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最終章

逆手に取られて

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 あらゆる人間を巻き込んで、一世一代の蜂起を起こし、積み木崩しの要領でバエルに抗う姿勢と立ち回りは、確かに理知的で合理性に富んでいる。だが、いざという時に、ベレトは身体を張れない。これは、偉大なる目標を掲げるバエルからすれば、浅薄な糸引きに乗じて肥やしを蓄える機会となり、受け身を決め込んだベレトの悪知恵に対して、みごとな返し手を見せる。

「やあやあ。前途有望な人材が多く集まってくれたね」

 落雷が落ちたかのように、脳内に響き渡る声は、寝静まった街の喧騒を止めるのに過不足なかった。

「?!」

 複雑怪奇に様々な表情が寄り集まり、各々の主張を掲げてぶつかり合う瞬間、皆一様に顔を強張らせた。疚しさに駆られてバツが悪いと思った訳ではない。不可解な介入による突飛さを訝しみ、その意図を理解しようと、アイを中心に集まっていた視線が暗雲漂う空に向く。

「初めましての人も多くいるね」

 太陽がひっくり返り、街に闇夜をもたらす時間の概念をバエルは度外視し、月に対して更なる発光を求める。それを月明かりと呼ぶには些か無理があるほどの眩い光を放ち、後光のように皆の顔を照らした。 建物の影に隠れていたベレトは、空に浮かぶバエルの姿をしっかりと捉え、唾棄するようにその名を呟く。

「バエル……」

 レラジェ、イシュ、イルマリン、ビーマン、スミス、カムラ、アイ、ベレト、ウァサゴ。九名の魔術師ないし背信者が、不承不承はあれど果たすべき目的の為に、あたかも磁力に引き寄せられるようにして集まった。世界の終末を見据えた魔術師の群れが四六時中、結界を張り続けてどうにか持ち堪えている現状、街に点在する残りの魔術師は半ば戦力外のように見られていた。だが、バエルはその独自の生存戦略に命を賭して挑むだけの人材が必ず存在すると信じ、蔑ろにする気はさらさらなかった。ベレトがバエルを宿敵に捉え、迎え撃つ為に選んだ舞台は、回り回ってバエルの追い風となって働いてしまったようだ。人口の偏りに比例して、磨けば光る原石がゴロゴロと転がっており、選別に手を焼かずに済んだのだ。

「またまた変な奴が出てきたなぁ、おい!」

 道徳的気風を欠いたイルマリンは、流離に変化する状況をひとえに楽しみ、大仰な登場を果たしたバエルに熱心な興味を向ける。尋常ならざる力の露見に伴う警戒は勿論のこと、バエルに関して知見のある者は、この事態を深刻に捉え、外連味のある態度に言葉を傾聴し、一寸先に求められるかもしれない決断の有無にそこはかとなく不安をえていた。

「ベレト、君には随分と助けられたよ。こんなにも有望な人材を一箇所に集めてくれて」

 悟られまいと息を潜めていたベレトに対し、バエルは千里眼さながらの皮肉を吐いた。額から石を吊り下げるように首が前傾すると、「落胆」を体現するのに全くもって齟齬がない姿勢をベレトは見せる。裏で糸を引く役目として事を構えるつもりでいた腹積りが、ご破産の憂き目を見た。こうなれば、顔を出す出さないの駆け引きに興じるのも馬鹿馬鹿しく、なかなかに身重な身体を引きずって、表舞台に上がる。
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