと見ているんでしょう?」
目先の血の気を棚に上げ、レラジェは今一度バエルによって作り出された今し方の状況を咀嚼しようと、一語一句を聞き逃すまいと耳をそばだてる。
「君はやっぱり、いいね」
配下の一人としてベレトの城に潜伏させていたトラビスを箸にも棒にも掛からない、有象無象のように切り捨てたやり方を目にしているレラジェは、バエルから満面の笑みを向けられた途端、背筋に寒気が掠め通り、気の置けない関係を築こうと接近してくるたびに、どのようにして裏切られるかを想像した。次は、唾を飛ばして悪態をついても何ら不思議ではない無愛想に表情を作るイルマリンに、バエルは赤児をあやすように微笑みかける。
「人類の生存が僕らの手に掛かっていると思えば、価値のあるものとして感じてくるだろう?」
陶酔気味を言い回しに終始するバエルの様子を冷眼視するイルマリンに、レラジェも陰ながら同調した。だが、そんな心模様を履き違えたバエルは、以下の通りに解釈する。
「そんな心配しなくても大丈夫。僕らなら、きっとやり遂げられる」
作戦が頓挫することを心配していると判断したバエルは、無闇に精神論を振りかざし、ひたすらイルマリンを励ました。溝があると言わざるを得ないこの光景に必要なのは、同等の実力持つ者の登場であった。しかし、「バエル」という名を冠する人間に対しては、土台無理な要求に違いない。
「……」
イルマリンはこれ以上の言い合いに意義を見出せず、如何ともし難い表情をぶら下げつつ、閉口した。それでも警戒は怠らず、バエルへの目配せを遵守し、間合いを保つことで如何なる手段にも応じる構えであった。しかし、それを横目に見ていたレラジェは、鼻で息を吐いたのち、徒労な心構えになると事前に肩を落とす。気落ちした雰囲気を察知するバエルは、全くもって朴念仁極まることを言い放つ。
「僕は君達を信じている」
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